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第2話


「なに、……?」


 知らない地名。

 レグラムでここからの移動距離を調べると、なんと車で4.5時間と書かれていた。

 あー、この場所、もしかして新井先輩がいるところだろうか。私がよくお世話になっている新井先輩は、丁度この辺りにある北海道第六署の署長をしていたはずだ。

 流石にそこまで遠いところは、私の活動範囲から外れている。知らないのも無理はない。

 聞く限り、かなりの惨状のようだ。珍しいのは、それだけエミュレイターと実力差がある隊員が交戦しているということ。

 恐らく任務の情報が間違っていたか、食い違いがあったか……もしかすると、偶然居合わせたのかもしれないが、どちらにしても交戦に至ることは稀だ。

 エミュレイターが超人を襲うメリットはほとんどない。エミュレイターは超人に擬態できないし、超人を食べたエミュレイターは大半が超力の形状乖離で死んでしまう。間違った血液型を輸血されるのに近いかもしれない。だから、人を狙うとき、大抵のエミュレイターは超人に見つからないようにする。

 ただ、一つだけ……超人を喰らったエミュレイターが、稀に進化することがある。いわゆる超力の形状一致による適合。合体。

 その結果何が起こるか。その超人の超能力を持った、さらなる強化種が生まれるのだ。

 知性が高いエミュレイターの中には、その情報を知って、あえて超人を狙う者もいる。だからこの情報には箝口令が敷かれているが、人の口は完全には閉ざせない。時折どこかから情報が漏れ出ることもある。

 最悪のケース。脳裏にかつての座学授業のことがよぎる。


『エミュレイターセンサーを持っていない隊員の前に、人型のエミュレイターが現れることがある。奴等は巧妙に擬態し怪我をしていると訴え、隊員を引き寄せる。センサーを持っていない隊員はそれがエミュレイターだと気づかず、ついて行ってしまう。そして食べられる。隊員……つまり超人を喰らったエミュレイターは、通常は死ぬが、稀に適合し、さらなる強化種になることがある。コレがいわゆる“最悪のケース”で、危険度は酷い場合は……』


 測定不能。つまり、規格外に強くなる。

 ただ、実際にそのような例が報告されたのは過去片手で数えられるほどであり、今回それを憂慮する必要はないだろう。

 人型エミュレイターは知性が高く、擬態元の人間の要素にかなり影響される型だ。彼らが隊員と交戦する理由なんてあまり思いつかないが、多分殺した民間人たちをまだ食べていないうちに入った邪魔な小物をさっさと殺してしまおう、ということなんじゃないだろうか。

 私は道順をレグラムで表示した。立体ホログラムを見ながら、頭の中でそれを再構築する。急げ。被害を最小限に抑えるために。

 ありったけの集中力を持って、全ての道順を把握する。


「……転移」


 瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。



***



 俺は焦っていた。隊員として初めての危機だった。

 いや、今までも色々やべー!と思うようなことはあった。……が、それらは大抵「命は大丈夫だけど暫く動けなくなるかもしれねー!」というような状況で、今日のようなことは初めてだった。

 青階級として、それなりに自信はあった。経験も積んだし、6年間の実戦経験は伊達じゃない……はずだ。

 青階級は危険度Cを単独で捕獲できる階級。危険度Cを倒せてこそプロ、と言われる隊員業界において、この階級はプロの証のようなものだ。

 来年は赤階級に……なんて、新人の頃ほどではないにしろ、それなりに気合を入れて任務に励んでいた。そんな毎日。

 俺のいる北海道では人手が足りてないし、自然豊かだから危険なエミュレイターもうじゃうじゃ沸いてくる。だからかなり激務だけど、その分、周りの奴より早く階級を上げられた。

 俺は若手を引っ張るリーダー役もするようになったし、そうすると自ずと、「自分が全員の命を背負っているんだ」という責任感と自信もわいてくる。

 天才と呼ばれるような人間……例えば同じ北海道の神童、弱冠15歳にして既に緑階級の三浦史詩夏などには劣るとしても、優等生と呼ばれる部類にはなっているはずだ……。

 そうやって、たった一年で神童に追い抜かれた、天才になれない自分を慰めながらも、一種の傲慢を持っていた。

 俺は優秀なのだ、と。


 ありきたりな任務だった。もう慣れたグループ活動。リーダーとして申し分ない成果と、後輩たちの尊敬の目。危険度B-1体の討伐に、青隊員が俺と他二人、紫隊員が三人。計六人での任務だった。

 順調に終わって帰路についていた時、偶然捜索隊員に出くわした。それが随分おしゃべりな隊員だった。暗い空模様の中、任務中何度か降った雨がまた降り出しそうで、内心早く帰りたいと思っていた。

 しばらくそうやって皆で立ち話をしていたとき、ふと、仲間の一人が、「木田がいない!」と言いだした。見ると、確かに後輩の一人である木田がいなくなっていた。

 俺たちは木田を探したが、なかなか見つからなかった。だから仕方なく分かれて探すことにした。それが運命の分かれ道だった。

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