【第1章】海から現れた六脚脊椎動物の祖形(5)
1-5 重力問題と陸上進出の小型化
海洋から陸上への進出は、生物にとって最も大きな進化的ハードルのひとつである。
とりわけ、体重を支持するための骨格構造の変化は、生物史において決定的な意味を持つ。
脊椎動物が肉鰭類から四脚動物へ移行する過程はよく研究されてきたが、本書で扱う六脚脊椎動物類(Hexavertebrata)においても、重力環境への適応は極めて重要な転換点となったと考えられる。
本節では、海中で巨大化した祖先(ユーリプテリド型)が、どのようにして陸上へ適応し得たのか、そしてその際に何が六脚構造の成立を促したのかを論じる。
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◆ 1. 海中の『浮力』喪失は、構造的負荷を劇的に増大させる
海水中では、浮力が体重の多くを相殺する。
そのため、海中生物は外骨格や軟骨構造でも巨大化が可能である。
例:
・プテリゴトゥス(全長2.5m)
・メガロダスピスなど大型節足動物
・クラドセラケ類などの軟骨性魚類
しかし陸上では、浮力がほぼ消失し、体重は全て骨格と筋肉で支持しなければならない。
特に外骨格主体の生物では
・外骨格の自重増加
・関節の可動域の制限
・脚一本あたりの負荷集中
が急激に増大するため、巨大な外骨格生物が陸上で繁栄するのは物理的に困難である。
したがって、六脚類の陸上進出に際しては小型化が不可避であった。
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◆ 2. 小型化は『六脚』の採用と極めて相性が良い
六脚構造(3対の脚)は、重力環境下での体重分散に優れた設計である。
脚の数と安定性の関係を簡易に表すと:
・4脚:支持点の分散は限定的、旋回・姿勢変化に制約
・6脚:三脚支持が常時成立し、転倒しにくい
・8脚以上:安定性は高いが運動効率が低下
六脚は「安定性」と「速度」の最適バランスにあり、
昆虫類の成功がそれを証明している。
重力環境への初期適応期では、体を小型化しつつ、運動効率を最大化する必要があった。
そのため、六脚構造は、小型化段階の『最も合理的な陸上歩行様式』となった。
これは六脚脊椎動物類の成立を非常に自然に説明する。
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◆ 3. 六脚脊椎動物類の小型化は『昆虫との平行進化』を呼んだ
この段階において、昆虫の祖先系と六脚脊椎系は
似た環境圧を受けていた。
・湿地帯〜沿岸部
・匍匐中心の運動
・小型捕食者からの回避
・巣穴・植物体を利用する微小ニッチ
そのため、同じく『六脚構造』を採用していたとしても、互いが競合せず別の進化ルートを取ることは自然である。
昆虫は【外骨格の強化+小型化+飛翔】へ進み、
六脚脊椎動物類は【内骨格化+付属肢の機能分化+知性化/大型化】へと進む。
この段階は、現生では化石がほとんど残らないため、進化史上の『暗黒期』として扱われる。
六脚脊椎動物類がこの暗黒期に存在したとしても、記録はほぼ残らない。
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◆ 4. 重力下での内骨格強化:硬骨化の始まり
小型化は短期的には重力問題を解決したが、中期的には内骨格の強化(硬骨化)が始まったと考えられる。
これは以下の要因による:
・陸上での捕食・被捕食圧の増大
・高速移動の必要性
・外骨格の脱皮コストの増加
・体表の脆弱化による鱗化への移行
特に外骨格の脱皮は大型化に極めて不利であり、六脚脊椎動物類は「外骨格を捨て、内骨格へ切り替える」という進化的選択を強いられた可能性が高い。
その結果、後のドラゴン型・スフィンクス型・ケンタウロス型・有翼人型へ分岐するための基盤が整っていく。
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◆ 5. 『再巨大化』は第三段階で起きた
陸上に適応し、小型化した六脚脊椎動物類は、その後の環境変化に伴い、再び巨大化へと向かった。
巨大化を可能にした要因:
・内骨格の硬骨化
・効果的な呼吸器官の発達(気嚢・横隔膜様構造)
・大型捕食者としての生態的優位性
・六脚による『重量分散』の強み
・触腕→前腕への機能特化
ここで生まれるのが、ドラゴン型・グリフィン型の大型六脚動物である。
つまり、
「海中で巨大 → 陸上で小型 → 内骨格化 → 再巨大化」
という進化ルートは十分に自然であり、脊椎動物の陸上進出と矛盾しない。
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◆ 結語
重力環境は、六脚脊椎動物類の進化に複合的な圧力を与えた。
・陸上進出期:小型化+六脚化
・陸上安定期:内骨格化
・繁栄期:大型捕食者としての再巨大化
という三段階の流れは、六脚脊椎動物類の存在を極めて合理的に説明する。
重力は、脊椎動物進化の構造制約であるだけでなく、六脚系統の『存在可能性の証拠』でもある。




