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第29話

****




「よろしくね、史詩夏ちゃん」


 いつも通りの軽薄な笑みを浮かべて、月見先輩はそう言った。

 今日は共同任務だった。

 街に一体危険度Aが潜伏している可能性がある。人型であることは分かっているが、以前見つかったときには逃げられた。特殊な力のせいで機械やエミュレイターセンサーには反応しない。

 というわけで、北海道隊員や応援に来ている赤丸さんなどが総出になって、危険度Aを討伐することになった。そして私と月見先輩は、その個体を見つけ出す役を任されたのである。

 大体の目安として、危険度A+は北海道では100年に一度、危険度Aは一年に一度、危険度A-は半月に一度程度出る。

 今回で危険度Aクラスはコンプリート。珍しい年だ。しかも、危険度Aクラスに限らなければ、危険度B10体など規格外に強い敵も沢山いた。

 今年は結構修羅の年だったな、と思う。

 危険度Aは危険度A+に比べれば全然強くないが、それでも倒すには橙階級二人か黄階級が必要な程度には危険だ。そして北海道には橙階級が今誰もいない。唯一の橙階級だった天城さんが危険度A+との戦闘で亡くなってしまったからである。

 よって、格上相手になんとか戦おうと集められるだけの戦力を集めたのが今回だ。本当に、危険度A+との戦闘での死者数はとんでもないものだった。戦闘隊員が奮闘したおかげで、民間人の死者は1000人ほどで済んだ。それでも多いことには変わりないが、危険度A+が出てきてそれなら少ない方だ。

 北海道の戦闘隊員が全滅してしまったのは、控えめに言っても地獄絵図だった。以前の長野の危険度A+のとき、長野の戦闘隊員は三分の二死んだ。それでも多いが、でも北海道に比べればマシだ。今回の危険度A+は格別に厄介だった。その結果が、現状なのだ。

 さて、天城さんがいなくなったので私は新井先輩と共に北海道で一番階級の高い戦闘隊員となった。よって今回最前線の捜索を任されたわけだが、では、月見先輩はなぜ青階級にも関わらず任されたのか?

 答えは簡単、月見先輩の能力が非常にこの任務に適しているのだ。

 月見先輩の能力は“影移動”。その名の通り、影に入って影の中を移動できる。影のあるところならどこへでも移動できるし、影の中にいる間は攻撃を受けないという便利すぎる力だ。

 月見先輩が以前の危険度A+戦で五体満足だったのは、もちろん中央陣営という比較的生存率高めの場所にいたことも大きいが、この能力が強かったんじゃないかと思う。

 そんなわけで、瞬間移動の私と影移動の月見先輩、どちらもいざとなれば逃げて情報を伝えられるコンビでの任務となった。


「年の離れた従兄妹ってどんな感じなんでしょうか」


 私は設定を思い出して唸る。

 今回は相手が人型なので、怪しまれないために色々と設定がある。私たちは年の離れた仲の良い従兄妹という設定だ。しかし、私は奈江子さん以外の親戚がいないので、いまいちピンとこない。


「史詩夏ちゃんって従兄弟いないの?」

「いませんね。親戚はキャリアウーマンの叔母だけです」

「そっかー。まあ、あんまり深く考えなくて良いんじゃない?」


 月見先輩は気軽な感じで言った。まあ、確かに演技にのめり込むのもいけない。自然にしていれば、それっぽくなるだろう。


「それにしても、エミュレイターセンサーに引っかからないってどういうことなんでしょうか」


 事前情報を思い出して、私は首を傾げる。


「俺も初めてのタイプの敵だから分からないけど、俺みたいな能力なんじゃない?」

「影とか、そういうセンサーの反応しないところに潜める能力……ってことですか」


 奇襲に便利な力だ。逃げるにも良い。危険度Aなのも納得の力。そして危険度Aならきっとそれだけじゃないだろう。規格外に強いとか、もう一つ能力がある可能性が高い。


「多分ね。だったら俺たちだと相性が良いとは言えないよね。そういう自分の領域持ってるタイプの相手なら、領域崩せるような能力じゃないと」

「先輩だったら発光系の能力相手だと厳しいですよね」

「影なくなるからね」


 考えれば考えるほど、今回は戦うのは得策でないと思う。


「お互いやりにくい相手じゃないですか?転移しても向こうもすぐ逃げるから捕まえきれないですし」

「まあ、能力面が拮抗してる分、後は本人の戦闘力頼みになるのがなぁ……危険度Aならかなりキツいんじゃない?」

「そうですね。私では力不足です」

「俺はもっと力不足だよ」


 ははは、と言っていることの割に陽気に笑う月見先輩である。この人ホントにメンタル強いな……。この飄々とした性格は逆に尊敬する。

 月見先輩と私は、そんな風に無駄口を叩きながら街をふらふら歩いていった。

 街の端っこまで来たとき、不意に月見先輩が止まる。


「どうしました?」

「うーん、なんか、怪しいなと思って」


 先輩はそう言ってある場所を指した。

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