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第21話

***




 いつも通り任務をこなしていた。100件の依頼にも慣れたものである。

 疲れた体を引きずって町を歩いた。エミュレイターがすぐ近くに出たという情報があったので、それならわざわざ転移せず歩いた方が良いと思ったのだ。

 高架下を通ると、子どもが座り込んでいた。薄気味悪いな。そう思いつつ、幽霊じゃありませんように、と願いながらこそこそと横を通る。

 そのとき、子どもがくるりとこちらを振り返った。その顔には見覚えがあった。


「あれ、君、超能力者の子」

「あ、お姉さん。あの節はどうも」


 男の子はぺこりと頭を下げた。以前より大人っぽくなった気がする。礼儀正しいというか、子どもらしからぬというか。男子三日会わずんば刮目せよとはよく言ったものだ。


「こんなところで何してるの」

「道草を食ってました」

「こんなところで?」


 私はなんとなく引っかかった。が、子どものことなど考えても分からない。そういうこともあるのだろうと受け入れる。


「お姉さんはなぜここに?」


 男の子は真っ直ぐこちらへ目線を向けてきた。私は話そうか一瞬迷ったが、まあ別に超人だし話してもいいかと思い口を開く。


「この近くでエミュレイターが出たらしいからね。討伐しに行くんだよ」

「どんな奴ですか、それは」

「うーん、情報では危険度Eのスズメ型らしいけど」

「どうやって倒すんですか」


 なんか知りたがりだなこの子。

 私はせっかくなので懐から最新の武器をとりだした。色んな敵に対応するため、本部からもらってきた武器の一つだ。


「この新型レーザー銃。これで一発」

「一発……」


 男の子はなぜか、自分がその攻撃を受けるかのようにぶるりと震えた。子どもにとってはちょっと怖い話だっただろうか。包み隠さず何も気にせず言った私は鬼かもしれない。


「怖がらなくても、そんなに大した攻撃じゃないから大丈夫だよ」

「別に怖がってはないですけど」

「あ、そう」


 気を使ったのは余計なお世話だったか。


「とにかく、一刻も早く倒さなきゃ行けないから、そろそろ行くね」

「はい」


 男の子は頷いた。

 そのときだった。

 突如、鋭いエミュレイターの気配がセンサーに引っかかった。恐らくまだ遠い。だが、これは早く仕留めなければ厄介だろうというような強さを感じた。


「君、早くここから逃げた方が良いよ」

「え」

「あっちの方角になるべく進んで。ほら、急いで」

「わ、分かりました」


 聞き分けが良い男の子は、素直に私の指差した方に走っていく。

 私はその間にレグラムを起動して連絡モードにした。


「こちら三浦史詩夏。付近で危険度A-と思われるエミュレイターの気配を感知。恐らく場所は現在地から1kmほどの地点です」

『こちらEES。承知しました。速やかに避難指示を出します』


 よろしくお願いします、と言おうとしたところで、ふと思った。危険度A-なら知能も高いはず。街中で簡単に戦闘はせず、こっそり暮らして獲物を探す方が手早く賢く生き延びられると分かっているはずだ。

 となると、ここで下手に刺激するのは得策ではない。街中での戦闘は極力避けるべきだ。


「いえ、待ってください。今のところ、向こうは一般人に危害を加えていません。それならば、なるべく警戒させず、私が捕まえて転移して殺した方が良いでしょう」

『分かりました。ですが、万一街中での戦闘になった場合は、絶対に民間人を傷つけないでください』

「もちろんです」


 私はレーザー銃の代わりにメイン武器の機関銃を取りだした。これで、なんとか仕留められればいいのだが。

 エミュレイターセンサーの感じるままに歩いて行く。慎重に、気づかれないように。場所は街中だ。もし戦闘になれば、近くにいる市民にも迷惑がかかる。

 それなりに人通りの多い道を進んでいく。徐々にセンサーの痺れが強くなる。

 どこだ。どれだ。人型か?小さな動物の可能性は少ない。強ければ強いほどより賢い生き物や強い生き物を選ぶのがエミュレイターのやり方だ。多少擬態したものの性質に影響される以上、その方が生き残れるからだ。

 人型だとすれば厄介だ。近くに行くことである程度特定できるが、複数人がまとまっていれば、その中の誰かは判別できない。

 ゆっくりゆっくり歩いて行く。すれ違う人一人一人を注意深く観察する。

 違う。この人じゃない。あの人も違う。

 不意に、センサーがびりびりと電流を流した。途轍もない感覚だった。すぐ、前。今まさにすれ違おうとしている人。

 私は直感的に、その人の手を掴んだ。


「えっ、なんですか」

「すみません。ちょっとお話いいですか」

「急いでいるんですけど」

「そうですか」


 私は手早く手持ちのナイフを取りだして彼の指の先を僅かに切った。

 彼の顔色が変わる。


「転移」


 さっと手を引こうとした。その力は明らかに人間のものではなかった。私は確信した。血の色は黒だった。


「っ……!」


 私はぐにゃりとした感覚と共に、エミュレイター共々転移した。場所は、山。人一人いない広々とした崖の上で、私たちは向き合った。

 エミュレイターは突如全身を翻らせて私から離れた。

 その途端、途轍もない重さが全身にのしかかった。

 私は思わず地面にへばりつく。しかし上から蹴られる前になんとか転移した。

 エミュレイターの上から真っ直ぐ機関銃を撃とうとした。しかし、その前にエミュレイターに逃げられる。

 また重力が重くなった。即座に地面に叩きつけられる。

 厄介だ。しかし、それは私以外の人の場合。私は、ちょっと彼からすると分が悪い相手だ。

 転移。あんまりやるとじり貧だ。

 私はまた逃げようとしたエミュレイターの行く先を予想して転移した。

 ……予想通り。間髪入れず、機関銃をぶっ放す。


『胸部、射て』


 最後まで聞かなかった。もう感覚で命中すると分かっていた。


「あぁぁぁぁぁあっっっ!! くそっ、くそぉぉおおおおっ!!」


 エミュレイターは怒声を響かせながら撃ち抜かれた。それは核を貫通したようだった。血しぶきが黒く上がる。

 エミュレイターセンサーの反応が消え、エミュレイターは地面にばたりと倒れ落ちる。

 私はレグラムを起動した。


「こちら三浦史詩夏。危険度A-、討伐しました」

『こちらEES。承知しました』


 それだけ言ってぶつりと連絡を切る。

 捕獲キューブを取り出してぶつけ、いつも通りポケットに入れる。

 危険度A-だったが、私の能力とは相性が良すぎた。重力操作……転移能力者に範囲指定系の能力はほとんど役に立たないのは誰もが知っているところだ。運が良かった。

 また転移し、街中で今度は危険度Eを探す。結局やれてなかった本来の依頼だ。スズメ型は飛んで移動してしまったようで、暫く捜索を続けてみる。

 ……いた。エミュレイターセンサーが反応している。あそこに一匹で止まってるスズメだな。私はなるべく気配を消して、レーザー銃でスズメを撃ち殺した。

 スズメは黒い血を流しながら電線から真っ直ぐ落ちていった。それを地面につく前に手で受け止める。よし、やっぱりエミュレイターだな。

 一応血の色を確認してから、捕獲キューブをぶつける。あっという間だったな。しかしそうでなければいけないのだ。なんせ依頼は山ほどあるのだから。

 レグラムを起動すると、やはり5件ほど依頼が増えている。この短時間で、だ。普通にやめてほしい。

 私は深々とため息をついて、また転移した。今度は隣町だ。

 それから色々と依頼を終わらせ、署に戻って諸々の作業し、やっとのことで家に帰ったのが午後7時。明日からは平日だし学校もあるのに……私は疲れを感じてぐったりと横になった。傍には小山のように積まれた報告書たち。

 あー、もう、たまには休みたい!

 しかし明日は学校に行くために休みを取っているので、そういう意味ではまだマシなのだが。

 いつまでこの日々が続くんだろうと、私はげんなりした気持ちで眠りについた。




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