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第46話


 し、神藤さん……まさか、そんなことを本当にやるとは。私はそのときばかりは目をかっぴらいて口をあんぐり開けてしまった。この人、本当に行動力が凄まじいな。

 しかし、私は疑問に思った。神藤さんとバディを組んでいる私は、仕事しなければいけないのではないだろうか?

 と、そのとき、もう一つの通知に気づく。開くと、そこにはこんな文が。


『三浦史詩夏隊員はこの一週間のみ、神藤光隊員のバディを外れる。よって他の隊員同様、ゆっくり休むように』


 ……神藤さんって、もしかしてとても良い人なのでは?

 不意に浮かんだ言葉に、いやいや、と慌てて首を振る。あの人を良い人と簡単に片付けるべきではない。私の理解の及ばない地球外生命体くらいに思っておいた方がいい。

 ともかく、そういった理由で、私は突如休みを獲得することになったのだった。

 そして、そんな私が向かう先なんて決まってる。学校である。

 というわけで、私は学校に行き、そこで茜に誘われたというわけだ。

 私はあまり、というか全く、同級生などと遊んだことがない。なので正直不安もあったが、それ以上に楽しみな気持ちが勝って、何の躊躇いもなく了承した。

 で、やってきたのは、カラオケである。


「あ、史詩夏!」

「茜!」


 私がカラオケ前で待っていると、茜がこちらへ駆け寄ってきた。

 今日はお互い私服だ。茜は温かそうなダウンジャケットの下にワンピースを着ていて、明るい色味がよく似合っている。


「史詩夏の私服、初めて見た……」

「変かな」

「いやいや、なんか、史詩夏らしいね」


 私らしい……そうなのだろうか。笑う茜に不思議に思う。

 今日はニットの黒のハイネックに、デニムのワイドパンツを履いている。上着は保温性に優れた紺色のコート。下には裏起毛タイツとショートブーツという組み合わせだ。


「それを言うなら、茜もなんか、かわいいね」

「ちょっ、なに言ってんのよ!恥ずかしい」

「ご、ごめん……」

「いや、別に良いけどさ」


 茜はちょっと頬を染めて私を見た。つん、と唇を尖らせて、物言いたげな視線を私に向ける。

 かわいいと言ったのが駄目なのだろうか……と少し落ち込みつつ、私と茜はカラオケに入った。

 それから支払いでいくらか戸惑ったものの、なんとか個室に入って部屋を見回す。

 思ったより広いな……だけど、なんか見慣れないものが多い。あ、マイク。

 きょろきょろ周囲を見ている私を、茜が引っ張って椅子に座らせる。


「史詩夏は何歌う?」

「その、こういうところに来るのは初めてなので、全く持ち歌がないんだけど……とりあえず、頑張って探してみる」


 ぐ、と握りこぶしを作って言う。

 茜はそんな私の様子に苦笑しつつ、機械を私のところまで持ってきてくれた。


「オッケー!じゃあ、ここで曲を検索して、こうやってセットしてみて」

「へー、こんな仕組みなんだ」

「史詩夏って、本当に来たことないんだね」

「うん。あまり興味もなかったから。でも、茜と来られて良かったよ」

「まだそういうのは早いから!もっとカラオケ楽しんでから言ってよね!」


 そう言いつつ、茜は早速曲をセットする。

 間もなく、機械から前奏が流れてきた。聞いたことがある曲だ。確か、ZARDというグループの曲だった気がする。

 マイフレンド、と表示された画面を見ながら、私は明るい曲だなと思う。


「あなたを思うだけで、心は強くなれる~!ほら、史詩夏はマラカス振って!」

「う、うん」


 私は言われるがままマラカスを振る。

 茜はノリノリで歌い、私もつられて笑みを浮かべる。正直うまいかとかは分からないが、楽しく歌う姿は見ていて元気をもらえる。

 歌い終わると、茜はふーっ、と息を吐いてマイクを私に渡した。


「なかなか良いマラカス捌きだったわよ。ほら、次は史詩夏の番!歌って!」

「えっと、分かった」


 すると、私が設定した曲が流れ始める。

 最近よく街で流れている、YOASOBIの曲だ。どんなチョイスにすべきか分からなかったので、大衆受けの良さそうな曲にした。

 息を吸う。


「沈むように、溶けてゆくように」


 マイク越しに聞こえる声は、なんだか自分の声じゃないみたいだ。

 私の歌声にあわせて、茜はマラカスをシャカシャカ振る。私は変な声を出さないように、一生懸命歌いきった。

 疲れるな……でも、楽しい。茜は今度はタンバリンを振り出して、私は思わず噴き出してしまった。


「ちょっと、なによ」

「いや、タンバリン、うまいなと思って、ふふ」

「でしょ?タンバリンの茜と呼ばれているからね、私は」

「おお」


 そうなのか。私は胸を張る茜に純粋に感心してしまった。

 そんな私を見て、茜は「冗談よっ!」とずっこける。私はそれでまた笑った。

 茜も一緒になって笑う。


「あはははっ、もう、史詩夏って天然だよね」

「そうかな」

「そうだよ。でも、そういうところ、嫌いじゃないけどねー」


 茜はそう言って、小悪魔っぽく微笑んだ。

 それから何曲か曲を歌い、一息つく。


「喉が渇いたな」

「ああ、ドリンク持ってくる?」


 茜の言葉に、私は目をぱちぱちと瞬かせた。


「持ってこられるの?」

「うん。ここドリンクバーあるから。行ってくるよ」


 立ち上がりかける茜を、私は慌てて引き留める。流石にそこまでしてもらうのは申し訳ない。


「いや、いいよ。ちょうどトイレ行きたいと思ってたし、私が行ってくる」

「そっか。場所分かる?1階に降りてすぐだよ」

「分かった。茜は何飲みたい?」

「コーラとかかな」

「了解」


 私は立ち上がって部屋を出た。

 通路を歩いていると、ある個室から、騒がしい歌声が聞こえてくる。かなりの大人数だな……しかも若そうだ。あんまり近づかないでおこう……。

 そんなことを思いながら横切ろうとすると、ちょうど個室のドアが開く。


「えっ、史詩夏?」

「深夜くん……?」


 まさかの、深夜くんだった。

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