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閑話 深夜蓮という少年

***




 俺は昔からおっちょこちょいだった。

 勉強もスポーツも人並み以上にできる。だけどなんだか気が抜けたところがあって、何もないところで躓いたり、うっかり壁にぶつかったり。

 そのたびに周りの子たちには笑われたけど、俺はへらへら笑ってることしかできなかった。

 それなりに人に好かれる方だったと思う。男子にはスポーツや勉強ができるからという理由で尊敬されて、女子からは多分、見た目のことで好意を持たれた。

 正直自分ではこの顔の何が良いのかよく分からない。周りからよく言われる「甘くて爽やかな顔」というのは抽象的で、いまいちぴんとこない。

 俺は超人一家に生まれて、父さんも母さんも超人、おじいちゃんもおばあちゃんも超人、とずっと超人の家系だった。

 超人だからか、皆俺と容姿的には大して変わらない。皆周りからは美しいといわれるような顔で、だけど俺はそれに慣れていたからそれが普通だと思っていた。

 周りの子たちを見ても、皆それぞれ良さのある顔のように思えた。それが美しいとか美しくないとかっていう風に思うことは俺にはどうしてもできなくて、俺にとって顔はただ、その人の個性の一つというだけ。

 それを言ったら、周りからはなんだか異様に褒められてしまったけど。

 両親は共に戦闘隊員で、いつも忙しくしていた。だから俺は一人のことが多くて、家ではいつもおとなしくしていた。

 友達がいたから、一緒にサッカーしたりゲームしたりして、そんなに退屈なことはなかった。だけど、時々悲しいことがあると、誰にも相談できないのがつらかった。

 周りは皆、どこか俺に距離をとっていた。多分、それは俺が超人だからだ。皆、俺を心の中で、自分とは違う何かだと思っている。そんな気がした。

 俺は距離があることが分かっていたから、自分の心の奥底の気持ちは、普段遊ぶ子にも全く伝えなかった。

 ただ生ぬるい、中途半端な友達関係。

 8歳のときに、俺は訓練所に入った。超人として訓練を受け始めた。

 同期は二人いるらしい。どっちも女子だと聞いた。

 俺は内心、少しだけ不安だった。今まで、女子は大抵俺のことが好きになる。同期だったらこれからも付き合っていかなきゃいけないだろうし、面倒なことにはなりたくなかった。

 今思えばませた子供だったと思う。でも、予想に反して、二人は全く俺のことは眼中にないようだった。

 逆に、俺の方が、そのうちの一人に夢中になった。

 初めて史詩夏を見たとき、衝撃のあまり思わず目を疑った。美しいとかよく分からなかった俺からしても、彼女は紛れもなく「美しい」人だった。

 艶めく黒髪。大きな瞳。高い鼻筋と薄い唇。しゅっと尖った顎に細い首、そして腕、足まで、細くしなやかでどこを見ても綺麗という言葉が浮かんだ。

 史詩夏はクールなタイプだった。あまり話さず、馴れ合わず、自分の訓練に没頭していた。

 一方、もう一人の同期の茜は、明るく面倒見がよく、俺ともよく話した。

 茜は史詩夏に対抗心を燃やしているらしい。茜曰く、今まで同世代で自分以上に強い人なんていなかったから、負けたくらしい。

 そんなわけで、茜は俺のことなんて全く好きになる気配がなく、俺も茜と話すのは気が楽だった。

 気になっていたのは史詩夏のことだ。史詩夏は猛烈なスピードで試験を突破し、あっという間に俺たちよりずっと先のグレードまで上っていった。

 俺たちが悪戦苦闘する試験も難なくこなしていく姿は、それこそ本物の超人のように見えた。

 俺はしばらくの間、史詩夏のことが怖かった。静かでほとんど話さないし、見た目も氷の女王のようだから、俺たちのことを内心で嫌っているんじゃないかと思っていたのだ。

 だが、話すのを足踏みする俺を尻目に、茜は史詩夏によく突っかかっていた。史詩夏はそのたびに戸惑ったような顔をして、しかし確実に茜をこてんぱんにしていた。

 俺は中学に入った。中学に入っても相変わらずだった。俺は誰とも深い関係にはなれなかった。

 女子からはよく告白された。好きだ、付き合いたい、かっこいいと思ってて。

 でも、皆なんでそんな風に思えるんだろう。俺は別にその子たちに何もしていない。ただ向こうが勝手に俺のことをあれこれ決めつけて、理想を押しつけてるだけだ。

 友達にはうらやましいやつだなんだと言われたけど、俺は全然嬉しくなかった。本当の俺のことなんて誰も知らないのに、よく好きだとか言えるなと思っていた。

 俺は告白を全て断った。面倒なことになりたくなかった。だけど、断ると彼女たちは泣く。それが嫌だった。付き合ってあげた方が良いんじゃないかと思うこともあった。

 俺はおっちょこちょいだったから、女子はそういうところを助けてあげたい、みたいに思うらしい。甲斐甲斐しく世話を焼いてきてくれる子もいた。

 はじめは嬉しかった。純粋に優しくしてもらえてるんだと思ったから。

 でも、すぐにその目が俺のことを異性として見ている目だと気づいた。案の定、誰も彼も結局は付き合いたいと言ってきた。

 俺は優しく全部の告白を断った。ただ友達のままでいたいと言った。だが、彼女たちはそれではだめらしい。特別になれないんだったら側にいたくないと言われ、そういうものなのかと思った。

 一年の終わりには、皆俺に告白しても無駄だと気づいたらしい。告白してくる人はほとんどいなくなっていた。

 俺はだから、ただへらへら笑って、男子とほどよくいい関係を築けるようになった。

 その頃には、史詩夏は最年少戦闘隊員になるんじゃないかと噂されていた。前例のないほどの速いスピードで試験を突破していたのだ。

 俺はある試験で躓いていた。いつまで経ってもできず、茜もできていなかったので助けてくれる人がいなかった。

 さすがにそろそろやりたいと思っていた俺は、勇気を出して、史詩夏に聞いてみることにした。

 訓練場でひたすら年上の訓練生相手に戦っていた史詩夏に、俺はタイミングを見計らって話しかけた。


「あの、三浦さん、ちょっといい?」

「あ……はい。どうしましたか」


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