第56話
周囲は私の発言に思考を巡らせているのか、なにか話す気配もない。
そのとき、今まで黙りこくっていた神藤さんが、突如話を始めた。
「仮に、君の仮説が正しかったとして。その天城とやらを助け出すまでは、タルタロスに危険度A+を封印しないつもりか?危険度A+を倒せる最も安全な手段が現状タルタロスしかない以上、タルタロスを使わないということは不可能だぞ」
う、痛いところつかれた。
神藤さん、私の味方じゃないんですか?
私はキリキリと胃が痛むのを感じながら、神藤さんの質問に答える。
「もちろん、神藤さんの言うとおり、タルタロスを使わないなんてことは合理的ではないです。ですが、だからといって、助けられるかもしれない命を無視するつもりですか?」
「危険度A+を封印しない方がもっと死者が出る。その責任を君は負えるのか?」
「天城さんたちを助けられれば、その後もっと多くの人たちを助けられるかもしれません。それに、人の命を天秤にかけるようなことは倫理的に許容されるべきではありません」
激しい議論が続く。神藤さんは1歩も引き下がる気配がない。私は内心冷や汗をかきながらもなんとか神藤さんに納得させようと言葉を絞った。
「倫理など知ったことか。君のせいで何百万人が死ぬことになったら、君は死んでも償いきれないんだぞ」
「まあまあ、お二人とも落ち着いてください」
私たちのヒートアップした議論を止めたのは、木曽さんだった。
木曽さんは私たちを見て、一言。
「まず、タルタロスを使わないということはしません。ですが、ERSに相談して、三浦さんの仮説が正しいか速やかに実証してもらいます。そしてもし……仮説が正しければ、危険度A+が次に見つかるまでの間に、できる限り彼らを亜空間から助け出せる道を探しましょう。良いですか?」
まあ、それなら納得できるな。良い折衷案だ。
私ははい、と頷いた。
神藤さんは不満げな様子ではあったが、しぶしぶといったように頷く。
木曽さん、やっぱり司会を任されるだけあって、まとめるのがうまいな。私は素直に彼への評価を変えた。思った以上に、この人は優秀なのかもしれない。まあ、この人の息子は聞く限りぼんくらだが。
話がまとまったので、木曽さんは次の話に移った。
「次に、アラストルについて説明します。アラストルはタルタロスによって封印された危険度A+を内部で封印解除した上で即座に高レベル放射線によって殺す兵器です」
放射線……!それだと北硫黄島はかなり危険になるんじゃないだろうか?
「よってアラストルにタルタロスを投げてから5分以内に投げた人は北硫黄島から離れなければいけません。危険度A+を殺すまでの時間は推定30分。それから丸一週間は北硫黄島には近づけず、タルタロスの回収はそれ以降になります」
5分以内にって……それって、私がいないと事実上不可能では?北硫黄島がどの程度の広さか知らないが、5分で移動できる最大距離は超人でも頑張って5㎞程度。そして島と言っているのだから、例え島から出られたとしてもその先は海だ。そこから泳いで移動なんていくらなんでもキツすぎる。
嫌な予感がどんどん膨らんでいく。これってもしかしなくても、いや絶対に、私は投げる役ですよね?
なんて、とても口には出せないけど。
「アラストルは横10m、縦30m、高さ15mの巨大な兵器です。この中で、タルタロスを投げる部分は中心部の逆円錐形に穴が空いた空間です。投げて右にあるボタンを二度押すと、アラストルが作動し、高レベル放射線が放出されます」
おお……すごい大きい。そして滅茶苦茶デンジャラス。嫌だなぁ、私、そんなものを使う羽目になるのか……。
どんどん気分が落ち込んでいくのを感じながら、私は木曽さんの話に耳を傾けた。
「アラストルはタルタロスのような数量制限はないですが、作るために国家予算規模の出費がかかるため、絶対に壊さないでください」
な、なんか私たちの方を見てるな、木曽さん。分かりました、よーく分かりましたから。でも、やっぱり私って投げ要員……。
「アラストルについての説明は以上です。質問はありますか?」
今度は誰も手を挙げなかった。
木曽さんは暫く周囲の様子を伺った後、再び話し始める。
「では、続いて、作戦の内容について説明します」
作戦……いよいよ今回の会議の核心に迫る話だ。
私は居住まいを正して真剣に話を聞いた。
「今回の作戦では、神藤さんと三浦さんが大きな役目を担うことになります」
まあ、そうですよね。
特に驚きもなく、私は頷く。神藤さんは厳しい顔のまま何も言わない。
「神藤さんと三浦さんには、バディとして全国を回りながら危険度A+を速やかに発見し、発見次第タルタロスによる可及的速やかな封印をしてもらいます。封印次第即座に三浦さんの能力によって北硫黄島へ転移、1時間以内にタルタロスをアラストルに投げて5分以内に北硫黄島から脱出してもらいます」
ふーむ。概ね想定通りのことを言われたな。そうだろうなというような。
神藤さんはこのことをあらかじめ知っていたのだろうか?気になったが、今は聞くタイミングじゃないので黙っておく。
かなり危険な役を任されたな、というのが正直な感想だ。これは、私たちが危険度A+との戦闘の最前線に置かれるということを意味しているのだから。
私は恐らく神藤さんのサポート兼転移役。だが、神藤さん一人で危険度A+を倒せない以上、私もかなり戦闘しなければならないかもしれない。もちろん、神藤さんの足を引っ張らない程度に。
「これについて、神藤さん、三浦さんから異論はありますか?」
突然話を振られて驚いたが、とりあえず私は神藤さんがどう出るか見た。
案の定、神藤さんは口を開いた。
「まず、概ね私の意見が反映されていることには感謝します。今回の件は以前から私も注目していました。タルタロスとアラストルの実現は私にとっても非常に喜ばしいことです。件の北海道危険度A+災害のような悲劇が再び起こらないようにするためにも、この兵器は必須ですからね」
しかし、と神藤さんは話の方向を転換させた。
「ハッキリ言って、今の三浦と私の実力では、危険度A+の封印は不可能に近いです」




