第32話「奪取」
それは、警報より先に訪れた。
空気が、冷える。
金輝島全域の結界が、一斉に軋んだ。
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「……侵入反応」
司令部の声が、震える。
「虚界側から、直接転移――!」
ラークが、即座に立ち上がる。
「……ダークだ」
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上空。
闇が、裂ける。
そこから降り立ったのは、“影”だった。
輪郭は、人。
だが、顔がない。
声だけが、直接、意識に響く。
『……王よ』
『いや』
『今は、人か』
瑛斗は、一歩前に出る。
「……名乗れ」
影は、わずかに笑う。
『デーモンロード・ダーク』
『王権の正当な観測者だ』
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皐月が、瑛斗の腕を掴む。
「……距離、
保って」
だが、ダークはすでに動いていた。
影が、地面を滑り――
次の瞬間。
瑛斗の背後。
「……っ!」
ラークが、割り込む。
剣が、弾かれる。
「……硬い!」
⸻
ダークの声が、静かに言う。
『……王権は、今、眠っている』
『だが』
『選ぶ力は、起きている』
瑛斗の胸が、熱を帯びる。
(……引っ張られる)
『それが、欲しい』
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空間が、歪む。
瑛斗の視界に、無数の選択肢。
助ける。
見捨てる。
戦う。
逃げる。
一瞬で、押し寄せる。
「……やめろ!」
皐月の叫び。
瑛斗は、歯を食いしばる。
(……選ぶのは)
(……俺だ)
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皐月が、瑛斗の手を強く握る。
「……一人で、選ばなくていい!」
その言葉が、引き戻す。
選択肢が、揺らぐ。
ダークが、低く唸る。
『……ほう』
『それが、“人”か』
⸻
その瞬間。
空間に、別の干渉。
紫色の光。
ノアだった。
「……離れなさい」
「彼は、まだ途中」
ダークは、肩をすくめる。
『……裏切り者』
ノアは、睨み返す。
「……観測者は」
「介入しても、いい」
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二つの力が、ぶつかる。
金輝島が、揺れる。
瑛斗は、その中心で立っていた。
王権は、使わない。
だが。
「……俺は」
「……選ぶ」
瑛斗は、影に向けて剣を構える。
「奪わせない」
⸻
ダークは、後退する。
『……今回は、引こう』
『だが』
『次は――』
『選択そのものを、壊す』
影が、虚界へ溶ける。
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静寂。
膝が、震える。
瑛斗は、その場に崩れ落ちた。
皐月が、抱き支える。
「……大丈夫?」
瑛斗は、小さく頷いた。
「……怖かった」
「……でも」
「……選べた」
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ノアは、遠くから見つめていた。
「……間に合った」
だが、彼女の手は震えている。
(……次は)
(……もっと、強引に来る)
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虚界。
ダークは、玉座に戻り、微笑んだ。
「……確認完了」
「王は、王でなくても」
「核だ」




