第34話「問い」
それは、静かすぎる朝だった。
金輝島の海は、凪ぎ、空は澄んでいる。
あまりにも、何も起きなさすぎた。
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司令部。
解析担当が、顔色を変える。
「……境界信号」
「二点同時発生」
スクリーンに、二つの赤点。
「……同時に?」
松田首相が、即座に立ち上がる。
「規模は?」
「……どちらも、都市壊滅級」
沈黙。
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ラークが、歯を食いしばる。
「……分断か」
「いや」
ノアが、低く言う。
「問いよ」
その瞬間。
空間が、
歪み――
ダークの声が響いた。
『王よ』
『いや』
『選ぶ者よ』
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二つの映像が、強制投影される。
一つは、日本沿岸の都市。
避難が、間に合っていない。
もう一つは――
ドラード。
ヒューマ族の王都。
子どもたちの姿。
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『時間は、十五分』
『一つを救え』
『もう一つは、失われる』
皐月が、叫ぶ。
「……そんなの!」
瑛斗は、動けなかった。
胸の奥で、核が強く脈打つ。
(……選べ?)
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ラークが、前に出る。
「……俺が、ドラードへ行く」
「日本は、お前が――」
ノアが、遮る。
「……間に合わない」
「どちらも」
「王権を使えば」
空気が、凍る。
使えば、代償。
使わなければ、犠牲。
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瑛斗の視界が、揺れる。
選択肢が、明確すぎた。
救う。
失う。
(……逃げたい)
だが――
逃げ場はない。
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皐月が、瑛斗の前に立つ。
「……一人で、背負わないで」
「でも」
「選ぶのは、あなただけ」
その言葉は、残酷で、優しかった。
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残り、五分。
瑛斗は、目を閉じる。
(……王なら)
(……即答だ)
(……でも)
(……俺は)
胸に、熱。
人の記憶。
声。
顔。
(……失わせたくない)
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目を開く。
瑛斗は、静かに言った。
「……第三の、選択肢」
ノアが、息を呑む。
「……まさか」
瑛斗は、拳を握る。
「……俺が」
「引き受ける」
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選択核が、強く輝く。
境界が、震える。
瑛斗は、一歩踏み出した。
「世界を、分けるなら」
「俺を、使え」
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ダークの声が、初めて揺れた。
『……面白い』
『だが』
『それは』
『人の選択では、ない』
空間が、崩れ始める。
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皐月が、叫ぶ。
「……瑛斗!」
瑛斗は、振り返らなかった。
(……これが)
(……俺の、答えだ)




