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一話 共鳴-きょうめい-

__奏汰 英士(かなた えいし)は__未来を知らなかった。


手を伸ばしても、届きそうで届かない絶妙な距離にある。


欲しいと願っても、それが自分の思い描いたモノとは限らない、理想とは懸け離れたものになるのかもしれない。


明るくなったり、黒くなったり、何もなかったり……。


とにかく、見えそうで見えない、そんな曖昧な世界だと勝手に思い込んでいた。


成績は、授業も真面目に聞いてテスト期間もちゃんと勉強して結果を出してるから、そこそこ優秀。

運動神経も、常人よりは出来る方で本気で取り組めばスポーツで優秀な成績を残せるくらいには良い方だ。

友達も、凄く多い方ではないが、小中高とそれぞれいるし、連絡もたまに取り合っている。

彼女……と呼べる存在はまだ作れてないし、今後作れるかは微妙だが。


そんな自分が手にする未来なんて、とにかく普通か、それともちょっとだけ裕福なモノだろう。


手を伸ばせば届く距離にある幸福と安寧で充分。

もっと伸ばしたいと願った事も、無いこともないが、今はそう考えることもきっとない。


好きな単語は「月並」。

座右の銘は「全力、たまに妥協」。


普通を恋し、普通を愛し、これからも普通に身を委ねる……。



__奏汰 英士は一年後の未来を知らなかった。



念願の東京にある高校に入学し、高校生になってから早くも一ヶ月という月日が経とうとした。


新入生テストの結果も思った通りの順位を取り、生活態度も特に変わったことはせず、問題行動は以ての外。


席が近いというのと、同じ寮暮らしという理由で友人になった2人のクラスメイトとくだらない事で駄弁りながら過ごす昼休み。


思わず見惚れてしまう程の、美少女と呼ばれるに相応しい女子生徒と目が合うたびに、心臓の高鳴る音が鼓膜まで響く。


特に平凡な、それでいて変化も何も無い、高校生活のスタートを切った。



__奏汰 英士は一年後の未来を知らなかった。



四月後半。

ある事件が東京都渋谷区にて発生した。

黒い光の柱が、スクランブル交差点のど真ん中で轟々と現れたのだ。


付近にいた通行人約五十名の命に別状はなく、またその周辺にいた人々も特に変化はなかったのだ。


しかし……。


次の日、東京都の至る場所で、強盗や殺人未遂の事件が勃発するようになった。

それも、同時間に十件以上、である。


後の警察の取り調べにて判明した事実は三つ。

一つ、同時間に発生した事件から見て、共犯者の疑いを掛けられたが、加害者達は他の加害者達と面識が無かった。

一つ、加害者達を知る者達は口を揃えてそんな酷いことをするような人間だとは思えない、と衝撃を受けていた。

一つ、加害者達は、前日の黒い光の柱の現場にいたのである。


最後の一つ以外はマスコミで報道され、特にこれといった反応は無かったが、前日の黒い光の柱の現場で目撃したという情報がネットやSNS等で広く拡散され、結果、民衆の間では黒い光の柱は何か危険な現象ではないかという結論に至ったのだ。


無論、日本政府はこれを建前では(・・・・)否定した。


黒い光の柱の危険性を否定した日本政府の発言は、ネットニュースで取り上げられ、瞬く間に拡散、非難と議論を白熱させたが、数日も経たず鎮圧した。


その後、ある科学者が現場に赴き調査を測るも、原因は解明されなかった。



__奏汰 英士は一年後の未来(ぜつぼうのせかい)を知らなかった。






*




神奈川県横須賀市、猿島。

三笠桟橋から出港するフェリーに乗り、港から歩いてしばらくの所に七橋研究機関ななはしけんきゅうきかんはある。


黒い光の柱……「仮称:黒煌(かしょう こっこう)」の正体を調べる為に各国から集まった癖の強い研究者達が集う施設である。


各国、要するに黒煌の被害は日本だけではなかったという事実を知りながら、日本政府は何かを隠し続けている。


「……先生達は、本気で黒煌を暴こうとしてるのですね」


「当たり前! んでも、やっぱなんの手掛かりがないのが……ね」


デスクの前で伸び伸びとしているやたらガタイのいい研究員の男・「藤堂 ケン(とうどう けん)」は目の前の女性スタッフから紅茶カップを受け取った。


ケンは女性スタッフの入れたダージリンを一口、二口と口に含んでじっくりと味わう。


「んんー白石(しらいし)ちゃんが入れるといいねえ、やっぱ美人さん補正がデカいからかね? 」


「あはは……ありがとうございます」


ケンの冗談? に白石 真奈(しらいし まな)は半笑いを浮かべながら、自身も一口吸って反応を濁した。


ケンはその間も「うーん美味い美味い」と一口飲む度に無駄に褒めるので、白石は一旦区切りを付けるために話を戻した。


「そういえば、事件の加害者の一人に事情聴取してきたんですよね? どうなったんです? 」


「あー……それがさぁ、聞いてよ白石ちゃん」


ケンはそう言うと、デスクに向かって何やらキーボードを打ち込み始めた。

数秒程カタカタと音が響き、開かれたファイルの中身を白石に見せた。


「なになに……『田中慎吾(たなか しんご)(28歳)は事件当日、いつもの日課のランニングとストレッチを済ませ、朝風呂を行っていたところ、急に陰鬱とした気分になり、近くにいた女性に危害を加えた。しかし、』……続きはなんです? 」


「今から書くところだよ、全く(おさ)も人使いが荒いったら……加害者の肉声を録音すれば楽なのに、なんで文章に起こす必要があるんだか」


「はあ」


「あー続きね」


ケンは軽く咳払いをした後、当時の状況を語る。


今日の午後、東京都の留置所にいた田中慎吾とコンタクトが取れたケンは、早速事件当時を質問した。


黒い光の柱|(無論黒煌という名称は伏せてある)を浴びた直後の自身の体調に変化は無かったか、今日に至るまでおかしな事は起こらなかったか等、面会時間ギリギリまで事情を聴いた。


そして一つ判明した事実。


それは、田中慎吾は自分の意志で女性に危害を加えた、ということだ。


鼻歌混じりにシャワーにうたれていた所、これからの未来を想像してしまったのだ。

月に一度会う上司に嫌味を言われ、健康の為に始めたランニングも結局意味を成さない、一人で東京都に越してきて、一人で暮らして、彼女も友人もいないこと、こんな何も無い退屈な毎日で20代を終えるのはとても嫌だと、急に嫌悪感に駆られたのだとか。


それ以上の質問は、田中慎吾の状態が悪化した為面会は強制終了となり、出来るか分からない次の面会まで持ち越しとなった。


「それって……要するに、黒煌は結局関係なかったと言うわけですか? 」


「んー……まあ田中慎吾だけの主張を聞く限りだとそうなるね」


「だけ……と言うことはまだ他の加害者の面会に行くと? 」


「そうしたかったのは山々なんだけど、加害者側(あちらさん)らはとても会える状態じゃないし、なんなら政府が絡んでる場所は圧力かかってもう面会行けないよ……てなわけで、田中慎吾のみが唯一の希望だったんだけど」


ケンはお手上げと言わんばかりに両手を広げた。


「……政府が絡んでる……圧力……あれ、なんでそんな事知ってるんです? 」


「科学者の勘」


「はあ……」


「ウソウソ冗談。ただこじつけな気もするけど、先週の臨時会見のあれがどーにも嘘くさいなあって思っただけだよ、それに」


「それに? 」


「本当に無関係ならわざわざ黒煌に触れずに無視しとけば良かったのにね。その上各県警に圧力をかけて加害者達を一切外界に触れさせないようにさせるだなんて、まるで私達(政府)のトラブルですよと言わんばかりだね」


「トラブル……なんのトラブルなんだろ……」


「さあ? それに関しても追々調べていくのだろうね、秘密裏に。いやあ秘密組織みたいでワクワクするねえ」


白石はケンの悪戯少年のような顔に溜息を付きつつ、空になった紅茶カップを回収した。


「ん、もう行くの? 白石ちゃんはなんでも聞いてくれるから退屈しなくて済むよお、頭の整理もしやすいしね」


「それはどうも……では引き続き頑張ってください」


ケンは軽く手を振りながら、再びデスクに向かって作業を始めた。

白石はその様子を軽く眺め、外に出ようとした。


次の瞬間。



ドゴオッ!! という何かが破壊された爆音と共に、研究所内が大きく揺れだした。


二人は咄嗟の出来事に軽く悲鳴をあげ、すぐに冷静になって近くの机の下へと避難をした。


「さっきの爆発したみたいなのは!? 」


「方向からして恐らく旧実験室棟かな。にしても原因は何だろうね、災害か、もしくは人災か」


「……こんな時でも冷静ですね」


「それはお互い様だね、ちょっとびっくりしたけどここが崩れたわけじゃないし、揺れが収まったら……ほら」


二人が同じ机の下で話してる間に、徐々に揺れは収まった。

規模からして、恐らく地震であると仮定した二人は直ぐ様外旧実験へと向かう。


このケンの部屋から外までの道のりはそれ程無く、走っていれば一分も経たずに外に出ることに成功した。


自分達以外にも避難者が続々と集まる状況を確認した白石は、息切れして手が膝に付いているケンに問う。


「さっき、方角からして旧実験室棟って言ってましたけど、それってどっちの……先生? 」


「……そういえば、咄嗟の事だったので一瞬頭から抜けてたけど……先程の爆発音のようなものは一体……」


「それって地震のせいで何か危険物が……あ」


「そうなんだよ、爆発音は地震が起こる前に鳴ったんだ、だから……ああ、これは酷い」


ケンが指さす方向に旧実験室棟があるのだろう。

白石はすぐさまほの方向に視線を向けるが……。


「あの! これって……!! 」


「なるほど、そういえば黒煌発生時に轟音が響いてたね」


「じゃあやはり、これが黒煌……!! 」


白石は息を呑んだ。

旧実験室棟……少し草木で生い茂った建物が、粉々とまではいかないが、それでも原型を保っているのがやっとのくらい破壊されてしまっていた。

その地面から上に伸びるように生え、黒い光が脈動している。


柱、と誰かが称したようだが、白石の目から見てもそれは下から流れる滝(・・・・・・・)のような異常な怪奇現象に近かった。


間違いない、黒煌である。


白石、ケンその他研究員は間近でその異常な事態を感知し、直ぐ様フェリー乗り場まで避難を開始した。


本来の研究者なら、というか大体の研究者は小心者では無い限り、また危険性が無い限り、対象物を間近で観察等を行いたいのであるが……。


「これはなんというか、予想以上に怖いね」


「ええ! 大衆が騒いだのもなんだか納得するくらいには! 」


感覚としては深海生物を見ているようなものだろう。

未知の恐怖、彼等(深海生物)が何故そのような歪な形をしていたのか、色々諸説はあるが、先ず第一に人類が思う所は、理解出来ない恐怖心である。


もっと簡単に言うと白一色の壁に一つポツンと黒を置くだけの異質さ。


これは間違いなく、あってはならない、存在してはならない。


それを予感させる程の「何か」が黒煌にあったのだ。


故に、どんなに探究心が強かろうと、あの柱を前にしては皆避けたくなるのだ。


しかし、一人の男だけは違っていた。


「先生!? 」


フェリー乗り場とは真逆の方角へと向かうケンに白石は驚愕した。


「ちょ、先生! 先生!! 」


「白石ちゃん、みんなと一緒に逃げるんだ、幸いこの時間ならまだ船は動いてるはずだよ、研究資料も出来れば持っていって欲しかったけど……」


「そうじゃなくて!! 先生も一緒に逃げましょうよ!! 」


白石は強引にケンの手を掴もうとするが……。

ケンは優しく、白石の手を振り払った。


「行きたいんだよ」


「え……」


ケンは一度白石に向き直り、今度は一回り大きな声量で伝えた。


「行きたいんだ、あそこに」


「……」


白石がケンと初めて出会ったのは二日前である。

白石は研究者の端くれではあるが、今回同席していたケンのサポート係が急遽、産気づいたとかで除外、代役として白石が選ばれた。

白石本人は黒煌のような未知の領域を解明出来る力を持ってないことに、自覚はしていたので、代役に関しては納得していた。

何故か今回のチームに選ばれた自分と、初対面でも和やかな雰囲気で迎え入れてくれて、時々冗談が蛇足だけど、それでも自分と仲良くしてくれたケンに対して、今はただあそこ(黒煌)に行ってほしくないと願うばかりである。


だが。


ケンの少年のような目は、白石でも止めることは出来ないと悟ってしまった。


「大丈夫だよ、別に死に行くわけじゃないさ。ただちょっと近場で観察して、あわよくば触れたりしたりするだけさ、危なくなったらちゃんと逃げるよ、だから」


「行ってください……」


「え? 」


白石は、今度ははっきりと、ケンに思いを伝えた。


「行ってください。あなたは行くべきなんです」


言葉足らずだと思ってしまうが、それでも今はこれで充分な気がすると白石は考えた。


白石の言葉の意味を汲み取ったのか、ケンはニコリと笑みを浮かべて、黒煌へと走り出した。


__お願い、人に無害なただの自然現象であって……。


ネットでは、政府の陰謀によって造られた破壊兵器が漏れ出したとか、地球がもうすぐ破滅する合図だとか、何度もくだらない議論とくだらない論争が繰り広げられたが、何も無いことを願うばかりだ。




*



白石や他の研究員が避難を済ませ、船に一人、また一人と乗っていく中、白石は見てしまったのだ。


それは、道中でも光は弱まることの無かった旧研究室棟の黒煌が、また再び轟音をあげると共に、赤い液体を夜空に撒き散らす所を。


「おい!! あれ!! 」


他の研究員が大声で指さす。


白石はその光景を目の当たりにし、顔が徐々に歪んでいった。


赤い液体の正体は血液。

しかし、東京都をはじめ各地で起きた黒煌には血液が出た等という話は聞いてない。

しかしそれを裏付ける根拠は、簡単。


人間のような形をした何かが黒煌の柱の中から、吹っ飛ぶように現れてきた事。

黒煌に現在近づいてる人間は、恐らくたった一人。


「あ、あ」


あって二日。

本当に短い期間だったが、身近な人間が被害に遭うこと、それがどれだけ辛いことか、白石は今回の件が起こるまで理解してなかったようだ。

如何に自分が人間の感情と向き合ってこなかったのかがよく分かる。

そして、如何に自分が感情的で、精神的に脆い人間だったというのが痛いほど感じる。


「うあ、あああ」


遠目、だが夜目が効いた今、認識してしまった事に深く後悔してしまった。


__夜空で呆気なく舞っているのは、ケンであり、血液を撒き散らしているのも、ケンの肉体からである。





*





__その時、ケンは夢を見た。



自身がぶっ飛ばされる最中、走馬灯のような映像が流れてきたのだ。

先ず自分は何故吹っ飛んだのか、それは黒煌に対する危機感が欠如していたから。

そして、油断した所、報告されていなかった現象のせいで自身はぶっ飛ばされてしまったのだと。


その次が白石とのコミュニケーション。

これは直ぐに終わってしまったが、彼女は至って普通の人間であり、普通の疑問を抱き、それを解明しようと動く、至って普通の科学者であると理解した。

自身の原点とも言える科学者と、白石を重ねてしまった自分がいるのだろう、ダージリンの味も本当に美味しかった。


その次が、妻の妊娠が発覚した日。

その日は二人で大いに盛り上がったのを記憶に残っている。

お祝いと称して、まだ性別も決まってないのに玩具や服なんかを買いに行ってしまった。

今となっては無駄遣いしたなと反省している。


その次が、妻と結婚式を挙げた事。

その次が、大学を卒業した日に自身の師とも言える教授が亡くなった事。

その次が、両親が台風の被害によって亡くなった事。

その次が、高校生で初めての彼女が出来た事。

その次が、その次が……。


溢れて、溢れて溢れて止まり続けない記憶が、ケンの思考の回路をオーバーヒートさせた。


その無我のおかげか、走馬灯は終わり夢の映像へと切り替わった。



__それは、望むべき未来。



隣にいるのは、妻、そして胸の中で抱かれている赤ん坊。

向かい側にいるのは、両親で、料理を次々と運んでくる。

そして、また隣に、教授、白石。




__それは、訪れたかもしれない未来。



数少ない休日を、家族皆で遊園地で過ごした。

五歳になる子供と、白石が乗るメリーゴーランドは自身が見てきたどのメリーゴーランドよりもキラキラしていた。

それを眺めて笑う両親に教授。




__それは、来る未来。




研究所をクビにされてしまったが、再就職した先ではパパ友や趣味で築いた友人関係が構築され、子供ももう大きくなったのである程度は自立させ、ようやく訪れた自分の時間に、最初は友人達と過ごす毎日であったが、次第に妻と過ごす時間も増えていった。

その先月は白石が大きな成果を挙げ、それを見た子供は白石を自然と目指すようになっていった。




__願うならば。




ケンが夢見た世界は、もう実現不可能である。

しかし、ああ、遺された者達だけが心配だ……とケンは顔を顰めた。

資金に関しては心配ない、貯金はマメに行い、保険金も恐らく全額行かなくともそこそこあるだろう。




__これからの未来に、希望を。




だから、最期に、慣れない神頼みをした。


自身が体験した出来事で、確信した。

恐らく、黒煌はやはり人害であり、今後も黒煌の被害者は現れることだろう。

だが、どうにか探求する事を諦めないでほしい、と強く願った。

黒煌にどれだけ傷付けられようとも、諦めずに立ち向かって欲しい。


手を合わせ、そう願った。




次の瞬間。


ケンの身体は黒く光った。


それは、黒煌とは全く似て非なる物であるが、一つ決定的な違いを挙げるとすれば、それは異質さ。


黒煌が深海生物とするなら、今のケンは宇宙。

深海とは違う無限の未知であり、今も尚、人類の解釈によっては永遠に印象が変わり続ける。

それは恐怖、それは畏怖、それは憧憬、それは希望。

黒煌とは違う、温かみがそこにはある。


ケンの身体はより一層光を増し、遂にはそれを見ていた人間達が目を覆う程の光を放っていた。

更に轟音が鳴り響き、事態は混沌と化すのかと思いきや……。



最初に目を開けたのは、白石だった。

目がチカチカとしていたが、先程の轟音に衝撃を受け、反動で目を開けてしまった。

強引に目を擦り、涙でぐちゃぐちゃになる顔を他所に、旧実験室棟の方角を注視した。


驚くべきことに、黒煌は既に消失していた。

白石は衝動に駆られるまま、走り出した。


ケンを見つけなければ、と。


先程打ち上げられた人間が、ケンであるという確証を得る為にも、そうでないならそうでないと自身を安心させる為に、ただ走り続けた。





しかし、ケンどころか、空に打ち上げられた人間を発見する事は叶わなかったのである。






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