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第54話


 視界が切り替わり、目に入ったのは殺風景な会議室内だった。既に二、三人が席に座っている。そのうち一人は私たちが突然現れたのを見て、ぎょっと目を見開いた。

 神藤さんはその人を見つけるや否や、やけに妖艶な笑みでその人に近づいていく。


「あ、あ、神藤さん……」


 その人……見た目的には神藤さんより20歳ほどは年上そうなくたびれたおじさん……は、神藤さんが一歩近づくごとに顔を青くしていく。


「今回はおたくの無能な部下がやらかしてくれたようですが、それについての謝罪は?」

「し、しかし、部下には私からきちんと、丁重に、神藤さんにお伝えするようにと言いつけていたんです」

「それなのに伝え忘れるような部下なら、今すぐクビにすべきでは?それともやはり、自分の息子だから甘やかしたいんですか?」

「そ、それは……」


 こ、怖……。滅茶苦茶問い詰めてるじゃん。魔王降臨してるじゃん。

 しかし内容を聞いてみると、一応正論を言っているのは神藤さんのようだ。うーん、ここは静観すべきか。どうせ私が割って入っても怒られるだけだしな。

 おじさんはきょろきょろを周りを見回した。そして、私と目が合う。

 その顔ときたら、天啓を授かったかのようなものだった。


「そ、それより、そこにいらっしゃるのは噂の三浦史詩夏さんですか!いやー、聞いてはいたけどやはり若いですね!これだけ年の差があればバディを組むのも大変でしょう」


 わ、私を巻き込まないでください。見事な話題逸らしだし。


「話を逸らさないでいただけますか」


 すごい。神藤さんが絶対零度の視線を浴びせている。威圧感がこの距離でも滅茶苦茶ある。


「ひぇっ!とととにかく、三浦さんとあなたがバディを組むことに対して、懐疑的な方も多いんですよ。あなたが珍しく自分から提案したことですから、尚更」


 思わぬ台詞に、私は思わず目を見開いた。

 私とバディを組もうと言ったのは神藤さんなのか?てっきり上層部が無理矢理組ませたのかと思っていたが。


「そのことについては、私から上層部の皆さんにメリットを充分に説明しましたよね?今回の会議の件と合わせて考えても、私一人に全ての仕事が集中するのは脆弱でしかないんですよ」

「い、いえいえ、それはもちろん私たちも分かっていますし、今更変えようという気はありません。ですが、三浦史詩夏さんはまだ若い。世間では、あなたが三浦史詩夏さんに良からぬことを考えてバディを組んだなどという話も広まっているんですよ」


 なにそれ。聞いたことないんですけども。

 私に良からぬこと?それはつまり、ロリコンの性犯罪的なことか?いやいや、神藤さんがそんなことするタイプなわけがないだろう。どう考えてもロリコンとは対極にいる人だぞ。

 しかし、まあそんな噂が広まらないとも言い切れない。だって神藤さんは37歳。私は16歳。年齢差21歳のバディは異例だ。しかも男女ペア。神藤さんは見た目は若作りだから私たちの仲を詮索する人もいなかったわけではない。奈江子さん辺りは自分の方が年が近いと恐怖していたし。

 とはいえ神藤さんが私に手を出したら犯罪である。おもいっきり犯罪である。神藤さんは犯罪を犯さないように(主に殺人をしないように)日頃から必死で耐えているような人なので、せっかく守ってきたものを壊してまで私に手を出すとは思えない。

 噂というのは大抵、なにも知らない人が騒ぐものだよな……などとしみじみ思っていると、スタスタと近寄ってきた神藤さんにむんずと手を掴まれた。


「このちんちくりんに、私がどう欲情しろと?」

「ちんちくりんって……」

「な、なにも欲情とまでは……」


 このおじさんのせいで私までダメージを食らう羽目になったじゃないか。やめてほしい。

 しかし、神藤さんは止まらない。進撃の神藤さん化している。


「あなたがおっしゃりたいのはそういうことでしょう。悪いが、私は無性愛者だ。それに女に困る質でもない」

「……はは、大層自信がおありのようですな」


 おじさんは引きつり笑いで、なんとか言葉を絞り出していた。

 私としては色んな意味で衝撃である。無性愛者だとか女に困らないだとか、まあ確かに納得はできるが……。

 しかし、いくらこの顔でも、この性格じゃ女の人は寄ってこない気がする。まあ、収入と顔さえ良ければなんでも許せる人も世の中にはいるのかもしれない。私は絶対こんな人嫌だが。

 人が増えてきたので、神藤さんは舌打ちをかましながらも、とりあえずおじさんから離れた。

 そのまま大人しくしていてほしい。バディの私がいらん注目を集める羽目になるので。

 神藤さんはちらりと私を見た後、何もいわず真っ直ぐ会議室の一番前の席に座る。そこって重役とかが座る場所では……?と思いつつ、私は神藤さんについていく。


「私はどこに座れば良いですか」

「私の隣に座れ」

「はい」


 言われたとおり、大人しく席に座る。なんだか周囲の目が痛い気がするが、気のせいだと信じたい。

 それからしばらく席に座っていると、ぞろぞろとなんだか偉そうな人たちがやってきた。彼らは一様に私たちを見ては目をぎょっとさせ、物言いたげにこちらに視線を寄越していた。本当に怖い。

 全ての席が埋まり、とうとう開始時刻になった。

 その途端、先ほど神藤さんと話していたおじさんが立ち上がる。


「では、これより、危険度A+新対策緊急会議を始めます。本日の司会は、私、木曽憲雄が行います」


 ぱちぱちぱち、と拍手が上がる。

 神藤さんは微動だにしなかったが、私は気まずかったので一応拍手した。


「まず、議題をお伝えする前に、一つだけ。今回の会議は極秘会議です。本会議内で話す情報は全て機密情報扱いとなります。よってメモやレコーディングは不可、許可なしに本会議で出た情報を口外することは禁止となります」


 えぇ……なにそれ、初耳なんですが。

 そんな大事な会議なの?え、私いていいの?

 不安になってきたが、隣の神藤さんを見ても、神藤さんは真顔でなにやら考えている様子。私のことなど眼中になさそうだ。

 いたたまれない気持ちになりながら、私はなるべく気配を殺すことを決めた。


「では、次に本会議の議題を伝えます。議題は先日正式に実用化のめどが立った、新兵器タルタロスとアラストルを用いた新しい危険度A+対抗策の推進です」




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