第7話「精霊の警告」
対話区画に現れた精霊族の少女――ルルは、
宙に浮かんだまま、きょろきょろと周囲を見渡していた。
「ひと、いっぱい」
その声は幼く、だが不思議と胸の奥に響く。
地球側の調査団は、誰一人として動けずにいた。
銃も、科学も、理論も――
この存在を前にしては、意味を失っていた。
「……本物、なのか」
アメリカ側の科学顧問が、震える声で呟く。
「ホログラムじゃない。
エネルギー体……いや、それとも生命体?」
ルルは首を傾げた。
「えねるぎー?」
そして、くすっと笑う。
「むずかしいことば、きらい」
ミルスが、深く一礼した。
「精霊族・ルル。
なぜ、ここに?」
「だって」
ルルは、空を指差した。
「世界、きゅうって鳴いた」
その言葉に、
ドラード側の全員が息を呑んだ。
「……世界鳴動」
ダイクが、低く呟く。
「古文書にある。
“世界が耐えきれなくなった時に起こる前兆”」
松田美由紀は、真剣な表情で問いかけた。
「ルル。
このまま、私たちは共存できる?」
ルルは、少し困った顔をした。
「……できるよ」
「でもね」
その表情が、急に大人びる。
「条件がある」
空気が、張り詰めた。
⸻
「世界は、
ふたつが無理やり、くっついてる」
ルルの周囲に、淡い映像が浮かぶ。
地球とドラード。
二つの球体が、歪みながら重なっている。
「このままだと」
映像に、亀裂が走る。
「こわれる」
「どちらかが?」
瑛斗が、思わず口を開いた。
ルルは、首を振った。
「どっちも」
その一言が、重く落ちた。
「世界が、ひとつになるにはね」
ルルは、指を一本立てる。
「“芯”が、ひとつ必要」
「芯……?」
ミルスが呟く。
「世界の中心軸。
法則を束ねる存在」
ルルは、にっこり笑った。
「そうそう」
だが、次の言葉は、笑えなかった。
「それが、ないと」
「魔力と、ちからと、こころが、
ばらばらになって――」
ルルは、ぎゅっと拳を握る。
「魔神が、生まれる」
⸻
その言葉に、
ドラード側が一斉にざわめいた。
「魔神族……!」
「デーモンロードの伝承か……」
ラークは、拳を握りしめた。
「……つまり」
彼は、松田を見て言う。
「この世界融合は、
放っておけば災厄になる」
松田は、静かに頷いた。
「回避する方法は?」
ルルは、少しだけ視線を落とした。
「ある」
「でも……」
瑛斗の胸が、嫌な予感で締め付けられる。
「だれかが、“境界”になる」
「境界……?」
「ふたつの世界の、あいだ」
ルルは、瑛斗を見た。
まっすぐに。
「え?」
「この人」
指を指された瞬間、
全員の視線が瑛斗に集まった。
「……ぼく?」
ルルは、こくんと頷いた。
「あなた、
世界の音が、まざってる」
ミルスが、息を呑む。
「……確かに。
この人、魔力がないのに、
精霊の声が……」
瑛斗は、頭が追いつかなかった。
「ちょ、ちょっと待って。
俺、普通の高校生――」
「ううん」
ルルは、首を振る。
「もう、普通じゃない」
その言葉が、胸に突き刺さる。
⸻
遠く、ドラードの深淵。
魔王デイドは、愉快そうに笑っていた。
「なるほど……“境界”か」
その前に、
黒い影が跪く。
「デーモンロード・ダーク様が、
目覚めの兆しを見せています」
デイドは、舌なめずりした。
「いい。
世界が選んだ“芯”があるなら――」
「壊せばいいだけだ」
⸻
対話区画。
重い沈黙の中、
皐月が、瑛斗の袖を掴んだ。
「……行かないで、って言ったら」
瑛斗は、少しだけ笑った。
「困るよな」
そして、前を見据える。
(逃げたら、
世界が壊れる)
(それなら――)
「……まだ、決めない」
瑛斗は、ルルに言った。
「でも、
ちゃんと話を聞かせて」
ルルは、満足そうに頷いた。
「うん」
「時間、すこしだけあげる」
空に、再び金色の光が瞬いた。
それは、
世界が待っている合図だった。




