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第58話

 その言葉に、ぞろぞろとおじさんおばさんたちが立ち上がる。

 神藤さんも立ち上がった。


「帰るぞ」

「はい……」


 私は肩に重いものを感じながら、鈍い動きで立ち上がった。


「早く転移しろ」


 神藤さんがそう私をせかすので、私ははいはいと転移、と言おうとして……。


「あ、待ってください。その前に、本部を見学してきても良いですか?」

「……なぜだ?」


 いや、そんな心底意味が分からないみたいな顔しないでくださいよ。

 私は少し唇を尖らせながら言った。


「見たいんですよ、本部。なんせ来られる機会もほとんどありませんし」


 その言葉に、神藤さんはしかし依然として釈然としない表情を浮かべる。


「しかし君は以前ここに呼ばれたことがあると聞いたが?そのときに十分見ただろう」

「いやいや、あのときは新人すぎて本部を見る余裕なんてなかったんです。とにかく、神藤さんは玄関あたりで待っていてください。10分くらいで行きますから」


 そう言って扉に向かって先に歩き出すと、神藤さんは眉をひそめて一言。


「……私は10分しか待たないからな」

「分かりました。ありがとうございます」


 それで十分ですとも。

 私は素直に感謝を伝えて、会議室を出た。

 ガラス張りの廊下は美しく光を取り込み、時折植物が置かれてボタニカルな雰囲気を醸し出している。

 時折ホワイトボードが置かれ、定例会議や重要な報告について書かれていた。

 うきうきした気持ちで階段を降りる。今度は司令室や管理室が立ち並ぶエリアだ。どこも閉まっていて中の様子は分からない。

 不意に、その中の扉の一つが開いた。

 中から出てきたのは、20代くらいのまだ若い男性。

 彼はなぜか、私を見るなりわっと声を上げた。


「君!三浦史詩夏さんだよね!?」

「そ、そうですけど……」


 私はその勢いに気圧されながらもなんとか答えた。

 彼は目をキラキラと輝かせて、エネルギッシュに言う。


「うぉーー!すご、こんにちは!俺、元神藤さん担当のマネージャーの、広田浩介です!いやー、一度お目にかかってみたいと思ってたんですよ!」

「は、はあ……」


 差し出された手を握ると、力強く握り返せてぶんぶん振られる。

 おぉ……すごい元気だな。


「神藤さん、最近どうですか?」


 広田さんは少し声を潜めてそう尋ねてきた。


「鬼畜です」


 私は先ほどの様子を思い出して即答した。それ以外にないでしょ、あの人のことを形容する言葉なんて。

 ああいや、あるか。宇宙人、サイコパス、メンヘラ、鬼。

 うーん、ろくなもんじゃないな。


「そうですか……やっぱり、三浦さん相手でもそんな感じなんですね」

「と、いうことは……?」

「俺も、めちゃくちゃ絞られてきた人間なんで、よーく分かります」

「おお!」


 私は今度は自分から手を差し出した。広田さんも私の手を握る。

 そのとき、多分、私たちの気持ちは一つだったんじゃないかと思う。

 同士が、いた……と。


「いやでも、俺だけじゃなくて、神藤さんと関わったことがある人は全員、神藤さんのこと鬼畜だと思ってますよ」

「え、そうなんですか」

「そりゃあそうでしょう」


 広田さんは当然のように頷いた。

 まあ、そりゃあそうか。そうなんですかって、思う方がおかしかったな。うん。

 私も頷く。


「そうだ、私以外にも、三浦さんに会いたいと言っていた人がいるんですよ。一階に行けば多分会えると思いますし、行ってみませんか?」

「ああ、ぜひぜひ」


 喜んでついて行きますとも。

 そういうわけで、私たちは一階へと降りていった。

 一階はどうやら、普通の駐在署のようになっているらしい。キューブ交換課や労災課などがあった。

 広田さんはきょろきょろと周囲を見回した後、あっ!と声を上げてある美しい人のところへ行く。


「おーい!水島さん!」

「ああ、広田さん……と、そこにいるのはまさか……あの!」


 私を見た瞬間、彼女は目を爛々ときらめかせてこちらへ駆けてきた。

 ちょ、ちょっと勢いが強すぎて怖い。

 

「こ、こんにちは」


 なんとか言葉を絞り出して挨拶する。

 水島さんと呼ばれた彼女は、その天女のようなかんばせに満面の笑顔を浮かべて私に話しかけてきた。


「こんにちは!初めまして、三浦史詩夏さんよね?」

「は……い」

「私、神藤さんの後輩の、水島紀子って言うの。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」


 今度は神藤さんの後輩か。すごいな、どんどん神藤さん関連の知り合いが増えていく。

 水島さんは例えるなら両家のお嬢様のような上品優美な雰囲気で、しかしそれに似合わぬ勢いで私に話し始めた。


「神藤さんとバディを組んでみてどう?あの人、今まで一度もバディなんて組んでこなかったのよ!それが急に、しかも相手は21も年下だって聞いて、私たちとっても驚いたんだから!」

「な、なるほど」


 そうか。神藤さんも私も、お互いがバ

ディ初体験だったのか。

 そりゃあ、神藤さんの周りの人たちは驚くよな。私だってめちゃくちゃ驚いたんだから。

 水島さんはその後も、電光石火の勢いで言葉をまくし立てる。


「神藤さんってあの性格でしょ?バディになる子はとんでもなく可哀想だよねって皆で話してたの。悩みとかあったら言ってね!いっぱい聞くわ!」

「あ、ありがとうございます」


 とんでもなく可哀想って、いやまあその通りだけども。


「そうだ、連絡先交換しましょう!」

「え、はい……」


 そうして、みるみるうちに私は水島さんと連絡先を交換してしまっていた。

 今まで、連絡先を交換してる相手なんて、家族と茜と神藤さんくらいしかいなかったのに……。

 勢いに飲まれて断れなかったが、増えた連絡先に嬉しいような戸惑うような。


「大変だろうけど、頑張ってね!」

「そうですよ!三浦さん、ファイトです!」


 水島さんと広田さん、両方から激励され、私はとりあえず「は、はい」とどもりながら答えた。

 ふとレグラムを見ると、ちょうど10分経っていた。

 私は慌てて、「すみません、もう行きます!」と言って二人に別れを告げた。


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