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第61話

****



 週末。私は神藤さんに連れられ、謎の道場へやってきていた。

 地獄のトレーニングの日々をなんとか終えたと思った金曜の夜、届いたのはこんなLINE。

『明日は朝5時から道場へ行く。いつも通りの場所に朝4時40分に来い』

 道場とは、と思ったが、まあ会ってから聞けばいいかと思い、はいと返事して眠って迎えた今日。

 最近神藤さんのLINEを見返したら『はい』としか返信してないことに気づいたが、神藤さんはなんとも思ってなさそうなので、まあいいだろう。


「神藤さん、それで道場とは……」

「ここだ」


 神藤さんはレグラムの3D地図を見せてきて、ある場所を指さした。

 概要を見ると、古武術の道場となっている。

 なるほど、今日は古武術の稽古か……武術の稽古自体は、訓練生時代にかなりつけてもらっていたから、それなりにこなせる自信はある。

 私がやったのは柔道、空手、ボクシング、弓道、剣道の五つだ。古武術には柔道や弓道、剣道が含まれているだろうから、一から訓練漬けということはないはずだ。

 今日はまだマシかも、と希望を抱いて、私は言われたところへと神藤さんとともに転移した。

 目の前に現れたのは、古めかしくも立派な道場。


「ここにいるのは日本一の体術家だ……まあ認めるのは癪に障るが。君も学ぶところが多いだろう」

「えっ」


 神藤さんの言葉に、私は驚いて目を丸くした。

 いや、聞いてない。日本一なの?しかも肉弾戦?そんなにすごい人に教わるの?

 途端に恐怖が襲ってきたが、今更引き返すことなどできない。絶対に神藤さんに首根っこ捕まれて連れて行かれる。

 なので、私は仕方なく己の運命を受け入れる他なかった。よよよ、と泣きたい気分である。

 道場の中に入ると、そこでは、二人の人が今まさに戦っていた。

 驚くべきは互いに殺すような勢いで戦っていること。体には両者ともいくつもの痣が浮かんでいるが、それでも容赦なく攻撃し続けている。

 しかもその動きが途轍もない。無駄がない。パッと見ても最短の方法で攻撃して最善の力を出している。


「堂間さん、神藤です。いい加減戦うのをやめていただけませんか」


 やや不機嫌な様子の神藤さんが言った。

 えー、今さっき自分で日本一とか言った相手にそんな不遜な態度とっていいんですか。

 道場内に響いた神藤さんの言葉に、二人の動きがパタリと止まる。


「気づいてはおったが、存在を認めなくなかったもんでな。貴様の顔などもう二度と見ないと思っておったわ」


 辛辣だな。

 振り向いた推定60代後半の男性……堂間さんは、老獪といった様子でニヒルに笑った。

 堂間さんはやがて、不意に私に目線を移して微笑む。


「貴様か、神藤とバディを組んだという子は」

「は、はじめまして」


 私は緊張しながら一礼した。

 それを見て、堂間さんは目を丸くする。


「こりゃあえらい美人じゃ。しかも性格まで良さそうときた。かわいそうになあ、神藤と一緒ならさぞかし苦労するだろうに」

「あ、あははは……そんなことは……」


 めちゃくちゃあります。でも絶対言えない。

 隣にいる神藤さんがますます不機嫌になったので、私は引きつり笑いを浮かべた。

 しかし、神藤さんってなんていうか、もしかして……めちゃくちゃ嫌われてるのかもしれない。行く先々で哀れまれてるんだよね、私。

 まあ、この性格ならなぁ……と、私は心の中ですぐに納得した。

 神藤さんはいらだたしげに一言。


「堂間さん、私は常に最善の行動をしています。彼女が哀れまれる筋合いなどありません」

「さて、どうじゃろうな。まあいい。とりあえずこっちへ来い。わしの一番弟子を紹介してやる」


 堂間さんはそう言って、私を先ほど彼が戦っていた人の元へと連れて行った。

 その人を見て驚いた。2m近くあったからてっきり男かと思っていたが、よく見ると体は女性のものだったのだ。

 道着の上からでも分かるほど隆々とした筋肉は、均等についていて、しかもどちらかといえば実戦向きに見えた。

 普通、武道家は実戦のためではなく、武道という一つの競技のために体を鍛える。にもかかわらず彼女はそうではない。

 不思議に思ったが、ひとまず彼女に挨拶した。


「はじめまして。三浦史詩夏と申します」

「あー、蔵田理佐だ。よろしく」


 蔵田と名乗った彼女は、女性としては少しハスキーな声でそう答えた。

 短く切りそろえられた髪や、肩幅のある体格からしても、きっとよく見ないと女性だとは分からないだろう。

 私はこっそり彼女の性自認が気になりつつも、彼女にぺこりと礼をした。

 すると、彼女は頬を染めて軽く頭を下げた。


「理佐、今日はこの……ええと、名前なんじゃったっけ?」

「三浦です」


 私は気まずさを感じながら答えた。


「そうじゃ、三浦ちゃんと戦ってみなさい」

「「え」」


 私と蔵田さん、どちらからも素っ頓狂な声が上がった。


「でも、蔵田さんは超人ではないんですよね?」


 私は不安になって尋ねる。


「そうじゃ。だが、超能力さえなければ、実力は互角以上といってもいい」

「そんな人がいるとは思えませんが……」


 超人のフィジカルは常人の2~3倍ほど強い。その圧倒的な差を、しかも同性で覆すなんて不可能だ。

 疑わしげな目線を向けていると、神藤さんが私に言った。


「三浦、彼女は特殊だ。安心して戦え」

「はぁ……」


 特殊って、どういうことだろうか。

 疑問に思ったが、まあ神藤さんまでそう言うのなら、とりあえず戦ってみよう。

 私は落ち着いて戦闘態勢に入った。

 蔵田さんは眉を下げて、堂間さんを見る。


「一応聞きますけど、手加減はしなくて良いんすよね、師匠?」

「もちろんじゃ」


 なるほど、手加減か。超人相手にその言葉が出るのなら、やはり、何かあるのかもしれない。

 蔵田さんがこちらを向く。

 その瞬間、背筋に寒気が走った。

 ……なんだか嫌な予感がする。これは、本気でいかないとまずいかもしれない。


「では、はじめ!」


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