表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/75

第57話「祈りの増幅」

芽吹いたものに名前が与えられ、

役割が与えられ、

そして今。


祈りが、集まり始めていた。


それは静かに、だが確実に。


都市のあちこちで、光の存在たちは“使われて”いる。


守護。癒し。願掛け。

願望の代行装置。


「……嫌な予感しかしない」


朝霧が、端末の画面を拡大する。


映っているのは、とある配信者の動画。


“マージに願えば叶う説やってみた”


コメント欄は爆発している。


皐月が冷静に分析する。


「因果の改変は確認されていない。ただし」


「ただし?」


「確率が、微妙に歪む」


ラークが低く言う。


「歪みは、蓄積する」


瑛斗は黙っていた。


胸の第三の色が、ざわつく。


光の存在たちは、元々ただの“具象化された余白”だった。

害も目的も持たない。


だが今。


人の祈りが、方向性を与え始めている。



公園。


あの少年は、今日も“マージ”と一緒だ。


だが以前と違う。


周囲に人が集まっている。


「触らせて」「お願いしていい?」


スマホのカメラ。

ライブ配信。

興奮。


少年は困惑している。


「マージは、ただ一緒にいるだけだよ」


だが周囲は聞かない。


“幸運の光”

“癒しの精霊”

“現代の守護存在”


言葉が、重ねられる。


瑛斗は人混みをかき分ける。


「解散してくれ」


ラークが圧を放つだけで、半径数メートルが静まる。


皐月が少年の前にしゃがむ。


「怖くない?」


少年は、少しだけ迷ってから頷く。


「みんな、マージにお願いばっかりする」


光の塊は、以前より強く脈打っている。


それは、嬉しさではない。


負荷。


朝霧が息を呑む。


「これ、増幅してる」


「祈りが?」


「うん。感情が、入ってる」


瑛斗が目を閉じる。


感じ取る。


光の内部で、無数の声が反響している。


合格しますように。

振り向いてくれますように。

病気が治りますように。

お金が手に入りますように。


願い。


願い。


願い。


重なり合い、圧縮され、

形を変え始めている。



その夜。


最初の“現象”が起きた。


ある受験生が、マージに祈った翌日。


偶然にも、志望校の補欠が繰り上がった。


SNSが爆発する。


「本当に叶った」

「やっぱり奇跡」

「拡散希望」


皐月は即座に検証する。


「確率の範囲内。だが」


「だが?」


「偏りが異常」


ラークが言う。


「祈りの集中地点で、事象の選択が揺らぐ」


瑛斗は、低く呟く。


「増幅器だ」


朝霧が目を見開く。


「願いを叶えてるんじゃない。

可能性を、押してる」


押された可能性は、他の可能性を押しのける。


つまり。


誰かが“当たる”なら、

誰かが“外れる”。


見えない均衡が、ずれる。



ダークが現れたのは、その晩だった。


ビルの屋上。

風が強い。


「予測不能は、面白い」


瑛斗は睨む。


「楽しんでるのか」


「観察している」


ダークは、街に点在する光を見る。


「人は祈る。

祈りは力を持つ。

力は形を欲しがる」


皐月が鋭く言う。


「あなたは関与していない?」


「していない」


間違いなく本心だ。


「だが興味深い。

揺らぎが、信仰に変わる瞬間」


朝霧が苦い顔をする。


「宗教化ってやつ?」


ダークは微笑む。


「信仰は、最大の増幅装置だ」


瑛斗の胸の第三の色が、強く震える。


これは侵略ではない。


人間側の作用だ。


「止めるべきか」


ラークが問う。


沈黙。


皐月が答える。


「強制排除は、反発を生む」


朝霧が言う。


「でも、このままだと歪みが広がる」


ダークが静かに告げる。


「選べ」


その言葉は、挑発ではない。


純粋な提示。



数日後。


“祈願スポット”が生まれた。


光の存在が多く出現する場所に、人が集まる。


花が供えられ、

小さな紙が結ばれ、

願い事が吊るされる。


まるで神社のように。


だが神は、まだ未成熟だ。


ある少女が、泣きながら祈る。


「パパが帰ってきますように」


光が強く脈打つ。


その夜。


事故で昏睡状態だった父親の容体が安定する。


医師は首をかしげる。


奇跡的。


その言葉が、また広がる。


瑛斗は、空を見上げる。


星のない夜。


胸の第三の色が、軋む。


これは善か。


悪か。


判断が追いつかない。



転機は、突然だった。


ある会社で、不正が内部告発される。


告発者は、祈願スポットの常連。


「正義が通りますように」


数日後、証拠が偶然発見される。


世間は喝采。


だが。


告発された側の家族が、誹謗中傷に晒される。


子どもが学校で孤立する。


願いが叶うとき、

別の誰かの可能性が削られる。


ラークが言う。


「均衡が崩れ始めている」


皐月が頷く。


「祈りは選択だ。

選択は、排除を伴う」


朝霧が、静かに言う。


「優しさだけじゃ回らない」


瑛斗は、決断する。



公園。


少年の前に立つ。


「マージを、少し休ませよう」


少年は、迷う。


「でも、みんな待ってる」


「それが負担になってる」


光の塊は、震えている。


疲労。


祈りの重さ。


少年は、そっと抱きしめる。


「……いいよ。

ぼくといるだけでいい」


その瞬間。


脈動が、穏やかになる。


瑛斗は、周囲に向けて宣言する。


「祈願行為を制限する」


当然、反発が起きる。


「何様だ」

「奇跡を奪うのか」


ダークが遠くで見ている。


試されている。


揺らぎを管理するのか、

放任するのか。


瑛斗は言う。


「これは神じゃない。

君たちの余白だ」


沈黙。


「余白は、願いを押し付ける場所じゃない」


朝霧が補足する。


「一緒にいるだけでいい存在なんだ」


皐月がデータを提示する。


「祈りの集中は、確率歪曲を生む」


ラークが一歩出る。


「守るためだ」


議論は長引く。


だが、少しずつ理解者が増える。


“使う”のではなく、“共にある”。



その夜。


光の存在たちは、少しだけ静かになる。


脈動が落ち着く。


街の密度も、穏やかに戻る。


だが。


完全には止まらない。


祈りは、人の本能だ。


ダークが再び現れる。


「興味深い選択だ」


瑛斗は答える。


「揺らぎは、支配しない」


「だが放置もしない」


ダークは、頷く。


「それが、面の均衡か」


第三の色が、柔らかく広がる。


揺らぎは、祈りを飲み込み、

祈りは、揺らぎを形作る。


終わりではない。


むしろ始まり。


街のどこかで、新たな光が生まれる。


まだ小さい。


まだ無垢。


だが人は、また願うだろう。


そのとき。


彼らはどうするのか。


揺らぎは、育つ。


祈りを抱えて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ