第20話「王権発動」
空が、悲鳴を上げていた。
裂け目から溢れ出す魔神族は、数という概念を超えている。
「迎撃、間に合いません!」
「防衛線、崩壊寸前!」
通信が、悲鳴で埋め尽くされる。
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瑛斗は、最前線に立っていた。
足元で、境界が震える。
(……まだ、人でいられるか)
心の奥で、何かが軋む。
「……瑛斗」
皐月の声。
振り返らずとも、そこにいると分かる。
「無理はしないで」
瑛斗は、小さく頷いた。
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最初の魔神が、地面に降り立った瞬間。
空間が、歪んだ。
「……っ!」
ラークが、息を呑む。
魔神の刃が、
瑛斗の喉元へ――
止まった。
刃と喉の間に、“線”が現れた。
世界に、引かれてはならない線。
瑛斗は、低く言った。
「……越えるな」
その言葉と同時に。
境界が、命令を受け取った。
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世界が、静止する。
音が、消える。
時間さえ、躊躇う。
魔神族だけが、動けない。
瑛斗の背後で、四元素の紋章が完全に開いた。
精霊神たちの声が、重なり合う。
『命令、受理』
『境界制御――限定解放』
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「……王権」
ラークが、震える声で呟く。
皐月は、言葉を失っていた。
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瑛斗は、ゆっくりと歩く。
魔神の眼前まで。
「俺は、奪わない」
「選ぶ権利を、返すだけだ」
瑛斗は、手を掲げた。
「――境界よ」
「侵略のために踏み越えた存在を、元の世界へ戻せ」
命令は、
短く、
絶対だった。
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次の瞬間。
魔神族の身体が、砂のように崩れ、光の粒子へ還る。
裂け目が、強制的に縫合されていく。
悲鳴は、上がらない。
ただ――
“無かったこと”にされていく。
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だが。
瑛斗の膝が、崩れ落ちた。
「……っ」
血が、地面に落ちる。
皐月が、駆け寄る。
「瑛斗!」
瑛斗は、苦笑した。
「……削られた」
「思ったより、重いな」
ルルが、泣きそうな顔で言う。
「王権は、世界と等価」
「命令一つで、“存在”を支払う」
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空が、元の色を取り戻す。
第一波は、完全に消滅した。
勝利――
そう呼ぶには、あまりに重い。
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遠く、虚界。
ダークは、初めて表情を歪めた。
「……面白い」
「王権を、使ったか」
「なら」
「次は、削り切る」
彼の背後で、デーモンロード級が跪く。
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金輝島。
医療区画で、瑛斗は目を覚ました。
視界が、わずかに歪む。
(……色が、薄い?)
皐月が、ベッド脇で微笑んだ。
「……おかえり」
瑛斗は、安堵して目を閉じる。
(……まだ、人だ)
だが――
精霊神たちは、静かに告げていた。
『次に王権を使えば』
『戻れぬ領域に、踏み込む』
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外では。
世界が、“王の存在”を知り始めていた。




