第47話
呆然と互いに顔を見合わせる。
深夜くんは今日は私服だ。白のトレーナーに黒のダボッとしたズボン。今時の男子中学生という感じで、なんというか、遠い人のようだ。
「どうしたの、こんなところで」
「茜に誘われて」
「あ、そうなんだ……」
深夜くんは少し怪訝な表情を浮かべる。
そうか。深夜くんは私が茜と仲良くなったことを知らないんだ。そりゃあ、こんな反応になるに決まっている。
「その、色々あってね。よく話すようになったの」
「へえ……」
な、なんか、心なしか深夜くんの顔が怖くなったような?一体どうしたんだろう。
疑問に思いつつ、私は無理矢理話を変えた。
「それより、深夜くんはどうしてここへ?」
「友達と遊ぶことになって」
「そっか。楽しそうだね」
「いや、まあ、うん……」
どうしたんだろう。妙に歯切れが悪いが。
……と、そのとき、ドアの向こうから更に人影が現れた。
「どうしたんだよ蓮……って、その子、三浦史詩夏じゃん!うわー、きれーー!本物だー!!」
「えっ、あ、どうも」
突如現れた騒がしい存在に、私は思わず固まる。
な、なんで私のことを知っているんだろうか。私、なにか目立つことしたっけ。
挙動不審に返事すると、見かねたように深夜くんが私と彼の間に立ち塞がった。
「おい、変な態度とるなよ」
「お、おお……ごめん。蓮、そんなキャラだっけ?」
「別にいいだろ。史詩夏、ごめん。うるさくして」
「いや、全然いいけど……」
だが、彼の言葉を機に、扉の向こうから他の人たちもぞろぞろと顔を出してきた。
その中には当然女の子もいて、私は少しショックを受ける。分かってはいたけど、やっぱり深夜くんは私とは違う世界の人なんだな……もしかしたら彼女とかもいるのかもしれない。全くそういう話は聞かないが。
「えー!本物の三浦史詩夏!?すごー!」
「もしかして、蓮の知りあい?」
「顔ちっちゃー!足長!目大きい~かわいすぎる~」
「有名人とこんなところで会うなんて!マジびっくり!」
次から次へとかけられる言葉に、私は完全に狼狽えて、あわあわと口を動かすことしかできない。
そんな私を見て、深夜くんは慌てて全員を部屋へと押し込んだ。
「史詩夏が困ってるだろ!皆、早く部屋に戻れって!」
しかし、彼らはなかなか引っ込む気配がない。
「えーっ、史詩夏呼びとかめっちゃ仲良いじゃん!もしかして、そういう関係だったり?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど」
なぜか顔を赤くする深夜くん。
……もしかして、私と恋人同士だと思われるのがとんでもなく嫌、とか?間違いでもそう思われたくなくて、恥ずかしがっているのかも。大変だ。私のせいで、深夜くんに迷惑がかかっている!
「私と深夜くんはただの知りあいです!」
私がそう断言すると、彼女たちは「えー、つまんなーい」と言いながらも大人しくなった。
やったよ、深夜くん!一仕事終えたような気持ちで深夜くんを見ると、何故か深夜くんは深い影を背負った顔になっていた。何故だ。
「そ、そうだよね……俺は史詩夏の知りあい……知りあいかぁ……」
「え、もしかして、知りあいですらない……?」
「いやいや、知りあいではあるよ!そこは疑う余地ないから!」
落ち込みかけた私に、深夜くんは勢いよくそう言った。
良かった。距離感を勘違いしていたわけではなかったようだ。私はホッとして笑みを浮かべる。
そんな私たちを、深夜くんの友達はなにやらニヤニヤと見つめていた。ど、どうしたんだろうか……。
「まあ、なんとなくは分かったわ」
「俺は応援してるから!」
何故か深夜くんを励ます彼ら。一体どういう話の流れなのかさっぱり分からない。一方の深夜くんはといえば、やめろよ、とまた頬を染めて怒っている。
「とにかく、うるさくしてごめん」
「全然。でも、会えて嬉しかったよ」
「……俺も」
深夜くんは不意に、甘い笑顔で私を見つめた。まるで愛しいものを見るかのようなその目に、私は一瞬フリーズする。
な、なんか、勘違いしそうになるな。おお落ち着け私、余計なことは考えちゃ駄目だ。きっと気のせいに決まってる。
「じゃ、じゃあ、またね」
私はドギマギしながら深夜くんに別れを告げた。
「うん……また」
後ろを向いていた私は、深夜くんがどんな表情をしていたかなんて、知らない。
それから無事ドリンクバーを見つけてドリンクを注ぎ終え、戻った頃には、深夜くんたちは個室に戻っていた。
私は「お待たせ」と部屋に戻る。
「ちょっと、いくらなんでも見つけるのに手間取りすぎでしょ!何回か私も下に行こうか迷ったわ!」
茜はぷんすか怒って私を見た。
「ごめん……!ちょっと、そこで深夜くんと会って」
「えっ、深夜と?」
私がそう言った途端、彼女はすっと怒りを静める。代わりに、驚いたように目を見開いた。
「うん。なんか、友達と来てたみたい」
「へ、へぇー。それで、深夜は何か言った?」
「いや、特にはなにも。会えて良かったねって」
「何もないなら、別に良いけど……」
茜はどこか含みを持たせた言い方だった。私はその態度を不思議に思う。どうしたんだろう。茜は深夜くんとはさして仲が悪くなかったと思うが。
しかし、茜は私が疑問を抱いているのに気づいたのか、焦ったように話題を変えた。
「それより、コーラもらってもいい?」
「ああ、うん」
「わざわざありがとね」
「いや、全然」
あっ、トイレ行くの忘れてた。
まあいいや。尿意も深夜くんと会ってどこかへ行ってしまったし。私は気にせず持ってきたピーチジュースを飲む。美味しい。
実は私の大好物が桃である。そのため、桃関連の食べ物を見るとついついそれを選んでしまう。
「でも、フリータイムにしといて良かった。結構時間経っちゃってたから」
「ほ、本当にごめん」
「いやいや、気にしなくて良いから。それより、歌おう!ほら、曲選んで!」
茜はずいっと私に機械を差し出してきた。私は素直にそれを受け取る。
その後、茜と私はたっぷり歌い通して、お昼になったのでカラオケを出た。




