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処刑された女

〈巢を殘し何処かへ去つた蜘蛛九月 涙次〉



【ⅰ】


 テオが片耳になり(前回參照)、箔が付いた、と云ふ事でカンテラ一味の「大人組」、髙圓寺のバアでお祝ひ(?)パーティを開催。金尾が信教上の禁を破り(彼は「掟破り狀態‐ シオニストらしからぬ行ひ」に出ると、ゴーレムには變身出來なくなる。ユダヤ教ではアルコール摂取は許可されてゐるが、ユダヤの飲食の掟、* コーシャに沿つてゐない酒は嚴禁である)、紳士の彼には珍しく酔ひ潰れる程の盛會となつた。またゝび酒でこれもへゞれけ狀態となつたテオ、「金尾しやん、いゝぞいゝぞ」と囃し立てる。悦美獨り、妊娠中だと云ふ事で、ノンアルコールを守つたので、「つまんないわ」と浮かぬ顔。それを他處に、カンテラは彼指定の火酒で怪氣炎、片肌脱ぐとお得意の剣舞。「おーやるねお主も」と旨酒をぐいと呷り、尾崎一蝶齋それに木刀で和した。金尾の呑んだくれの原因は、勿論、この現代東京を去つた遷姫である(前々回參照)。金尾、「畜生、いゝ女だつたのに」‐牧野も納得の本音を吐く。じろさんはしんみりと一人酒。各人各様の一夜であつた。



* 混ぜ物がある酒は不可。酎ハイなどは駄目である。



【ⅱ】


 翌朝、流石の金尾も宿酔ひで欠勤。これにはカンテラも苦笑ひ。「ちとやり過ぎたか」。だがこれには裏があつた。一人の女の影が仄見えたのである。牧野が後で語つたのだが、「余りにも金尾さんらしくない」事で、ジェイニーなる夜の女にとつ捕まり、彼女のヤサに連れて行かれたのである。「見たところビジネスマンね。いゝ鴨だわ」とジエイニーが云つたかだうだかは知らぬが、身ぐるみ剝がされた金尾。酔ひ過ぎで男としての機能は全然駄目になつてゐたが、無論彼の「夜の世界」デビューである。さしもの金尾も遷姫戀しさに淋しい。これ男として当然である。



【ⅲ】


 だがジェイニーは魔道に片足踏み入れた女であつた。*「ロールパン」の次なる魔界の盟主はまだ未定だつたが、惡魔教の信者たる彼女は、その黑ミサの祭壇役に名乘りを上げ、然も「賣春婦は不適格」と断られてゐたのだ。くさくさした彼女は、金尾を一丁「苛めてやる」と決めてゐた。ウブな金尾はそれに引つ掛かつたと云ふ譯。



* 当該シリーズ第87話參照。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈自然と云ふものが遺した蟲たちよ我と遊べや今日まだ暑し 平手みき〉



【ⅳ】


 ところが、その一部始終を見た一味のメンバーがゐた。涙坐である。パーティの当夜、流石に呑み過ぎの涙坐、帰り道しやつくりが止まらない。* 彼女は(着てゐた服を其処らの繁みに隠して)透明人間化し、金尾とジェイニーの二人を不審に思つて跡を着けた。すると、前述の通りの沙汰である。涙坐にはジェイニーの魔道云々の事は分からなかつたけれども、金尾が一杯食はされたのだけは、目撃し得たのである。



* 当該シリーズ第50話參照。



【ⅴ】


 涙坐は翌朝、昨夜比較的冷靜さを保つてゐたじろさんに、その「事件」を打ち明けた。じろさん、引つ掛けられた金尾が阿呆だとは思つたが、まあ酔ひ醒ましの仕事に丁度いゝ、と云ひ、涙坐の案内でジェイニーのマンションに行つてみた。ところが、ドアベルを鳴らしても彼女は出て來ない。管理人に訊く‐「可笑しいですね。外出してはゐないやうですが」。ドアをノックし、彼女の名を呼ぶ‐ 應答はない。


 で要は、彼らが其処で見たものは、ジェイニーの首を掻き切られた慘殺體だつた、と云ふ事である。行き過ぎた行為をした、と云ふ事で、彼女は【魔】に「処刑」されたのである。



【ⅵ】


 一味がその脊景を知つたのは、大分後になつてからの事だつた。【魔】がその恐ろしい牙を剥いたのである。最近の魔界には何処かずつこけたイメージがあつたが、だうやら原點回帰を果たしたやうだ。カンテラ一味、身を引き締めるべき時が來たやうだ...



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈何処へ行く初蟷螂の靑々し 涙次〉



 續く。


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