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第42話

 それからいくつか授業を受けて、放課後。

 校舎を出て校門の横を通ると、「三浦史詩夏は君か」と声をかけられた。

 見ると、そこには全身黒ずくめにマスクという明らかに怪しい人が。

 私は一瞬で警戒モードになり、眉をひそめてその人を見つめた。

 身長は180㎝以上。多分体格からして男。それに、体勢に隙がない。ただ者ではない気配がする。なんとなく、側にいるだけで圧がある。私でさえ圧を感じるほどなのだ。超人でなければ相当強く圧されるだろう。


「……何の用ですか」

「少し話がある」

「私とあなたは面識がないと思いますが、話とは一体なんですか?」

「まあ、ちょっとしたことだ。君の実力が知りたい」


 私はますます理解ができずに顔を顰めたた。

 この人は何の目的で、私の実力を確かめようというのか。見たところ一般人でもなさそうだし、もしかして、EESがまた何か始めたのだろうか。

 疑問は膨らんだが、答えは決まっていた。


「あなたの素性が分からない以上、あなたに付き合う気はありません」

「ふむ。では、素性を明かせば良いのか」

「内容次第ですが」


 私がそう返答すると、彼は良いだろう、とやけに尊大な態度で頷いた。


「紹介が遅れたな。私は黄階級戦闘隊員、神藤光だ」


 神藤光……!私は思いもよらない大物の名前に目を見開いた。

 彼は日本の戦闘隊員の中で最も強いと呼ばれている。現役の黄階級の中で最も若く、最も強力な力を持った、日本の至宝だ。

 この前の危険度A+との戦闘では、怪我で惜しくも応援に来られなかったと聞いている。だが、今の様子を見る限り、怪我はもうほぼ治っているようだ。

 私はますます訝しげな視線を彼に寄越した。


「日本の至宝と呼ばれるあなたが、何故わざわざ東京から、私の実力を試しに来たんですか?」


 しかも、黄階級なら相当忙しいはず。それなのになぜ、と疑問に思う。

 しかし、私の視線にも臆さず、彼は淡々と答えた。


「まあ、単純な興味だ。次期白階級と目される君が、どの程度の実力なのか……それを確かめに来た。今までも気になって仕方がなかったが、時間がなかったから会いに来られなかった。私は強い者が好きでな。君の戦績表の評価を書いたのは私だ。君次第では、私が君の足りないところを全て直してやってもいい」


 その言葉に、納得もいったが疑問もあった。

 大抵、評価はEESの本部にいる隊員調査員が書く。稀にレジェンドクラスの元戦闘隊員が評価をつける場合もあるが、現役隊員が現役隊員の評価をするなど聞いたことがない。

 だが一方で、私の戦い方についてあそこまで言えるのは、かなりの強者か目利きだろうとも思っていた。もちろん、ここまでの大物だとは思わなかったが。

 考える。私の弱点をよく知る者から、直々に訓練をつけてもらえること。しかも教師は世界でもトップクラスの戦闘隊員……メリットは大きい。断る理由なんてない。

 問題は、なぜ彼がそこまでしてくれようとするのかということだ。裏があるなら、簡単に申し出を受け入れることはできない。


「私にはもったいないくらい良い条件ですが、あなたのメリットは何なんですか?」

「私と互角かそれ以上に強い者が増えるのが、私にとっての一番の幸せだ。だから君が強くなりそうだと見込めれば、その手伝いをすることは私にとって充分魅力的なんだよ」


 なるほど。一応理由は分かった。

 正直、この人の考えなど全く理解できないが、こちらに特にデメリットがないなら、乗ってみるのは良いかもしれない。私も勉強になるだろう。


「分かりました。では、お好きなように、私の実力を量ってください」

「そうだな。だが、そのためには少し移動しよう。こんなところで戦ったら、最悪人が死ぬからな」


 戦う、という台詞にギョッとする。思わず口を開いた。


「私、あなたと戦うんですか?死にませんか?」

「それは君がという意味か、私がという意味か」

「私が死なないかの心配に決まってるでしょう」

「まあ、殺さない程度に手加減はするが、私としては君がそれで私にかすり傷程度負わせられなければ失望するな」

「……」


 殺さないように手加減するとは言うが、その手加減がどの程度のものかは分からない。最悪、加減をミスられて死ぬかもしれない。

 最近ようやく危険度A-を倒せるようになった小娘と、ずっと前から危険度Aを倒せる実力を持った日本の至宝。

 ゾーッと背筋に寒気が走った。私も、かなり本気を出さないとまずいかもしれない。

 彼は私を車へと案内し、それからどこかへ走り始めた。

 同時に彼はマスクを外す。その下にあったのは、目が痛くなるほどの輝かんばかりの顔、俗に言う美丈夫がそこにいた。

 すっと通った高い鼻梁、鋭い切れ長の瞳、シャープな顎。彫りが深く、とても日本人とは思えない。

 そういえば、と思う。今更だが、これがもし誘拐だったりしたらまずいのではないだろうか。

 いや、私なら逃げようと思えばすぐ転移で逃げられるので特に困らないか。

 車内で、神藤さんは私にいくつか質問を投げかけてきた。


「君の能力は転移と強化らしいが、一日に何回まで使える?」

「最近は、150回くらいが限度ですね」

「多いな。それだけ使えれば一日に危険度A10体は倒せるだろう」

「そうですか?まあ、今の私が、能力に対して実力が追いついていないのは自覚しています。ですが、これでもそれなりに強くなった方なんです」

「足りないな。もっと鍛えるべきだ」

「そうですか……」


 しかし、この人は危険度A1体あたりに15回の転移と強化で良いと断言するのか。流石にそこまで少ない回数では倒しきるには難しいと思うが。


「君はバディはいないのか?範囲指定系の能力なら相手の動きを止められる仲間がいれば一騎当千だろう」

「いませんね。元々そういう能力者はいたらしいですが、この前の危険度A+との戦闘で亡くなりました」


 本当にあの危険度A+はろくなことをしなかったなと思う。

 だが、そもそもあんなことがあろうとなかろうと、私は当分の間単独任務につくことが決まっていた。

 理由はいくつかある。

 一番は私の性格によるものが大きいが、そもそも私と組みたいという人が現れなかったのだ。私自身も特に求めなかったため、共同任務とは縁がなかった。


「ああ……あの危険度A+は相当厄介だったらしいな。黄階級を総動員しても倒すのは難しかったと聞いている」

「危険度A+を倒せるとなると、白階級しかいませんからね……」


 しみじみ呟くと、神藤さんもそうだな、と頷いた。


「私からしても、危険度A+を倒すのは不可能だ。能力的な限界がある」


 能力的な限界。私はそういえば、と神藤さんに尋ねた。


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