第28話「再臨」
境界は、雷鳴のような音を立てて裂けた。
空と海の境目が、意味を失う。
「……来た」
皐月が、確信する。
⸻
太平洋上。
巨大な混合存在が、暴れていた。
精霊の核と、魔の本能が無理やり縫い合わされた存在。
悲鳴のような咆哮。
「……王権なしじゃ、抑えきれない!」
ラークが、剣を構える。
だが――
その瞬間。
空が、静止した。
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光が、落ちてくる。
境界の細道が、
完全に開き――
そこから、一人の少年が降り立った。
「……ただいま」
田中瑛斗。
だが、纏う気配が違う。
四元素が、無意識に彼の周囲を巡っている。
⸻
「瑛斗!」
皐月が、駆け寄る。
瑛斗は、一瞬だけ微笑んだ。
「……遅くなった」
だが。
足元が、揺らぐ。
「……っ」
ラークが、支える。
「……削れてるな」
瑛斗は、息を整えながら頷いた。
「……帰ってきた分、代償だ」
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混合存在が、咆哮し、攻撃を放つ。
海が、裂ける。
「……止める」
瑛斗は、一歩前へ出る。
胸の奥で、王権が嫌な音を立てる。
『王よ』
精霊神の声。
『命令は、慎重に』
「……分かってる」
瑛斗は、
目を閉じ――
開いた。
「――境界よ」
世界が、耳を澄ます。
「不完全な重なりを、元の理へ還せ」
命令は、限定的。
だが――
精密だった。
⸻
混合存在の身体が、悲鳴を上げる。
引き剥がされる精霊核と、魔の残滓。
破壊ではない。
分離。
存在は、苦しみながらも消えていく。
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瑛斗は、その場に膝をついた。
「……はぁ……」
血が、口元に滲む。
皐月が、抱き止める。
「……無茶!」
「……でも」
瑛斗は、息を切らしながら笑った。
「……戻った」
⸻
空は、元の色を取り戻す。
だが――
安心する間もなく。
精霊神パラケルススが、厳しく告げる。
『王権使用、累積限界が近い』
『次は――』
言葉は、続かなかった。
瑛斗も、分かっている。
(……次は、取り返しがつかない)
⸻
その頃、虚界。
ダークは、玉座に座っていた。
「……再臨か」
「思ったより、早い」
魔王デイドが、低く言う。
「王は、戻る道を選んだ」
「なら」
「次は――折るしかない」
ダークは、ゆっくりと立ち上がる。
「違う」
「折る前に」
「選ばせる」
虚界全域に、命令が走る。
⸻
金輝島。
医療区画。
瑛斗は、点滴を受けながら天井を見ていた。
視界の端が、わずかに欠けている。
色の一部が、感じ取れない。
(……削れた、な)
皐月が、手を握る。
「……それでも、帰ってきた」
瑛斗は、小さく頷いた。
「……次は」
「もっと、上手くやる」
だが――
境界は、静かに、そして確実に軋み続けていた。




