第4話「国連緊急会合」
2026年8月22日。
ニューヨーク、国際連合本部。
かつてこれほどまでに、
世界が同じ映像を見つめた会議はなかった。
巨大スクリーンに映し出されているのは、
太平洋上に突如現れた新島――通称「金輝島」。
そして、そこに立つ“異世界の人間たち”。
「――信じられません」
ざわめきの中、声を上げたのはアメリカ大統領、クリス・ロンドだった。
「魔法のような現象、未知の飛行技術、
そして人類と酷似した生命体……
これは科学の敗北です」
会場が静まる。
日本首相・松田美由紀は、ゆっくりと立ち上がった。
「敗北ではありません」
凛とした声が、同時通訳を通して各国に届く。
「これは“拡張”です。
私たちの世界が、より大きな現実へと踏み出した――
ただ、それだけのこと」
何人かの代表が息を呑んだ。
⸻
スクリーンが切り替わる。
金色の粉の成分分析結果。
隕石爆発時のエネルギー波形。
空間歪曲の測定データ。
「隕石は、物質ではありませんでした」
国連科学部門の主任が説明する。
「正体は“高次元エネルギーの塊”。
爆発ではなく、“解放”だったと考えられます」
丸山が補足する。
「その結果、
別世界――我々が暫定的に“ドラード”と呼ぶ世界と、
地球の一部が物理的に重なった」
会場がざわつく。
「重なった、だと?」
「侵略ではないのか?」
松田は首を横に振った。
「侵略なら、すでに攻撃が始まっている。
ですが、彼らは一切の敵対行動を取っていません」
映像には、
瑛斗とラークが向かい合う場面が映し出された。
言葉は通じない。
だが、剣も銃も構えない。
「彼らもまた、
突然、世界を共有させられた被害者なのです」
⸻
そのとき。
「……理想論です」
低い声が、会場に響いた。
アメリカ大統領、クリス・ロンド。
「もし彼らが敵だったら?
もし、我々の科学を凌駕する力を持っていたら?」
松田は一瞬も目を逸らさない。
「その“もし”を恐れて、
対話を放棄するほど、人類は幼くありません」
沈黙。
やがて、丸山が議題を提示した。
「提案します。
新島を国連管理下の中立区域とし、
日本主導の“異世界交流調査団”を正式発足させる」
会場は二分された。
賛成。
反対。
慎重論。
だが――
「日本案に、条件付きで賛成します」
クリス・ロンドが、静かに言った。
「武力衝突の回避を最優先とすること。
ただし、万一に備えた防衛権は保持する」
松田は頷いた。
「当然です」
⸻
同時刻。
ドラード側。
タイガル国・王城。
「……世界が、裂けたか」
ザルダ・タイガル国王は、玉座から立ち上がった。
「ヒューマ族以外にも、
“魔力を持たぬ人間”が存在するとは……」
側近が膝をつく。
「陛下、ギルドより報告です。
新大陸にて、異界人との接触を確認」
ザルダは目を細めた。
「……面白い」
だが、その影で。
深淵の城――魔王領。
「ククク……」
玉座に座る影が、低く笑った。
魔王デイド。
「ついに、来たか……
世界と世界が、重なる刻」
金色の光が、彼の城にも降り注いでいた。
「これは――
戦争の予兆だ」
⸻
再び、地球側。
会議は、結論に至る。
・新島は「国連管理特別区域」とする
・地球・ドラード双方の調査・交流を段階的に実施
・軍事行動は禁止(ただし防衛は例外)
議長が木槌を打った。
「可決」
その音は、
世界が一つに近づいた合図であり、
同時に――
引き返せない一線だった。
⸻
瑛斗は、そのニュースをスマホで見ていた。
「……世界、動いちゃったな」
隣で皐月が、静かに言う。
「私たち、もう“普通の高校生”じゃいられないね」
遠く、金輝島の方角で、
再び金色の光が瞬いた。
それは祝福か、
それとも――呪いか。
まだ、誰にも分からない。




