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第49話

「べ、別にないわよ!そんなこと」

「怪しい……」

「ほ、本当にないから!」


 私のじとっとした目線に、茜はすっぱいものを食べたみたいな顔をして必死に何もないと言い張る。

 丁度、ウェイターさんが私の分のアラビアータと茜のサラダを届けてくれた。


「どうぞ」

「ああ、ありがとうございます」

「あっ、ありがとうございます」


 中断された会話に、茜は明らかに助かった……という顔を浮かべる。

 仕方ない。ここまで聞いても答えてくれないのだ。これ以上詮索するのは良くない。私はあっさり引いて、気分をアラビアータに切り替えた。


「アラビアータ、おいしそうね」

「そうだね。一口食べてみる?」

「いや、良いわよ。私はあげてないんだし」


 そういえば、茜はもう既に食べ終わっていた。


「気にしなくて良いよ。ほら、食べて」

「う、うん」


 フォークを差し出すと、茜はおずおずとアラビアータを口に運んだ。


「どう?」

「おいしいわ」

「良かった。私も食べてみるね」


 そう言って一口、ぱくりと食べる。

 うん、おいしい。感動するほどのおいしさではないけれど、この値段としては量も味も破格だ。こんなに安くておいしいなんて、そりゃあ人気なのも頷ける。

 茜も自分のサラダを食べ始める。

 それから、私たちは学校のことや、任務のことなどを話した。


「史詩夏、神藤さんとバディを組んだんでしょ?すごすぎて聞いたときは開いた口が塞がらなかったわ」

「でも、成り行きみたいなものだから」


 茜の言葉に、私はそんなに凄くないと答える。


「神藤さんってどんな人なの?」

「変な人」


 即答した。もう、それ以外にいう言葉がない。あの人を形容する言葉は、強いか怖いか頭おかしいだ。


「えっ、それって大丈夫なの?」


 茜は心配そうに尋ねてきた。


「優秀な人だから、頭はおかしいけど信頼はできるよ。まあ、たまに本当に理解できないこと言うけど」

「史詩夏が良いなら良いけど……」


 そう言いつつ、茜はどんな人か更に気になったらしい。あれこれと神藤さんとのエピソードを聞いてくる。


「そもそも21歳差なんでしょ?価値観の違いとかないの?」


 あれ、そういえば、そのくらいの年齢差だったか。神藤さんは見た目が若いので年齢がよく分からない。だが、確かに思い返してみると、今37歳とかだった気がする。


「あるけど、多分、その違いは年齢差が関係してるわけじゃないと思う」


 私は絶対にあの人の元の気質がおかしいんだと確信している。


「そう。頭がおかしいって、具体的にどんなところが?」

「自分を拒絶する人を殺そうとする」

「えっ?なんて?」

「自分を拒絶する人を殺そうとする」


 茜は絶句したように目と口をかっ開いた。うん、まあ、そういう反応になるよね。普通。


「こ、殺そうとするの?本当に?」

「うん。本気かどうかは知らないけど、少なくとも殺気は出してた」

「それは確かに頭おかしい人ね」


 茜がそう言うので、私はうんうんと頷く。本当にその通りである。

 神藤さんの頭おかしいエピソードは話せば枚挙に暇がない。突然後ろから私に斬りかかってきて、「反応速度はまあまあだな」と言ったり、現れた危険度B+に「弱い。私の目の前に現れるな端役が」と速攻で自害させたり。

 どうも、神藤さんは弱い者が嫌いなようである。そのため、弱いと見ると怒りを露わにし、すぐに殺す。エミュレイターは殺せるのでまだ良いと思っていそうだ。普通の人間などを見ると、弱いのに生かす意味とはとしばしば私に聞いてくる。本当に頭がおかしい。

 そんな神藤さんだが、実力は折り紙付きである。その強さは本当に見ていて圧巻としか言いようがない。

 そして、稽古をつけてもらう度に、私の実力が伸びていくのを感じる。

 だから、正直理解は全くできないが、信頼はしている。神藤さんなら並の相手なら即殺できるという安心感がすごい。


「へぇー、でも、神藤さんってやっぱり強いのね」

「強いよ。私なんて即負けるレベルで強いよ」

「まあ、史詩夏の能力とは相性が微妙だしね。転移しても意味がない能力ではあるし」

「私、あの能力に対抗できる能力なんて、早々思いつかないかも」

「そうねえ、何かしら」


 二人で考えてみるが、いまいち思いつかない。

 それこそ攻撃反射みたいに、受けた攻撃をそのまま相手へ反射させるような能力であれば、もしかすると支配も反射させられるかもしれない。

 あとは、同じ支配の能力なら、実力によっては勝てるだろう。

 その後、エスカルゴとティラミスも来たので、私はそれらに舌鼓を打ちながら会話を楽しんだ。

 満腹になるまで食べ終えて、会計に進む。


「会計は別々で」

「かしこまりました」


 それぞれ自分の分を払い、店を出た。


「はーっ、楽しかった!」

「うん、今日はありがとう」

「こちらこそ。また遊ぼうね」

「また誘ってくれるなら」

「当たり前でしょ!嫌っていうほど誘うわ!」


 あははは、と笑い合い、そのまま別れる。

 真昼の空は晴れ渡り、風は穏やかで、雪は溶け始めている。キラキラと光る雪を見ながら、私はのんびりと帰路についた。






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