第43話
「神藤さんの能力はなんですか?」
「支配。精神力が弱い相手や自分より弱いと思う相手なら自由に支配できる。あとは錯乱。相手の強さにもよるが、精神を錯乱させ一時的に精神力を弱めさせることができる」
「それは……強いですね」
相性の良い二能力持ち。しかも内面から破壊するので対抗策も少ない。
ということは、私のことも、支配できるのだろうか。私の転移の力は支配の前では全く役に立たないし、私とはかなり相性が悪いのでは。
うーん、敵でなくて本当に良かった。あと、早めにもっと強くなっておかないとな。一応可能性は潰しておきたい。支配されるなんて絶対嫌だ。
「だが危険度A+にはあまり役に立たない。錯乱はほとんど通じないし、あれらが自分より弱い相手になることは、私がどれほど鍛えてもありえない。超人であっても能力なしには倒せない。それも、相当な……それこそ君のような強い能力がなければ倒せない相手だからな」
神藤さんはそう言って私をちらりと見た。その目は私に期待している、と伝えているみたいに鋭かった。
私はその視線に居心地の悪いものを感じる。眼光炯々といった様子で怖い。
「今回は、能力ありで戦うんですか」
その視線から逃れるように顔を背けつつ、私は気になっていたことを確認した。
「直接相手には使わない、というルールでどうだ。君は私の体の一部を転移させるなどはできない。代わりに、私も君を支配することはしない」
「そうですね。その方が良いでしょう。第一、支配されてしまえば即終わりじゃないですか」
それに、支配されるなんて絶対嫌だ。訓練だとしても嫌だ。まあ、一度味わってみたくないかと言われれば多少味わってみたい気持ちもある。だが、まだこの人にそれほど気を許していないので、体を委ねるような真似はできないというのが本音だ。
「だが……一応、精神力の強い相手や心を誰にも開いていないような相手には、効きにくい。もしかしたら君には効かないかもしれない」
なるほど。じゃあ、一度試してみるのも悪くないかもしれない。自分の耐性がどの程度か分かれば、今後のエミュレイターとの戦いでも役立つ可能性は大いにある。
「支配って、解除することもできるんですよね?」
「もちろんだ。だが、心の流されやすい者は、私に支配された後もその名残があることがある。だから、私はこの能力を人には許可なく使うなとEESや政府から言われている」
うーん、悩むな。私はそこまで流されやすい自覚はないが、万一のことを考えると。
しかし、許可なく使うなというのは、私にも身に覚えがある話だ。というか、大半の隊員にとって、能力を人を傷つける用途で使うことは牢屋行きを意味する話だし、人ごとではない。
ただ、使用自体を禁止されることは能力がよほど危険なときくらいで、大抵は傷つけないなら人に使ってもOKである。
「支配すると何ができるんですか」
「文字通りなんでもさせられる。自由に動かせる人形みたいなもので、私が望むままに動くし、ある程度自我を残すこともできる」
「便利ですね……そして恐ろしい」
本当に操り人形になってしまうのか。しかも支配者側はさしたるデメリットもないときた。本当に強力な力だ……人間に使われたらと思うとゾッとする。
「この力を使える相手なら負けることはまずないからな。私の戦い方はシンプルだ。エミュレイターを支配し、自害することを強要する。私の支配から逃れられるのは今のところ危険度A+以上だけだ」
うわ、えげつな……戦い方が怖いな。
「でも、支配するための条件とかないんですか?直接相手を見なきゃいけないとか、触らなきゃいけないとか、知っていないといけないとか」
聞いてからそこまでは教えてくれないかなと思ったが、意外にも神藤さんはするりと答えてくれた。
「そのエミュレイターを特定できるだけの情報があればいい。超力の限界までやれば、一応日本の危険度F全てを今すぐ支配して自害させることもできる。まあ、それをすれば完全に回復するのに一週間ほどかかるが」
すごいな。日本の危険度Fの数なんてきっととんでもないくらい多いだろう。北海道だけでも一日に200匹程度出るし、日本全国となれば単純な面積当たりの数で考えても1000匹ほどはいるんじゃないか?それを即殺できるのなら、とんでもないことだ。
「それほどの力があれば、危険度A+も、鍛えれば倒せそうですけどね」
「無理だ。私の超力はもう限界レベルまで鍛え上げた。私の力では一生危険度A+には敵わない」
「なるほど」
「君は察するに、まだ限界を知らないようだな。まあ、それだけ若ければ無理もないが。とはいえ、その時点で150回使えるのはかなり有望だな」
有望、といわれて嬉しい気持ちになる。もちろん、安易に喜べないのはそうなのだが。
限界というのはいつ現れるか分からない。確実にあることだけが分かっていて、どの程度なのかは実際に超力が伸びなくなってからでないと知ることができない。
私の限界はすぐ側にあるのか、それともまだ遠いのか……できればもっと強くなりたい。そのためにも、限界はまだ感じたくない。
そんなことを話しているうちに、街から外れた森の中へと来ていた。
「まあ、この辺りが丁度良いか」
そう言って神藤さんは車を停める。
車から降りた神藤さんに、私も一歩遅れて車から出た。
管理された森の中の、伐採された木々が並ぶ場所。広々としていて、確かに戦うには向いている。それに、むやみに自然を傷つけることもなさそうだ。
「では、まずお手並み拝見といこうか」
「よろしくお願いします」
正面から向き合う。
開戦のゴングが鳴った気がした。
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第40話で間違った階級基準を貼ってしまったので訂正しました。本来の基準は黄階級で危険度A1体討伐可です。




