第50話
*****
神藤さんとの任務もそれなりに板についてきたと思う。
神藤さんは相変わらず頭がおかしいというか、ここまでくるとメンヘラ?のような様子を見せてきているが。
「遅い。転移できるなら私より早く来るべきだろう。なぜできない?」
「すみません。でも待ち合わせ時間の五分前には来てるし良いじゃないですか」
「まあいい。早く転移しろ」
神藤さんは相変わらずふんぞり返った態度でそう言った。
なんというか、理不尽な人だ。だが、こういうことを言わない日もあるため、今日は恐らく機嫌が悪い日なのだろう。
この人のことで、私は気づいたことがある。意外とこの人は感情の起伏が激しい。アンガーマネジメントが下手くそなのだ。
そうして、怒りの矛先は大抵私に向く。嫌すぎる。
「転移」
移動した先は、街中の裏路地。
「あれか。危険度B-は」
そこにいたのは、生ゴミをつつくカラスだ。カラスは知性が高いので、稀にB-くらいになることがある。
神藤さんはカラスを見るや否や、カラスが反応する間もなく近づいてその体を長剣で貫いた。
呆気なく消えるエミュレイターセンサー。黒い血が流れ、カラスは事切れたようだった。
私は素早くカラスにキューブをぶつけて回収する。
「次の場所へ行くぞ」
「はい」
転移、と呟いて、今度は山の中。
「ついてこい」
そう言うや否や、神藤さんは猛烈なスピードでどこかへと走り出した。私も慌てて後を追う。しかし早いな。まあ、見失わなければ良いのだが。
私が神藤さんに追いついたときには、神藤さんは既にイノシシ型エミュレイターを剣で切り裂いた後だった。
私は再びキューブをぶつける。その繰り返しだ。
神藤さんは意外にも、能力を使うことは滅多にない。使わなくても問題なければ使わないという感じだ。まあ、今日は機嫌が悪いので、そのストレス発散でより直接的な攻撃が多くなっているみたいだが。
能力を使うのは危険度Aクラスだ。稀にちょっと面倒な危険度B+にも使う。
私はただその後を引っ付いて、殺されたエミュレイターを回収するのみである。
そうやって転移、討伐、転移、討伐……と繰り返し、一時間ほどであっという間に北海道の任務全てを終わらせた。
「じゃあ、次は本州へ行くぞ」
「はい」
転移した先は新潟県。ここに危険度Aが出たらしい。
ちなみに、以前危険度Aは五年に一度程度しか出ないと言ったが、それはあくまで北海道では、という意味だ。ひとつの都道府県辺りに出る頻度が大雑把に言うとそのくらいなので、意外と全国的に見ると、危険度Aは毎年出ている。大体二ヶ月に1回程度の頻度である。
私は危険度Aと聞く度に、あの日の月見先輩のことを思い出してしまう。月見先輩を奪ったあの危険度Aも、神藤さんにかかれば即殺だっただろう。いや、そもそも、倒せたはずの敵だ。全員の力があれば……月見先輩が、戻らなければ。
そして、その原因を作ったのは私だ。私が月見先輩を殺したようなものだ。そう思う度、自分の罪の重さに耐えきれなくなる。
だが、その罪を償うためには、月見先輩の分まで生きるしかない。だから、そのために、私は強くなりたい。
「こっちだな」
神藤さんは迷いなく街の中を進んでいく。
人型だと聞いていた。人型は見つけづらい。エミュレイターセンサーからして、もう目視できる距離にはいるはずだが、私には分からない。
だが、神藤さんはその辺のセンサーの感度が私より鋭いらしい。ずんずん進んでいき、ある人の腕をぱっと掴む。
「な、なんですか。ッう、………」
その人は途端に真顔になり、虚ろな瞳で神藤さんを見た。
「私についてこい。ここでは人目につくからな」
神藤さんがそう言って歩き出すと、その人も静かに歩き出す。
分かってはいるが、本当に恐ろしい力だ。
神藤さんは路地裏にその人を連れてくると、指先ほどの大きさのナイフを取り出し、その人の手首を切る。
途端に黒い血が溢れ出した。エミュレイターだ。
それを確認した瞬間、神藤さんは厳粛に言った。
「自害しろ」
途端、エミュレイターは自身の核を無理矢理手で皮膚を引き裂いて取り出し、ぐしゃりと粉々に破壊する。
黒い血が噴出し、エミュレイターはばたりと倒れる。同時にセンサーの反応も消えた。
呆気ない。人を10人は殺したであろうエミュレイターが、こんなにもあっさりと死ぬなんて。
死体にキューブをぶつけつつ、私は神藤さんを見た。
「神藤さんって、全部じゃなくとも、今すぐ日本にいるエミュレイターの何体かはランダムに殺せるでしょう?別にわざわざ直接殺す必要なんてなさそうですが」
私が尋ねると、神藤さんはあっけらかんと答えた。
「それだと死体の後処理に困るだろう。それに、街中で突然人の形をしたものが自殺したら大騒ぎだ」
「まあ、確かにそうですけど。危険度Fくらいなら大半が虫ですから放置しても問題ないですが、大きな生き物の死体は放置すると迷惑がかかりますもんね」
エミュレイターの死体は、腐敗とはまた違う形で有害なものになる。もちろん羽虫程度の大きさならなんの影響もないが、うさぎほどの大きさあたりから、放置すると周囲を汚染する。
「君に死体探しを頼むのも悪くないが、それなりに骨が折れるだろうしな。なんせセンサーに反応しないのだから」
「となると、やっぱりこの形が最適なんですね……」
はぁ……とため息をつく。私はただ神藤さんについていくだけでバディとして成果が増えるし、おいしいっちゃおいしい。
だが、ただ神藤さんについていくだけなのは普通に退屈だし、倒せるなら私は私で敵を倒したいと思ってしまう。こういうところがバディ不適格として今まで認められてこなかった由縁なのは自覚しているが、私はそういう質なのだ。
「なんだ、不満があるなら言いたまえ。聞いてやってもいい」
神藤さんは私の様子が気になったのか、そんなことを聞いてきた。
「もっと効率の良いやり方がないものかと思いまして」
「そうだな。君が離れたところにいても私の位置を把握し転移させられるなら、別に常に一緒にいる必要はない」
「ハッ、GPS……!?」
なにそのメンヘラ彼女みたいなやり方。でも、確かにそれをすれば、個別に動くことも可能になるな。
希望が見えた……!と顔をあげたところで、神藤さんが口を開いた。
「しかし君の場合、直接見ていないと綺麗にそのものだけ移動させるのではなく、付近の余計なものまで一緒に移動させるのではないか?」
「否定できませんね」
直接見ていなかったら、正確に把握しづらいのは確かだ。
「うっかりと言って指一本置いて行かれても困るのでな。これ以外のやり方は今のところなさそうだ」
「そうかぁ……」
再びガックリ肩を落とす。
仕方ない。これからもこの生活は続くみたいだ。
「まあ、そう気落ちするな。何が気に入らないのか分からないが、もし私ばかり倒していることが気に入らないのなら、君に戦闘を譲っても良いんだぞ」
「いえ、私がしたら神藤さんの2倍か3倍の時間がかかるので、いいです」
私がやって更に効率が落ちるのは嫌だ。ただの腰巾着でいるよりも嫌だ。
だが、神藤さんは長い睫毛を伏せて言った。
「しかし、君の実力が上がらないのも考え物だ。やはり実践は大事だしな。よし、では次の任務は君に任せよう。危険度B+の討伐任務だ」
「えっ、決定事項ですか?」
「私が言ったのだからそうに決まっているだろう」
本当にこの人はどこの王様だと言いたくなるような態度だ。しかし、事実日本の戦闘隊員の王様のような存在ではある。その尊大な態度に怒るだけの実力は私にはない。
仕方ない。私は転移、と呟いた。




