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第63話

「さあ、早速訓練じゃ。まず、君は体勢からしてなっとらん。体の使い方ももっと鍛えなければいけない」


 唐突に厳しい顔で言われ、私は少し戸惑ったものの受け入れた。

 それから、堂間さんにあれこれと指示をもらい、体の使い方を丁寧に変えていった。

 今までそれなりに綺麗な体勢を作れていたと思っていたが、どうも私には癖があったらしい。それらを一つ一つ直していくと、不思議なほど体の動かし方が洗練された。

 それから、今度は戦う際の避け方や動き方の癖についても教えてもらった。

 利き手を中心に動きを作っていることや、避けるときの重心移動が少し乱雑としていることなど。

 私は、無意識に次の攻撃が来るところを予想しているらしい。だから、攻撃の予測の精度を上げれば上げるほど強くなるのだとも言われた。

 色々なことを知ったおかげで、私は体の使い方がぐっとうまくなった気がする。

 体勢や重心移動の練習をしていると、あっという間にその日は終わった。





****





 次の日も堂間さんとの訓練だった。神藤さんは後ろから様子を見ている。ただ、基本的には何も言わない。

 体の使い方についてある程度知ったので、とにかくそれを体にしみこませる。


「四方八方から襲ってくる攻撃をどう避けるか、重心の位置と体勢に気をつけてやってみなさい」

「はい」


 私が頷いた途端、堂間さんと蔵田さん、二人から猛烈な攻撃が襲ってきた。

 ただ、私が避けられる程度にはしているらしく、初めの時よりも避けられる。おかげで考える余裕があった。

 体勢はこの状態をキープ、避けるときは重心の位置を保ったまま、こんな風に……!

 コツを掴んでしまえば、後は簡単だった。

 私が余裕そうなのを見てか、堂間さんが言う。


「もう少し速度を上げてみようかの」

「そうですね」


 蔵田さんもそれに答える。

 今度は先ほどよりもずっと速い攻撃が襲ってきた。しかし私は、感覚を研ぎ澄まし、頭の隅に体勢のことを入れておきながら躱していく。

 昨日よりも自分の動きが洗練されているのが分かる。昨日は無駄が多かった。咄嗟に避けていたから体の動きが乱雑だった。

 冷静にそう分析しながら、避けて避けてを繰り返す。

 くるりと回り、横へ移動し、下をくぐり、ジャンプして上を移動する。

 攻撃の速度がなんとなく分かってきた。見える。攻撃がいつ、どんな風に来るのか。

 ……ここだ。

 ぱっ、と私は蔵田さんの手を掴んだ。


「……っ!」

「ほぉ、なかなかやるの。さすが、わしが見込んだ子じゃ」


 攻撃がやみ、驚いたような表情の蔵田さんと目が合う。隣では感嘆した様子の堂間さんが。


「次は、もう少し速くしてもらえますか」

「いいぞ。じゃが、これ以上になると君は避けきれんかもしれん。当たりそうになったら寸前で止めておくが、当たっても怒らないでくれるかの?」

「もちろんです」


 痛いのは嫌だけど。

 それにしても、この人たちの本気ってどの程度なんだろう。見てみたいような、見てみたくないような。

 そんなことを考えていると、不意打ちで攻撃が迫ってきた。

 だが慌てることなく避ける。最小限の動きを意識して、なるべく重心を移動しすぎないようにして。

 先ほどよりも速い攻撃は、確かに私が避けるには厳しい。直感頼みにならざる終えないところがある。

 だが、かろうじて体勢を維持しながら、なんとか攻撃に対応する。右、斜め上、左、下、後ろ……例えるならゲームのような感覚だった。

 訓練生時代、四方八方からやってくる攻撃を避ける訓練もしてきた。だが、そのときは攻撃というか小石を避けるものだったし、おまけに速さもここまでじゃなかった。

 今はとにかく勘だ。勘を研ぎ澄ませ。

 ここだ、と思うところに的確に体を移動させていく。

 いけるんじゃないか、と思った。

 その瞬間だった。

 あれ、予想と違う……!

 咄嗟に避けたが、体勢がぶれた。まずい、焦ったせいで重心が定まってない。

 この隙を逃さず、一番弱いところに攻撃がやってくる。

 あ、これ、避けられないな。

 痛みを覚悟したが、なにもなかった。

 同時に、攻撃が終わった。


「良かった、ちゃんと止められた」


 蔵田さんの言葉にハッとする。

 当たらなくて良かった……と、私は安堵の息をもらした。

 ありがとうございます、蔵田さん。


「まあ、これで限界はなんとなく分かっただろう。あとはこの限界をいかに鍛えて伸ばしていくかじゃ」

「訓練あるのみですね」

「そうじゃな」


 私は真っ直ぐな目で堂間さんと蔵田さんを見る。


「絶対に今年中に、二人に勝てるようになります」


 それは一種の宣誓だった。

 二人はきょとんとした表情を浮かべたのち、顔を見合わせる。


「わしを超えるのは難しいぞ。蔵田も強いからのぉ、一年で君にできるかどうか」

「私にも、それは分かりませんが……でも、やるしかないので」


 そう言うと、堂間さんはそうかの、と目を伏せた。


「それなら、わしも容赦せんぞ」


 ギラリ。その目が途轍もない覇気を放った。私は一瞬、固まる。

 しかし、すぐに気を取り直して、その覇気を真正面から受け止めた。


「ぜひ、そうしてください」


 その方が、最短で強くなれる。

 私の覚悟を悟ったのか、堂間さんはその覇気をふっと沈めて笑った。


「それなら、とりあえず、お昼にしようかの」


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