第45話
「は、え……?」
「レグラムにもそろそろ通告が来ているはずだ」
そう言われて、私は慌ててレグラムを見た。
そこには確かに通知が一通。
『三浦史詩夏隊員は今後、神藤光隊員とバディを組み、共に戦闘を行うこと。これはEES本部の決定により覆すことは不可能である』
「な、なんでですか!?」
私は大慌てで神藤さんを見た。
神藤さんは私の焦りようもなんのその、落ち着いた態度で話し出す。
「まあ、理由はいくつかある。私ほど強い者は基本的にはよほど強い相手しか倒さないが、そうなると東京に絞って活動するのはなかなか非効率でな。今までは君にそれほど実力がなかったこともあり、私と行動させるにはいささか不安が残るとして見送られていた。だが、君が橙階級へ上がったことで、それならば転移の能力を役立ててもらおうという風に決まった」
「それって、私の拒否権は……?」
「ない」
即答だった。
私はがっくりとうなだれる。そんな、急に言われても。しかもこんな強い人とバディを組むだと?そんなの、私には絶対に荷が重すぎる。
衝撃的すぎて放心しかけるが、あ、と頭に浮上した疑問を問いかける。
「待ってください。私がいなくなったら、北海道はどうするんですか」
「安心しろ。私たちの基本拠点は北海道になった。北海道の危険度Bクラス以上の敵は、全部私と君で片付ければいい。あとは、毎日私が北海道の危険度Fを一掃すれば、緑階級も赤階級もいるのだから問題ないだろう」
「うっ、否定できない……」
実際、森先輩や新井さんがいるのだから、危険度C以下なんて大して敵ではないだろう。私と月見先輩がいなくなった10人で片付けるには、それでも一人当たり一日70匹ほど倒さなければならないが、危険度Fが一掃されるならその数は50匹ほどに減る。
だが、それにしても急すぎないか。ちょっと心の準備をさせてほしい。
顔を顰める私に、神藤さんは奇妙なものを見るような目で私を見た。
「私とバディを組む者など今までいなかった。君が初めてだぞ。もう少し誇りに思ったらどうだ」
いや、そんなこと言われても。私が滅茶苦茶あなたに憧れているわけでもあるまいし。
「その尊大な態度はどこから来るんですか……まだ出会ったばかりの日本最強の人とバディを組めとか言われて、ああそうですかと受け入れる人の方が少ないでしょう」
私の言葉に、神藤さんはふいに纏うオーラを冷ややかなものにして、一言。
「……私のことが気に入らないのか?」
「いや、そこまでは言ってませんけど」
即答した。なんか一瞬悪寒が走ったので。
私が卓球ならスマッシュレベルの速さで答えたおかげか、神藤さんは冷ややかなオーラをさっと消した。
「ならいい。万が一にも、そんなことを言われたら」
「言われたら?」
もったいぶるので私は気になって尋ねる。
神藤さんは、カッと目を見開いて言った。
「お前を殺す」
「なんでですか!怖い!」
な、なにこの人!頭おかしいんじゃないか。
私は本気でドン引きして神藤さんを見た。この人、強い人が好きだと言っている辺りから私の理解の範疇は超えていたけど、ここにきてちょっと宇宙引っ張ってくるレベルで理解できない部分見せてきたぞ。
「私は自分を拒絶する者は許せない。私ほど完璧な人間を認めないなど頭が沸いているに決まっているし、そんなものは生かしておくわけにはいかない」
「その頭のおかしい価値観は即刻捨ててください」
「無理だ」
「なぜ!?」
嫌だ!こんな人とバディを組むなんて、嫌だ!
しかし、決定を変えるのはほぼ不可能なのは分かっている……う、うぅ、受け入れるしかないのか。
私はしょぼくれた気持ちで天を仰いだ。
神様、どうか、なんとかこの人をまともにしてください……。
*****
カラオケ。それは私にとって完全なる未知な世界。
そんな世界に今、私は足を踏み入れようとしている。他でもない、茜の誘いによって。
「今度の土曜日、一緒に遊ばない?」
そう言われたのは、つい三日前のことだ。
私は神藤さんとの任務が始まってから、更に学校に行く日が減った。
なんせ神藤さんは引く手あまたである。それこそ、日本全国どこへでも呼ばれるので、私もそれについていかなくてはならない。
ゆえに、あの日以来私は一ヶ月ほどずっと学校に行けない日々が続いた。
しかしこの一週間!なんと神藤さんが北海道の隊員全員に休息をとらせるために、一人で北海道全てのエミュレイターを倒してくれることになった為、私も解放されたのだ。
思い出す。一週間前のことを。
それは、私が森先輩と会ったことから始まった。
キューブ交換課で偶然出会った森先輩は、かなりやつれて見えた。相変わらず髪はつやつやの青色だが、目の下にはクマができていた。
「森先輩、大丈夫ですか?」
「うん……ここ半年くらいまともに眠れてなくて。まあ、前よりはマシにはなったから良かったけどね……」
森先輩はそう言って、大量のキューブを箱に入れていく。
二、四、六、八……いやもっとあるな。ひえっ。私たちもそれなりに倒しているけど、危険度Bクラス以上は大して数はないのだ。やはり、問題は無尽蔵に湧く危険度C以下だ。
私は疲労困憊といった様子の森先輩に、心配になって口を開く。
「先輩、あまり無理しないでください。いざとなれば私が先輩の代わりに任務を請け負いますよ」
私は本気でそうするつもりだった。
しかし、先輩はいやいや、と手を顔の前で振る。
「これでもだいぶ減った方だからいいんだよ。ほら、史詩夏が神藤さんを引き連れてきてくれたからさ……」
「いや、あれは私がやったことではなく、上が勝手に決めたことなので」
「でも、史詩夏の実力も関係してるでしょ。おかげで最近は一応睡眠はとれてるから。まあ、疲れはとれないけど」
森先輩は深くため息を吐いた。
これは相当疲れているようだ。私は森先輩大丈夫かな……と不安に思いつつ、神藤さんを待たせていたのでその場を去った。
下で待っていた神藤さんに、「遅くなりました」と声をかける。
「確かに少し遅かったな。何かあったのか」
神藤さんは腕を組みながら尋ねた。相変わらずどこか尊大な態度だ。
「懇意にしてくださっている先輩と会いまして。随分疲れているようだったので、心配で色々と話したんです」
「ふむ……確かに、北海道の隊員はあの一件以降ろくに休みがとれていないそうだな」
「そうなんです。おかげでかなりやつれてしまって」
私は森先輩の姿を思い出して眉をひそめる。実力者でそれなりに任務をこなしていた森先輩でさえあそこまで疲弊するのだ。今まで相当負担がかかっていたのだろう。
私の様子に、神藤さんは突如突拍子もないことを言った。
「それなら、少々上にかけあってみよう」
「え、なにをするつもりですか」
私は驚いて神藤さんを見る。
黒い髪を綺麗に整え、表面的には美丈夫、まだまだ男盛りといった容貌の神藤さんは、妙に色気のある笑みを浮かべた。
「簡単なことだ。私が北海道の隊員たちに休みを与えようと思ってな」
そして次の日には、レグラムにこんな通知がきていた。
『【北海道の隊員へ】今後一週間、北海道で発生する任務は全て神藤光隊員が受け持つ。よって現在北海道で任務に当たっている全ての隊員は、今日から一週間、休暇を自動的にとらされることになる。この機会にゆっくり羽を伸ばすように』




