第28話
「……います、一応」
頭に浮かんだのは茜だった。毎日ではないが、学校に行く日などはよく話すようになっていた。
「そっか。それは良かった。その子はどんな子?」
「気が強くて、責任感のあるタイプで、負けん気が強いですね」
私は思ったことをそのまま言った。
先生はうんうんと頷く。
「なるほど。三浦さんと似てるね」
「え」
驚いて口が半開きになった。私と茜が、似てる?茜の姿が頭の中でぐるぐると回るが、それが私と重なることはない。
「だって、三浦さんも責任感が強いし、けっこう負けん気が強い気がするよ」
「そうですかね。あんまり勝ち負けは気にしていないんですが」
「それは勝てると心のどこかで確信してるからじゃないかな。本当に勝てないと思う相手には、負けたくないって気持ちが出ると思う」
「そうなんですかね……」
いまいちピンとこないが、そうなのかもしれない。
思い返せば、私は今まで、それほど危機感というものを抱いたことがなかった。先月の危険度B10体討伐のときも、勝てるとは思わなかったが、かといって負けるとも思っていなかった。
大体いつも、まあ、なんとかなるだろうと思っている。だから勝ち負けも気にならないのだ。
だが、本当に負けると思った相手には、多少焦るかもしれない。そしてきっと思うだろう。絶対に負けたくない、と。だって、負けることは他の人の負担を増やすことだからだ。
いや、それ以前に、私はまだ死にたくないので、負けるのは絶対に避けたい。正直生きていても大して楽しいことはないが、せっかく稼いだお金もまだ全然使えてないし、これからやりたいことが沢山あるのだ。だから絶対負けられないと思うだろう。なんとしてでも勝ってやる、と。
そこまで考えて、私は確かに茜と似ているかもな、と思った。茜は真面目なところがある。ひたむきで、素直で、正義感も強い。そういうところは私と似ていない。でも、それ以外の部分だと、意外と近いところもある気がした。
「自分と似た友達がいるのは良いことだよ。共感し合える関係は長続きするからね」
「長続きできたら、私も嬉しいです」
せっかくできた友達という存在は、私にとってわりと本当に大切だった。これから先、二度とできないかもしれないのだ。だから、なるべく頑張るつもりだった。この関係を長続きさせるために。
先生にお墨付きをもらえて、少し安心した。
先生は私の顔を見て、でも、と付け加える。
「お互い責任感が強いから、共倒れになりそうなのが注意が必要だよ。友達が無理していると思ったときは、なるべく休ませてあげてね」
私は先生の言葉にこくりと頷く。共倒れは嫌だ。茜も私も、ちゃんと休めるようにしなければ。
私が決意していると、先生はさて、と話の流れを変えた。
「次は、家族関係のことを聞こうかな。三浦さんはキャリアウーマンの叔母さんと二人暮らしなんだよね。その人とはよく話している?」
「一週間に一度程度ですね」
「そっか……なかなか叔母さんは忙しい感じ?」
「そうですね」
私が答えると、先生は少し眉尻を下げた。
「それは大変だね……普段の些細な悩みや不満を発散できるところがないと。ストレスを感じたらどうしてる?」
「寝て、起きたら忘れてます」
我ながら、とても単純な人間である。
先生はくすっと笑った後、話し出す。
「なるほど。まあ、それでリセットされるなら問題ないよ。ただ、眠って起きたときに忘れているというよりかは、心のどこかに一度仕舞っているという方が正しいから、できればちゃんと自分の中で解決させた方が良いかな」
「分かりました。頑張ってみます」
拳をぎゅっと握りしめると、先生は「そう気張らなくて良いから!」と慌てて言った。
「いざというときに頼れる人はいる?」
「任務関連のことなら、署長や先輩に話しますが」
「なるほど。プライベートのことだとなかなか相手がいないのね。それじゃあ、困ったときはここに連絡してみて」
そうやって手渡されたのは、電話番号が書かれた紙だった。
「これはなんですか?」
「カウンセラーの24時間対応の窓口。しんどいときに電話したら、ちょっと楽になるかもしれないよ」
「へぇー、そんなものがあるんですね」
私は感心して、ジッと電話番号を見つめた。正直使うことがあるとは思えないが、もしどうしても困ったらかけてみよう。
「最後に、普段一番幸せを感じるのはどんなときか、教えてくれる?」
幸せを感じるとき……。
私は頭の中でイメージしてみる。茜と話すときや、奈江子さんからお母さんの話を聞くとき、ご飯を食べたり、分からない問題が解けるようになったとき……どのときも幸せだが、一番かと言われると悩む。
暫く考えあぐねて、私は一つの結論に達した。
「一人で、何も考えずにぼーっとできる時間ですかね」
「そっか、なるほどね……。よし、ありがとう。今日はこれで終わりだよ。気をつけて帰ってね」
先生は紙に何かを書いて、にっこり笑みを浮かべてそう話した。
「分かりました。ありがとうございました」
私は立ち上がって扉の前に行き、先生に深々と礼をする。
「次は来年会いましょう」
「はい、今日はありがとうございました」
私はそう言って、部屋を出た。
窓の外を見ると雪が降っていた。粉雪だった。ふわふわと落ちていく雪は風に煽られ斜めに移動していき、地面に落ちては音もなく積もっていく。
風の音がひゅうひゅうと鳴るのを聞きながら、私はゆっくり歩いた。今日はもう任務はなかった。だから気楽に帰ろう……と。




