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第16話

******





 いつも通り戦闘が終わったときだった。

 ぶるぶると震えたのはポケットの機器。プライベートのスマホだった。

 どうしたんだろう。開くと、番号はなんと研究所だった。一つ頭によぎったこと。それはこの前の謎の石。

 電話に出る。


『……もしもし、三浦史詩夏さんの携帯でしょうか』

「はい。そちらは研究所さんですよね」

『そうです。実は、以前三浦さんに届けてもらった石について、研究員が面白い事実を見つけまして……詳しいことを伺いたいので、研究所に来ていただきたいんです』


 面白い事実。その言葉に心が揺れた。

 仕事は忙しい。でも、少しくらいなら休む暇はある。赤丸さんらが頑張ってくれているのか、最近は私の仕事量も減ってきていた。


「分かりました。いつそちらに伺えばよろしいでしょうか」

『いつでも良いですが、早ければ早いほど助かります。時間帯は13時から18時の間であれば』

「では、明日の17時にそちらに伺ってもよろしいでしょうか」

『はい。待っています』


 そこで電話を終えた。

 予定に研究所行きを追加する。それに合わせて、明日のスケジュールも決めた。どうせ明日は学校が休みだったはずだ。確か振替休日だとかなんだとかで。最近はどちらにせよ行けていないが、行けるなら行きたいので、一応学校終わりに行けるような時間にした。

 せめて午後だけでも行けますように。そんな願いを持ちながら、明日のことを考える。うーん、忙しくなりそうだ。

 ちょうど依頼も全て片付いたばかりだったので、私は家へと転移した。

 視界が曲がり、暗い玄関に辿り着く。

 今日はいつもより早く終わったので、家事ができるだろう。靴下を脱いだ足でペタペタ歩きながら考える。

 不意に、泣き声がした。上の階からだった。そういえば、上の階の人はまだ若い子連れの夫婦だったと思い出す。普段あまり家にいないせいで分からなかったが、そうか、まだ4、5歳の子だったから泣くこともあるのかと納得する。

 泣き声は苦手だ。胸がざわめいて、頭がきーんと痛む。

 そういえば。子どもということで、ふと思い出す。あの男の子は、どうして親に捨てられたんだろうか。

 超人だから、というわけではなさそうだ。だって、あの子は能力を使うことになんのためらいも持っていなかった。もし能力が原因で追い出されたのなら、少なからず能力を使うことは悪という認識を持つだろう。

 もちろん、世の中には超人を嫌う人たちもいる。そういう人の中には、自分の子どもが超人だということが受け入れられず、虐待することもある。

 じゃあ、他の理由なのだろうか。いまどき支援の手が届かない家庭というと、犯罪に巻き込まれていたり、不法滞在していたり、ということが考えられるが、真相は闇の中だ。

 新井さんも、詳しいことは何も話さなかった。ただ、男の子が正式に超人だと認められたこと、養護施設で育つことになったこと、超人として訓練することが決まったこと……それだけ。

 超人は、孤独だ。同じ超人としか分かり合えないときもある。だって特別なのだ。

 超人はエミュレイターの脅威に怯える必要がない。エミュレイターは超人を食べると、拒絶反応を起こして死ぬ。だから私たちは食べられる心配もないし、力でも圧倒できることが多い。

 それに容貌にも恵まれやすい。森先輩も月見先輩も、新井さんも、皆美形だ。深夜くんみたいにその中でも抜きん出た人はいるが、大体がそれなりに優れた容姿を持っている。

 特別な能力、特別な体質、特別な容姿。私たちはそれと引き換えに一生を世のため人のために捧げることが決まっているけれど、それでも羨ましがる人は多い。

 隊員になれるのは超人だけ。超人は約10万人に一人の確率でしか生まれないので、相当数は少なくなる。実際、世界の超人の総人口は8万人ほどしかいないそうだ。アフリカ人は超人が多いとか、中国は超人支援を行ってるから超人の比率が高いとか、そういう違いはあれど、大体どこも人口の0.001%しかいないのだからそのくらいになる。

 それもあって、超人の中には自分を特別な存在だと思っている人も少なくない。そういう横柄な人たちのせいで、超人のイメージが良くないのは事実だ。中途半端に人気のスポーツ選手のようなそんな感じ。

 私は超人以外を知らないから、普通の人のことはよく分からない。でも、毎日死ぬかもしれないという不安を持つのはきっと悲しいくらい怖いだろうと思う。

 だから、できる限り任務を全うしようと思っている。そうすることが、最大限の助けになるだろうから。

 いつも通りの夕食。窓の外には暗い空が広がっている。




*****




 研究所に来たのは初めてだった。

 敷地内に入る前に、機械に顔と指紋、レグラムを読み取らせる。すると、機械は「北海道署所属、緑階級、三浦史詩夏隊員。本日17時に予約あり」と事務的に言った。

 同時にゲートがガチャンと開く。私はおそるおそる中に入った。

 まず目に入ったのは大きな像。日本のエミュレイター研究の第一人者、黒柳祥太郎博士、と書いてある。

 それから、広い芝生と沢山の木。広大な敷地は全て厳重な柵に囲まれていて、目隠しのように木が植えられていた。

 その木々の間、真っ直ぐ引かれた道を歩いて行く。だいたい5分ほど歩いただろうか。見えてきたのは、巨大な四角い箱のような建物だった。

 さあ……と風が吹き抜けて、青々とした木の葉が揺れる。鳥の声が朗らかに響いていた。野花がたくましく咲き乱れている。

 建物に近づくと、重厚な作りの鉄製らしき扉が現れた。すぐ傍には監視カメラ。警備の厳重さに緊張感を抱く。

 扉に反射で映った自分の顔。歪んだそれを眺めながら、暗証番号を入力した。

 ピピ、という音と共に、ガチャンと施錠が外される。

 おそるおそる取っ手に触れると、冷たい感触が肌に染みた。

 扉を開けて中に入る。目の前に広がったのは、どこまでも続くような回廊だった。地図を見ると、蟻の巣のように無数に研究室が並んでいることが分かる。エントランスがないのは、研究員以外がここに来ることを想定していないから。

 ここはERS。日本でトップクラスの警備を誇る研究所。エミュレイター研究はまさに国家総出の大事業だ。だからこそ、情報秘匿が徹底されている。

 私が今回ここに来られたのは、隊員であることと、石のことで詳しい事情を話すという理由があったからだ。普通はこんなところ入れない。

 暫く入り口のベンチで休んでいると、タッタッタ、という音と共に、小走りで誰かがこちらにやって来た。

 白衣に眼鏡。後ろで一つにくくられた長い髪。化粧気のない女の人だった。


「三浦さん、お待たせいたしました。今回お話させていただく、北見です。こちらへどうぞ」

「よ、よろしくお願いします」


 北見さんは私をちょこちょこと手招きする。私は立ち上がって後ろに着いていった。

 少し歩いて、開けた場所に出た。どうやらカフェスペースらしい。

 沢山並んだ中の椅子の一つに、北見さんは腰掛けた。

 私も隣の椅子に腰を下ろす。


「まず、以前いただいた石についてですが、こちらで解析が一通り終わりました」

「おお」

「それでですね、どうもこれは、

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