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翼の正体

俺は訳の分からなぬまま、ベッドから滑り落ちて床に転がっていたスマホを動きずらこの体で手に取る。


「と、とにかくこの翼の正体を突き止めないと…」


一息ついた後、ベッドの残骸に寄りかかるように座り込んだまま、震える手でスマホを取り出す。

この“異常”に名前があるのか、誰か同じような人がいるのか、それだけが知りたくて、検索画面を開いた。


震える指で言葉を打つ。


「背中 金属 翼」

「鋼の羽 人間」

「金属化 人間 異常」


ヒットした記事の中に、ある単語が目に飛び込んできた。


鋼症こうしょう


《鋼症とは》

数年前から報告され始めた人体の異常変化。主に肉体の一部が金属化し、硬質な器官や武器のような構造を持つようになる謎の病。原因は不明。感染性や遺伝性は確認されていないが、発症者の存在そのものが社会問題となっている。


俺はこの情報を見ただけでも不安と恐怖に押しつぶされそうになった。


「………」


俺はただ画面を見つめることしかできなかった。


さらにスマホの検索結果をスクロールしていくと、鋼症に関する噂やニュース、動画、無数の書き込みが次々と流れてくる。


「鋼症は感染するらしい」

「見た目じゃ分からないから、奴らが隣にいるかもしれない」

「最近、○○区でまた隔離騒ぎあったらしいぞ」

「政府は鋼症者を実験体にしてるって聞いたけど?」


次第に目に飛び込んでくるのは、ニュースの見出しではなく、どこかの匿名掲示板で拡散された“真偽不明の情報”。


《鋼症者の骨は売れる》《鋼症の奴らはもう人間じゃない》《隔離所の中身は生き地獄》《都心じゃ見つかったら即通報だってさ》


「……嘘だろ……」


言葉にならない。


現実に起きていることが信じられなくて、否定したくて、それでも、目の前の“自分の背中”がそれを裏付けていた。


政府公式の動画まで見つけた。いかにも演出されたような映像で、スーツ姿の官僚がカメラに向かって話す。


「現在、鋼症と思しき異常変化を確認した際は、速やかに最寄りの衛生機関へご連絡ください。早期の対応が、ご自身と社会を守ることに繋がります」


ナレーションは優しい声だが、その下に出るテロップには、はっきりと書かれていた。


《鋼症者は隔離・保護の対象となります》

《鋼症の兆候を確認した方へ:最寄りの警察署または厚生管理センターに連絡を》


「隔離……?」


ハルキの手からスマホが落ちた。


見つかったら……俺は、あの施設に送られるのか?

人として扱われず、名前を剥がされ、番号で管理されて、ベッドの上で実験台になるのか?


「ふざけんなよ……なんなんだよ、このくそみたいな世界は……」


さっき叩きつけたスマホの破片が、床に散らばっている。

背中の金属の翼が、天井に向かってわずかに震えた。


——これは病気なのか、災厄なのか、それとも——呪いか。


ハルキの目に、恐怖と怒りと、名もない絶望が映っていた。



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