第25話
植物の個体が蔦をこちらに這わせてきたので、飛び上がって蔦の上を走って一気に距離を詰める。そして思い切り飛んで上から機関銃を撃った。
……と、風が吹き荒れて体が飛ばされる。くそっ。殺し損ねた。
慌てて転移して風の個体を撃ち抜く。黒い血しぶきがあがって倒れる。
そのまま闇の個体も倒そうとしたが、視界が黒く染まってしまった。世界が闇に包まれる。
私は再び転移した。闇から解放された両目が黒を捉えた。
どん、と撃つ。しかし核は外してしまったようだ。センサーは変わらずびりびり電流を流している。
光の個体がまばゆい光を発し目が眩む。その間に高温の熱を感じ私はまた転移した。
このままじゃ近づけない。仕方ないので、校舎を守ることに専念することにした。
攻撃をやめた私に、彼らはどんどん近づいてくる。それを良いことに、私はどんどん校舎から離れ、森の方へ移動していった。
その間にも目くらまし攻撃やら熱攻撃やら植物攻撃が繰り返される。それらを完全に躱すのは不可能だったので、とりあえず熱攻撃は受けつつ植物攻撃から逃れることに専念した。
この植物攻撃の蔦というのが厄介で、強度があるし好き勝手動くし、切っても切っても再生するので終わりがない。
本体に近寄ろうにも植物の壁に阻まれてうまくいかず、とにかく逃げることしかできない。
そのとき、上から声が降ってきた。
「頑張れー!」
「そのままやっつけろー!」
見ると、屋上から生徒たちが叫んでいる。お、おお……見られている。どうしよう。
これは絶対に負けられないと、私は気合を入れ直した。
高く飛び上がって蔦を回避しつつ、グラウンドの真ん中に移動する。追ってきた蔦に、今だ、と私はポーチからボムを取りだした。
これは発火ボムだ。思い切り蔦にぶつける。
その瞬間、炎が舞って蔦が一気に燃え上がった。
植物エミュレイターの動きが止まる。その隙に、エミュレイターのすぐ前に転移して一気に機関銃で撃ち抜いた。
どん、という手応えと共に、エミュレイターの反応が消える。蔦は即座に枯れ落ちて全て炎に燃やされた。
これで6体目。また視界を黒が覆ったので、私は急いで転移する。次は闇の個体を倒しきろうと空中へ行った。その瞬間、またまばゆい光に襲われたが、目を瞑ったままセンサーを頼りに狙いを定める。
よし、ここだ。
引き金を引くと、弾丸の雨が光の中に降り注いだ。同時に、センサーの反応が弱まる。
ようやく7体目。もうあと少し。
しかしここからが厄介だった。光の個体は閃光を発し続け、目では敵の位置が把握できない。センサーを使って必死に探しながら避ける。だが、不意にびりびりとした感覚が手の先に走った。
慌てて上に飛んで後ろへ逃げる。くそ、かなり痛い。
多分、今のは電気の個体だな。電流を流されたらしい。スーツのおかげでそれほど感電していないが、それでも相当な痛みだった。これはかなり危険だ。
私は一度木の中に転移した。とりあえず隠れて、敵が光を放たなくなった瞬間に転移しよう。
そう思ったのだが、次の瞬間に嫌な予感がして咄嗟に私は上空へ転移した。
直後、どーん!という音が響き、木が真っ黒に焦げて割れた。場所を予測された?かなり知性が高いな。今のは危なかった。あと少しで死んでいたかもしれない。
続けて光線がこちらへ迫ってきたので、私は急いで地面に降りて駆け進む。とにかく逃げなければ。
センサーの反応を必死に捉えながら、敵の位置を把握する。しかしかなり無理をしている自覚はあった。さっきはたまたま当たったが、正直センサーは近すぎたりエミュレイターが密集していたりすると、正確に掴みづらい。
まだ超力はそれなりに残っているが、別に底なしにあるわけではない。訓練のおかげでこの1年でだいぶ超力は増えたが、いずれ限界は来る。
今何分くらい経ったかな……あと3体、できれば何とか耐え抜きたい。
走り続けて攻撃を躱していく。閃光、電気、唯一何もしていないのが石だ。どうも、あの個体は防御特化らしい。それなら倒すのは最後の方が良い。
私はひたすら走った。走って走って攻撃を避け続けた。
敵は強い。場所を予測されたのがまぐれでないのなら、転移するとかえって隙を作ってしまう。ここはできるだけ転移せずに耐えたい。
倒すなら、先に電気の個体だ……!
私は機関銃を構え、あえて僅かに隙を作った。予想通り、敵はその隙を見逃さずに電流攻撃がやってくる。
先ほどから観察していて気づいた。この個体は、一度電気を放出したら次に出すまでに5秒時間が空く。だから、その隙に……!
私は転移して電気の個体の真後ろに行き、その瞬間に弾丸を発射した。
至近距離から撃たれた電気の個体は、電気を出すのには1秒足りず、攻撃をもろに受け、そのまま死ぬ。
その間に光の個体が迫ってきていたので、逆に私は間合いを詰めて間近に寄った。エミュレイターの足蹴りが炸裂したが、その足を掴んで地面に押しつけた。
胸部に機関銃を当て撃つ。反動が強かったが、おかげで確実に殺すことができた。
9体目。黒い血にまみれながら、残りの一体を見ると、なんと校舎に向かっている。
私は慌てて後を追いかけた。丁度そのとき、玄関から誰かが飛び出してくる。
ま、まさか。
「史詩夏、ここは私に任せ……あ、あ……」
茜の目の前には石の個体が。
私は叫んだ。
「転移!」
石の個体が巨大な石の手を振り下ろす直前、私はなんとか茜を私の後ろへ転移させた。
直後、途轍もない爆音と共に、玄関前の地面に大きなクレーターがあく。
「わぁぁぁああ!!……って、し、死んでない……」
間一髪……。ぎりぎり、茜を助け出すことができたようだ。
「茜、分身も使わずに出てくるなんて……!」
私は流石に怒って茜を見た。
茜は石の個体のあけたクレーターを見て、さっと顔を青ざめる。
「咄嗟に、学校、守らなきゃって、思って」
「とにかく、エミュレイターからできるだけ離れて!」
そう言って、私は玄関に入りそうになっている石の個体の元へ走った。
石の個体は巨体ゆえに玄関の扉につっかえており、そのままずずず、と天井を動かし始める。
ま、まずい。このままだと校舎が壊れる……!
私は石の個体の後ろへ行き、思い切り引っ張った。しかし石の個体はびくともしない。
「相手は私です!校舎じゃないです!」
どんどん、と石の個体を叩いていると、ようやく石の個体はこちらを向く。
しかし間髪入れずに打撃が飛んできた。
私は咄嗟に後ろへ下がる。再びできるクレーター。うっ、絶対修繕大変だ……!
石の個体を睨み付け、私は叫んだ。
「戦うなら、こっちでしましょうよ……!」
私は走って裏の山の方へ向かった。エミュレイターは素直に後ろからついてくる。脳みそ石ころめ。
グラウンドには茜がいる。あそこには絶対行かせない。
とにかく全速力で走り、校舎からある程度距離をとった。
この先は森。とりあえず、そこで対策を考えよう。
石なので電気は使えないし、火も使えないし、水も使えない。氷づけにしようにも、アイスピックを刺す場所がない。
こうなったら、どうにかして動きを止めて、核だけ転移させるか。
私はポーチからとある道具を取りだして走り始めた。ERSが最近開発した超高性能版……これなら、いける。
エミュレイターは木をなぎ倒しながらどんどん迫ってくる。私は大きな円状に回りながら逃げ、一帯が更地になったところで円の真ん中に行った。エミュレイターがすぐそこまでやってくる。
1、2、3……今だ!
私はそれを地面に突き刺し、同時に高く高く、エミュレイターより高く飛び上がった。
エミュレイターが私に一歩近づいたその瞬間。
「ウゴァァァァァアッ!!」
つるっ、という効果音と共に、エミュレイターは思い切りすっころんで倒れた。
よし!後は……。
私は石に覆われた体に乗っかり、間をあけずにハンマーで中心を強く穿つ。
石の体はひび割れて穴が空き、核が丸見えになった。それを思い切り剣で突き刺す。
ぱきりと割れた感触がして、最後のエミュレイター反応が消えた。
レグラムを見ると、そこには『危険度B10体、討伐完了』の文字が。
戦闘中はウザいので音声を消していたが、数え間違いがなかったか不安だったので一応見た。
よし、大丈夫だな。
……私は、危険度B10体に勝ったのだ。




