第23話「三日間」
残された時間は、三日。
それは、長いようで、あまりに短かった。
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一日目
金輝島は、異様な静けさに包まれていた。
警備は倍増。
空には監視ドローン。
島全体が、“決断待ち”の空気を帯びている。
瑛斗は、島の端に立ち、海を見つめていた。
(……世界と、自分)
選択の言葉が、頭から離れない。
「……ここにいた」
背後から、ラークの声。
「一人になると、ろくなこと考えない顔だ」
瑛斗は、苦笑する。
「……バレるか」
ラークは、隣に立った。
「俺はな」
「お前が、行くって言うなら止めない」
瑛斗は、驚いて見る。
「……意外だな」
「仲間だから、止めると思った?」
ラークは、空を仰いだ。
「仲間だからこそだ」
「お前は、“選ばされた”」
「だったら」
「どう使うかくらい、自分で決めろ」
短い言葉。
だが、重かった。
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二日目
国連会議は、泥沼だった。
「王を引き渡すべきだ」
「人権の放棄だ!」
「では、代替案はあるのか!」
声が、重なり合う。
松田美由紀は、静かに言った。
「……彼は、18歳です」
一瞬、沈黙。
「世界を救う義務を、背負わせる年齢じゃない」
だが、現実は冷酷だった。
境界歪曲は、確実に増えている。
クリス・ロンドが、低く告げる。
「感情論では、世界は守れない」
その言葉は、正論で――
だからこそ、残酷だった。
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金輝島。
皐月は、医療区画で瑛斗のデータを見ていた。
王権使用後の、数値。
人としての反応が、少しずつ薄れている。
(……嘘でしょ)
拳が、震える。
「……ねえ」
瑛斗が、背後に立っていた。
「……見ちゃった?」
皐月は、唇を噛む。
「……行く気、なんでしょ」
瑛斗は、否定しなかった。
「……世界を、守れるなら」
その瞬間。
皐月は、彼の胸ぐらを掴んだ。
「それ、自分を捨てる理由に使わないで!」
涙が、零れる。
「……王様とか、境界とか、どうでもいい!」
「私は、田中瑛斗がいなくなるのが嫌なの!」
瑛斗は、言葉を失う。
しばらくして、小さく言った。
「……怖いんだ」
「守れなかったら、どうなるか」
「俺が、選ばなかったせいで」
「誰かが、死ぬかもしれない」
皐月は、強く抱きしめた。
「……それでも」
「一人で、背負わないで」
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三日目
夜明け前。
瑛斗は、精霊界の境域に立っていた。
パラケルスス、四精霊神。
全員が、彼を見下ろす。
『選択は、固まったか』
瑛斗は、静かに頷く。
「……俺は」
「行く」
皐月の顔が、脳裏をよぎる。
ラークの言葉。世界の叫び。
「……でも」
瑛斗は、拳を握った。
「条件がある」
精霊神たちが、目を細める。
「俺は、囚われない」
「管理される王には、ならない」
「――戻る道を、残す」
沈黙。
やがて、パラケルススが低く告げた。
『……困難だ』
『だが』
『王が、それを望むなら』
『“鍵”を、一つ授けよう』
光が、瑛斗の胸に刻まれる。
『それは、帰還の可能性』
『だが――』
『使える保証は、ない』
瑛斗は、深く息を吸い。
「……それでいい」
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金輝島、司令部。
通信が、開かれる。
ダークの姿。
「……答えは?」
瑛斗は、一歩前へ。
「行く」
皐月が、拳を握りしめる。
瑛斗は、続けた。
「ただし」
「俺は、お前のものじゃない」
「世界のものでも、ない」
「俺は――」
「俺の意思で、戻る」
ダークは、一瞬だけ
目を細め――
やがて、嗤った。
「……いいだろう」
「その傲慢さ」
「嫌いじゃない」
虚界への、門が開く。
境界が、唸りを上げる。
瑛斗は、振り返った。
皐月と、目が合う。
「……待ってる」
彼女は、泣かずに言った。
瑛斗は、微笑む。
「……帰る」
そして。
王は――
虚界へと、足を踏み入れた。




