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第11話

****



 ドカン!

 爆発が生じ、黒煙が上がる。周りには大量の血、死体。

 既に満身創痍だった。戦い始めてからもう三日は経っている。エミュレイターは止まってくれないから、食べるのもそこそこに戦い続けている。なんなら寝たのも三日で二、三時間だ。朝日が昇ってまた沈む。周囲はもう真っ暗だ。夕暮れが終わってしまったのが少し悲しかった。まだ第二部隊は来ない。

 徐々に敵の位置は前に進んでいる。なんとか今のところ食い止めているが、この感じだと、更に住民を避難させなければならないかもしれない。


『こちら左チーム! 左上から二番目の腕を切断しました!』

『こちら右チーム! エミュレイターの再生阻止液が届きました! 上空から一斉噴射します! 危険なので隊員の皆さんは対毒液装備に切り替えてください!』


 了解、っと。私は素早くベルトのダイヤルを回してバージョンを切り替える。

 間もなく、遙か頭上から猛烈な光線が降り注いだ。毒液噴射の合図だ。

 途轍もない爆風と共に、視界が更に黒く染まった。


「ウガゥォァアアアアッッ!」


 エミュレイターのうめき声。どうやら効いたらしい。

 毒液が霧散しきる前に、私はエミュレイターの体の上を走り始めた。仲間もそれに続いて走り始める。


『中央チームは現在、主格の目を潰すため頭部付近に移動中、攻撃の際は注意願います』


 私たちのことだ。動きが鈍くなったエミュレイターに追い打ちをかけるため、私たちは高速でエミュレイターの体を駆け上がる。

 とはいえエミュレイターは腕が八本、歯はギザギザ、目は百個、頭に鹿の角、足は蹄、という意味の分からない姿をしているので、登るのも一苦労なんだけど。

 主格の目は頭の天辺にある。一際大きく、そしてちょくちょく濃硫酸に似た液を流す。滅茶苦茶危ない。そして怖い。

 だけど、それよりもやらなければいけないという使命感の方が強い。私は特殊ナイフを取り出し、開け始めた視界の中、レグラムを起動した。

 どうやら私が一番上にいるようだ。まだ遠い他の仲間たちを待とうか悩んだが、今回は時間との兼ね合いもある。私はまた走り出した。

 どこだ。どこに目が……あった。

 私の体がすっぽり包み込めてしまうだろう大きさ。ぎょろりとした目は、他の目よりも一層大きく不気味に輝いている。

 このまま直接突き刺すには、角度を整えなければ。私は一瞬立ち止まった。その瞬間だった。

 ぎろり。こちらを見た目。

 しまった……!間違いなく目が合った。

 私が飛び上がったのと、目から硫酸の涙が落ちたのはほぼ同時だった。

 どどどどど、と滝のように流れ落ちたそれは、私が先ほどまで立っていた場所をあっという間に飲み込んでいく。危なかった。流石にあの濁流の中立っていることはできなかっただろう。


「硫酸が流れました。警戒してください」


 レグラムにそう入れつつ、私は付近に人がいないことを確認する。よし、大丈夫だ。

 硫酸が流れている間は手が出せない。とりあえず一度避難しよう。

 空中でジェットを吹かし、私は一度更に上空へと避難した。この量の液体の中では、ボムも大した効果をもたらさないだろうし、今は打つ手がない。

 そのまま主格の目と反対方向に走る。相変わらずこちらにいるのは私一人で、どうやら皆随分手こずっているらしい。まあ大量の目の合間を縫ってほぼ90°の傾斜を登るのは、なかなかに骨が折れるだろうし仕方ない。

 そろそろ霧が晴れてきた。今のうちに移動を……ん?なんだこれ。

 不意に視界に飛び込んできた謎の隙間。それはエミュレイターの裏側にあり、とんでもなく大きかった。

 どういうことだろう。ここだけ何故か目が全くついていない。口……にしては歯がないし、舌も粘膜もない。

 気になって、私は思いきって隙間に手を突っ込んでみた。奥に何かある。なんだろう。ぐぐっと引っ張る。

 なんだこれ、かたいな。しかし手応えを感じた。私は渾身の力を込めて引っ張る。

 ……っっ、抜けた!……って、これはなんだ?

 現れたのは丸い月のような石だった。それなりに大きい。

 よく分からないが、持って帰って研究室に渡すか。私は石をバッグに入れた。

 それより、目だ、目。早く目を潰してしまおう。私はぐっ、と足に力を込めて思い切り駆けだした。見ると、もう目からはなんの液体も流れていない。

 今しかない。片手に持ったナイフを力強く振り上げた。

 角度は、ここだ…………!!!!

 全身全霊の力を込めて、私はナイフを目玉に突き刺した。


「アガァァアアアアッッッ!!!」


 獣のような咆哮が鳴り響き、目玉からどくどくと禍々しい黒の血が流れた。

 同時に、エミュレイターの動きが止まる。


「主格の目を破壊しました」

『よくやった。これより、砲弾を発射する』


 レグラムから聞こえてくる声。そうだ、エミュレイターの動きが止まった今が、最大のチャンス。

 ようやく掴んだこの機会を逃すな。

 三日経ったら最新兵器が投入される、というのは知っていた。だから今この作戦が実行されたということも。


『発射まで、6、5、』


 私は走って走って核部分からできるだけ距離をとった。


『4、3、2、1……』


 間に合え、間に合え……よし、ここなら大丈夫だろう。


『発射!!』


 ドォオオオオオンッッッ!!!

 地面を揺らすような響きが、真っ赤な閃光が、刹那、灼熱と共にエミュレイターの核を貫いたのを感じて……。

 エミュレイターが、崩れた。


『総員、一斉退避ーーー!!!!』


 どろどろと溶けていくエミュレイターの体。私は慌てて飛び上がった。

 半ば落ちるように下に降りていく。レグラムを見ると、生体反応はまだ上に沢山あった。逃げ切れてないのだ。当然か。この巨体がまさか溶けるなどと、誰が想像しただろう。

 とりあえずすぐ傍にあった反応を探す。


「助けてーーー!!」


 同じ中央チームの若手だ。同じ北海道署の人で、私も知っていた。涙を流して、もう完全に諦めムードになってしまっている。


「掴まって!」

「ああああ!!!」


 私が適当にロープを投げると、彼女はなんとかそれを掴んだ。ぐいっとそのまま引っ張る。


「ありがどうございまず……!!!」

「他の人も助けるよ」


 それから、私は手当たり次第に上にいる隊員たちを救出していった。

 気づけばロープにぶら下がっている人数が10人以上になっており、流石にこれ以上はと一度下に降りる。

 地面に全員を下ろして、私は叫んだ。


「皆早く逃げて」

「は、はい!」


 走り去っていく背中を眺めて、安堵した。

 その瞬間だった。


「ッ、危ない!!」


 ビル一個分に相当する大きさのエミュレイターの角。それが、真っ直ぐ落ちていく。

 私は、どうすることもできなかった。体が、反応してくれなかった。


ドシャァァァアアン!!!

 血が飛び散る。角が砕けていく。その下には、私が助けた人たちの残骸。

 急いで生存者を探そうとしたが、次から次へと角の欠片が降り注いでくるのでそうもいかない。

 必死に破片を払い避ける。

 なんとかその隙にレグラムを開いた。そこに生体反応はなかった。

 私以外、全滅だった。

 ……束の間、目を閉じる。そうすれば、浮かんでくる。先ほどまで生きていた人たちの顔。助かるんだという期待のこもった顔。そのぬくもりがまだ手に残っている。

 それが、一瞬で、もう戻らないものになってしまった。

 そうしている間にも濁流が押し寄せてきていた。

 私は全速力で走る。破片も飛んでくるのでその度にサブ武器の長剣でふっ飛ばしていた。

 なんとか濁流が止まるまで逃げた。長い長い逃避行だった。ひたすら逃げ続け、生存者を探し続け、足が痛んでも走り続けた。

 後方200mほど、動きが鈍化して完全に静止した濁流に、私はホッと息を吐く。もう1時間は逃げていた。

 周りを見渡す。第二部隊がいる地点から大体500mほどの地点にまで来ていた。

 そのとき。


「あ」


 右腕に重傷を負った月見先輩を見つけた。暗い中でも血が流れているのが分かった。先輩は片手で森先輩を抱っこして、亡羊と立っていた。

 ヒュウヒュウと風が吹く。世界に取り残されてしまったみたいに、その横顔は寂しげだった。

 声をかけようか迷って、おもむろにその視線の向かう先を見る。真っ暗な中、遠くに微かに光が見えていた。もうすぐ日が昇るのだ。

 私が近づくと、先輩も気づいたようだ。こちらを見た瞳は、一瞬揺らいで、少しだけ伏せられてまた開いた。


「先輩、森先輩は……」


 私は不安になって先輩に尋ねた。


「いや、まだ生きてるよ。死んでない。ただかなり強い打撃を食らってね……長い戦闘で疲弊していたときの一瞬の隙をやられたよ」


 先輩は食い気味に答えた。いつもの軽さはどこかへ行ってしまったみたいだった。


「そうですか……他の隊員は?」

「一人、また一人と消えていって、もうほとんど残ってなかった。でもこの最後の液状化で本格的に全滅さ」


 私はそうですか……と言うことしかできなかった。

 気づけば、静寂が辺りを包んでいた。

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