第5話「交流調査団」
国連決議から三日後。
太平洋上・国連管理特別区域「金輝島」。
かつて海だった場所に築かれた臨時基地は、
昼夜を問わず稼働していた。
コンテナ型の研究棟、通信アンテナ、滑走路。
だがそのすぐ先には――
石造りの塔と、浮遊する岩盤が並ぶ“異世界の景色”が広がっている。
「……本当に、隣り合ってるんだな」
田中瑛斗は、金属製フェンス越しにドラード側を見つめていた。
フェンスの向こうには、
剣を帯びた冒険者たち。
ローブを纏った魔導士。
そして、ラークの姿もあった。
視線が合う。
言葉は通じない。
それでも、互いに軽く頷いた。
⸻
「田中瑛斗君」
背後から声がかかる。
振り向くと、スーツ姿の女性――松田美由紀首相が立っていた。
「……はい」
「緊張してる?」
「正直、してます」
松田は小さく笑った。
「それでいい。
無理に平静を装うより、ずっと信頼できる」
彼女は真剣な表情に戻る。
「君に、お願いがある」
⸻
数時間後。
臨時会議室。
そこには、日本・アメリカ・国連の代表者、
そして選抜された十数名の民間協力者が集められていた。
「本日付で、
異世界交流調査団を正式に発足させます」
丸山が告げる。
「目的は三つ。
一、言語・文化の相互理解
二、エネルギー・技術の調査
三、武力衝突の回避」
スクリーンに、メンバー一覧が映る。
研究者。
軍関係者。
外交官。
そして――
「民間代表として、
田中瑛斗君、河合皐月さん」
瑛斗の心臓が跳ねた。
(やっぱり……)
皐月が小声で囁く。
「断る、って選択肢……ある?」
瑛斗は首を横に振った。
「最初に会ったの、俺たちだ。
逃げたら……後悔する」
⸻
ドラード側。
自由都市ギルド本部。
「交流団?」
ギルド長ダイクは腕を組んだ。
「……世界をまたぐ対話か。
危険だが、避けては通れん」
彼の前に、ラークとミルスが立っている。
「お前たちを、代表として出す」
ミルスが目を見開いた。
「私たちを……?」
「最初に接触したのが、お前たちだ。
それに――」
ダイクは一瞬、言葉を選んだ。
「魔力を持たぬ人間に対し、
剣を抜かなかった冒険者は、お前だけだった」
ラークは、静かに頷いた。
「……了解です」
⸻
翌日。
二つの陣営を隔てていたフェンスが、
一部だけ、開かれた。
そこは“対話区画”と呼ばれ、
武器・兵器の持ち込みは禁止。
瑛斗は、胸の奥がざわつくのを感じながら歩いた。
目の前に立つ、ラーク。
距離は、わずか数メートル。
ミルスが、指先に小さな魔法陣を浮かべる。
「安心して。
翻訳魔法……簡易だけど」
淡い光が、瑛斗と皐月を包んだ。
「……聞こえる?」
瑛斗は目を見開いた。
「え……?
聞こえる……!」
ラークも、同じように驚いている。
「言葉が……通じてる」
世界が、確かに一歩縮んだ瞬間だった。
瑛斗は、改めて胸に手を当てる。
「田中瑛斗です。
地球の……日本から来ました」
ラークも、同じ仕草で答える。
「ラーク。
ドラードの、冒険者だ」
二人は、互いを見つめた。
この握手が、
平和への第一歩になるのか。
それとも――
戦争への引き金になるのか。
遠くで、誰にも気づかれぬまま、
金色の光が再び脈動していた。
まるで、
何かが目覚める前触れのように。




