第13話
場所は北海道の端っこ。もうとっくに能力は使えるようになっているので、いつも通り転移した。
辿り着いたのは森の中だった。一体なんで捜索隊員もこんなところまで来たのだろうか。疑問が浮かんだが、仕方なくエミュレイターを探す。センサーは微量だが反応していた。
事前情報では危険度C。鳥型だというのでちょっと厄介だ。私はあまり速さを武器にしていないし、メイン武器が機関銃、サブ武器が長剣なのでどちらも鳥を殺すには向いていない。
こういう依頼は今まで私には来なかった。もっと得意な人がいたから、彼らに回されていたのだ。だというのに、全員この前の戦闘で亡くなってしまった。
つくづく、隊員とは危険な仕事だと思う。いつ死ぬかも分からない。死亡率は62%越えなのだから。定年を迎えるまでに、だいたい半分以上が死ぬ。
それでもこの仕事は強制参加だし、やめることはできない。ただでさえ少ない超人の中でも、まともに隊員をやれる才能を持った人はそう多くないのだ。だから毎日戦わされる。学生の私でさえも。
そんなことを考えているうちに、エミュレイターセンサーが強く反応した。あ、いる。直感が真っ直ぐ右上に視線を移させた。
案の定、そこには一匹のカラスがいた。こんな一匹が危険度Cか……本体は一体どんな奴なのか、少し興味があったが、本体に戻られると厄介だ。その前に片づけよう。
機関銃を取り出して、真っ直ぐカラスに向ける。気配を殺す。訓練は受けている。隊員としての階級を分けるのは、こういうときに勘づかれないかどうかでもあったりする。
……今だ!
私はドドドド、と機関銃をぶっ放した。
あっという間に蜂の巣になるカラス。飛び立とうとした羽根から穴だらけになって墜落した。
捕獲キューブを取り出してぶつけると、カラス……の肉片はみるみるうちに飲み込まれていった。
そのまま帰ろうとしたとき、不意に声がした。
「わあっ!」
子どもの声?それと共に、草木が潰れるような音が響いた。
私は慌てて声のした方に走る。そこには、まだ6歳くらいの、小さな男の子が座って泣いていた。どうやら転んだらしく、膝の皿に血が滲んでいる。
「君、大丈夫?」
私が声をかけると、男の子はおそるおそる、と言うように顔を上げてこちらを見る。
「た、助けて。親に捨てられた」
「え」
そんなことある?ただの家出で嘘ついてるとかじゃなくて?
流石にこんな子どもを森に捨てるような親が現代にいるとは考えにくいが、親の姿は確かに見えない。
とりあえず警察に行った方が良さそうだ。
「分かった。お姉さんに着いてきて」
「うん」
男の子はとても聞き分けよく頷いて着いてきた。
「これから警察に行くから、怖がらずに事情を説明してね」
「け、警察は駄目!」
「なんで?」
怖いんだけど。警察に行かなかったら私が誘拐犯になるじゃないか。それは困る。北海道署の戦闘隊員が男児誘拐で逮捕!とか、想像したら最悪だ。
「と、とにかく駄目!絶対嫌!僕やっぱり行く!」
「えっ、ちょっ、待って!」
「お姉さんなんでこんなに足早いの!?」
う、つい子ども相手に手加減なしでやってしまった。
しかしあっさり捕獲された男の子は、ジタバタ腕の中で暴れている。困った。これでは本格的に誘拐犯だ。
仕方なく、手を握ったまま地面に下ろした。
すかさず手を振り払おうとした男の子を必死で掴み続ける。な、なんかこの子滅茶苦茶力強いな……。
腕をぶんぶん振って逃げようとする男の子。と、突然周囲に突風が吹き荒れた。どんどん強くなっていく風。
「な、なにこれ!急に風強くなりすぎじゃない?」
「お姉さんが手を離さなかったら、もっと強くなるよ!」
「えっ!?まさか、これ君が……」
「そうだ!分かったら早く離して!!」
流石にこのままにしておくわけにはいかず、私は根負けして叫んだ。
「分かった!じゃあ一旦警察に行くのはなし!」
「それならいいよ」
あっさり頷く男の子にずっこけそうになる。途端に収まる強風。やはり、この風は男の子が吹かせていたものらしい。私は驚愕しつつ、男の子を見つめた。
つまり……ということは、この子は、超人ということだろうか?
束の間考え込む。警察には行けない。そしてこの子は超人。普通の人に任せたら、何があるか分からない。
小考の末、私は北海道署に戻ることにした。
男の子と手を繋いだまま転移する。気持ち悪さが一瞬襲ってまた去って行く。
目の前には北海道署が。
「な、なにこれ!なにこれ!!」
男の子が大興奮でこちらを見た。私は愛想笑いして誤魔化した。
署に入ると、受付がぎょっと目を見開いてこちらを見つめる。当然だ。突然私が知らない男の子(部外者)を連れて署にやって来たのだから。
「ちょ、ちょっと三浦さん!関係者以外立ち入り禁止ですよここ!しかもこの子、まだ子ども……!」
「すみません、これには浅いとも浅くないとも癒えない理由がありまして……新井さん呼んでくれませんか?」
私が力強く受付の人を見つめると、彼は根負けしたようにしょぼくれて頷いてくれた。
間もなく、新井さんがやって来る。呼んでおいてなんだが、署長、暇なんですか?と思った。
「それで?一体どういうわけがあるって?」
「その……実は」
私は、偶然森で男の子に出会ったこと、親に捨てられたらしいこと、超人であること、警察を嫌がってどうしても行こうとしないことを簡潔に伝えた。
「それは……、」
新井さんは顎に手を当てて考え込む。
「とにかく、私の手には負えないので、新井さんになんとかしてもらいたいと思いまして」
「うーん、分かったよ。後は任せて。僕、ちょっと話そうか」
男の子に目線を合わせて、新井さんはにこ、と微笑んだ。男の子は警戒したように私の後ろに隠れたが、その笑顔に少し気が緩んだらしい。おずおずと頷いた。
私はそれを見て、男の子を新井さんに引き渡す。
「ありがとうございます」
「いやいや。これしきのことは別にいいよ。仕事、頑張ってね」
「はい」
私は頷いた。
「お姉さん、行っちゃうの?」
「そうだね。後はこのおじさんがなんとかしてくれるよ」
「……そっか」
男の子はやはり聞き分けがよかった。
それ以上深く追求することなく、ばいばい、と手を振る。私もそれに振り返した。
レグラムを見ると、依頼がたまっているのが分かった。はぁ……やりたくないな。
そう思いつつ、晴れた空に、また頑張るかと腕を伸ばした。
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