第34話
目の前に現れたのは、地面に倒れる月見先輩に、今まさに攻撃しようとしているエミュレイター。
私は全力で走った。
「ッ、お前」
エミュレイターはすんでのところで避けたが、私は諦めず足蹴りを炸裂させる。
限界を超えろ。さっきまでの私以上に力を出せ。もう強化は使えない。であれば、本来の力を限界を超えて引き出すしかない。力を、上手く使え。体を上手く使え。
私は剣を抜いて、足蹴りと剣の攻撃とを合わせて絶え間なく攻撃を繰り出した。
エミュレイターはそれを避けているが、今度は攻撃する暇がないらしく、ひたすら私に押されるままになっている。
負けたくない、私は、まだ負けられない!倒せ、目の前の怪物を!
……ここだ。
私は張り詰めた第六感を信じて、エミュレイターが来るであろう場所を剣で貫いた。
「ッ、くそッ……!」
予想通り、その剣はエミュレイターの体を貫く。
あと一歩核には届かなかったものの、それは確実にエミュレイターにダメージを与えたらしい。エミュレイターの動きが少し鈍った。
今だ……!
私は続けて懐から出したファイアボムをエミュレイターにぶつけた。
ドンッ!と爆発が起きる。ボムはエミュレイターに直撃したらしい。
地面に膝を突いたエミュレイターに、私は一切動きを緩めず、剣を振るった。
エミュレイターはかろうじて避けたが、その検査機はエミュレイターの腕を切り裂く。黒い血が噴き出して一面に舞い散った。
私は更に攻撃を与える。全身全霊の力で剣を振るった。それはエミュレイターの急所は外しつつも、確実にダメージを与え続ける。
体を念力で締め上げられる感覚があったが、私は無視して攻撃し続けた。
エミュレイターはほとんど無理して避けているようだった。そろそろ限界が来ている。殺せる……!このまま、トドメを……!
そのとき、突如エミュレイターの元に紙が降ってきた。これは……念力!
まさか。
「悪いけど、死ぬ気はないよ」
エミュレイターはそう言って、紙の中へと吸い込まれていった。
はらり、と紙が地面に落ちる。瞬間、体を締めていた力も消えた。
私は必死に紙を掴もうとしたが、突風が吹いて、それはどこかへと飛ばされていく。私は慌てて追いかけた。しかし紙との距離はどんどん遠くなっていく。
何か、方法は。どうにかして……!
……あ!
私は懐からある物を取り出して全力で投げた。
それは綺麗な放物線を描き、いつかしたバスケのボールのように真っ直ぐ紙の元へ行く。
お願い、反応して……!
私が心の中で祈ったのと、紙にそれが当たったのはほぼ同時だった。
瞬間、紙は半透明のジェルによって覆われる。そして、重さに耐えきれず地面にべちゃりと落ちた。
地面にくっついたそれを、私は走って近づき、手で引っ張って地面から離す。
「捕獲キューブ、生きたままでも使えた……!」
私はホッと息を吐き出し、それから月見先輩のところへ戻った。
手に持っているキューブの中では、何かが蠢いている気配がある。だが、まだキューブが耐えているようで、出てくる様子はない。
今のうちに……!
私は月見先輩の元へ駆け寄った。
「月見先輩!月見先輩!」
私は何度も叫んで先輩に呼びかける。
だが、月見先輩は地面に倒れたままびくともしない。腕は折れているのか変な方向に曲がっていて、頭からは血が流れていた。
そのとき、森先輩たちがやってきた。
「史詩夏!月見……そんな」
彼らは私たちの様子を見て、言葉を失う。
私は無我夢中で先輩の名前を呼んだが、先輩は動かなかった。体は冬の冷気に当てられたのか冷たくなっている。
吐いた息は白く染まり、視界は薄暗い。曇天の中、不意に空から白い何かが降ってくる。
「……雪だ」
誰かがぽつりと言った。
ホワイトクリスマス。不意にそんな言葉が浮かぶ。
そのとき、手の中を蠢いていたキューブが突如震え始めた。
「あ……ッ!」
私は慌ててキューブを月見先輩から離れたところへ投げる。
次の瞬間、ジェルを突き破ってエミュレイターが現れた。
「なるほど……そいつが月見の敵」
「まだ死んだかは分かりませんよ!」
森先輩の言葉に咄嗟にツッコミをいれたが、私も正直月見先輩が生きているかは自信が持てなかった。それだけひどい怪我だった。
森先輩は自身の武器である弓を取り出す。
「死ね」
「発火!」
発火の能力を持った黒崎さんの声が聞こえた。
その瞬間、火をまとった矢は、雪にも負けず、逃げようとしたエミュレイターを真っ直ぐ貫いた。
「ぐ、ぁ……ッ!」
エミュレイターが唸って仰け反る。その全身は発火している。しかしまだセンサーは消えていない。
トドメを、刺さなければ。
私は無我夢中で機関銃を取りだした。
『胸部、射程圏内。命中確率99%』
レグラムに映っている文字を見る。
私は力強く引き金を引いた。
「ァガァァァァァアッ!」
空気を劈くような悲鳴を上げて、エミュレイターは地面にバタリと倒れた。
その瞬間、びりびりとした感覚が消える。
……殺、せた。
終わった…………。
私はへなへなとその場に座り込んだ。
「史詩夏!大丈夫?」
森先輩が駆け寄ってくる。
「殺せ、ました」
私は呟くように言った。視界がぼやける。
「……うん、流石だね、史詩夏は」
森先輩は、そう言って私を抱きしめた。
その瞬間、私は意識を手放した。




