第19話「衝突の前兆」
精霊界から戻った瞬間、瑛斗は悟った。
(……空気が、違う)
金輝島の上空は、不穏な灰色に染まり、風が、逆方向に流れている。
「……嫌な感じだな」
ラークが、空を睨んだ。
⸻
司令区画では、緊急警報が鳴り止まなかった。
「世界各地で、同時に境界歪曲反応!」
「規模――前回の三倍以上!」
ミルスの声が、焦りを帯びる。
松田美由紀は、即座に判断を下す。
「各国、非常事態宣言」
「国境封鎖、意味なし」
「……境界は、国境を見ない」
クリス・ロンドが、歯を食いしばる。
「魔神族の、全面侵攻前兆だ」
⸻
瑛斗は、モニターに映る光景を見た。
海上。
砂漠。
山岳地帯。
共通するのは――
破壊的な“重なり”。
世界が、無理やり接合されている。
「……ダーク」
ルルが、珍しく声を荒げる。
「境界を、“破壊してから繋ぐ”」
「世界を、素材みたいに扱ってる!」
⸻
そのとき。
瑛斗の胸が、強く脈打った。
「……来る」
「何が?」
皐月が、息を呑む。
「“王”としての、問い」
次の瞬間――
境界が、瑛斗の背後で巨大な紋章を描いた。
四元素が、螺旋を成す。
精霊神たちの声が、重なって響く。
『境界の王よ』
『全面侵攻が始まれば』
『全てを、救うことはできぬ』
『それでも――』
『立つか』
瑛斗は、即答した。
「立つ」
迷いはなかった。
『ならば』
『“王権”を、一部解放する』
ルルが、驚愕する。
「……王権?」
『境界に、命令する力』
『だが』
『代償は――』
光が、一瞬だけ赤く染まった。
『人であることを、削る』
静寂。
皐月が、瑛斗の腕を掴む。
「……だめ」
「そんなの……」
瑛斗は、優しく微笑んだ。
「……全部じゃない」
「まだ、戻れる」
ラークが、低く言う。
「……使えば、後戻りできなくなる」
瑛斗は、頷いた。
「分かってる」
それでも――
目は、揺れなかった。
⸻
遠く、虚界。
ダークは、嗤っていた。
「……来たか」
「王権」
「それでこそ、壊す価値がある」
彼の背後で、無数の魔神族が
目を開く。
⸻
金輝島。
第一波の侵攻が、始まる。
空が、裂ける。
赤黒い影が、降り注ぐ。
「来るぞ!」
ラークが、剣を構える。
瑛斗は、一歩前へ。
胸の奥で、王権が脈動する。
(……まだ)
(まだ、使わない)
「……皆」
瑛斗は、振り返った。
「俺が、折れそうになったら」
「止めてくれ」
皐月は、強く頷く。
「絶対」
ラークは、笑った。
「折れる前に、背中を蹴る」
ルルは、涙を堪えながら言う。
「……帰る場所を、忘れないで」
瑛斗は、空を見上げる。
赤黒い裂け目の向こうに、ダークの気配。
「……来い」
「今度は、止めるだけじゃない」
境界が、轟音を立てる。
戦いは――
避けられない段階へ入った。




