表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

黒き翼、地に落ちて

俺は夢を見た。優しくも、寂しそうで、今にも消えてしまいそうなかすかな声で俺に何かを告げる。


「私を…見つけて…」


目をゆっくりと開く。


するとそこには、朝焼けの赤が、カーテンの隙間から細く射し込む。眠りの残滓に沈んだ頭で、俺は嫌気のさすほどにいつも通りの朝を迎える。


空虚な日常、意味のない時間、誰にも必要とされない自分。そう思いながら目覚めるのが、もう習慣になっていた。


だから——


その日、背中から“それ”が生えたとき、俺は、やっぱりこの世界は俺のことを拒絶しているのだと確信した。


「…痛ッ…!?」


背骨を焼かれるような熱さに跳ね起きた俺の耳に、聞き慣れない“裂ける音”が響く。


バキィィンッ!


寝ていたベッドの中央、背中のあたりから真っ二つに裂ける。フレームが軋み、床まで一直線に切り裂かれた痕が残る。


「な、なんだよこれ…!」


俺は半狂乱で振り返り、自分の背中を見ようとする。だが視界に入ってきたのは、黒く鋭利な“羽”だった。


羽…?いや、違う。“刃”だ。艶やかで硬質な、漆黒の金属。翼のように左右に広がり、空気を裂くような存在感を放っている。


「……っは、はは……冗談、だろ?」


思わず笑ってしまう。笑うしかなかった。ありえない。こんなの、ありえない。


背中から“刃の翼”が生えて、俺の部屋を切り裂いた?


「夢だ、夢に違いない。昨日もコンビニバイトでくたくただったし、寝ぼけてるだけなんだ…」


俺はそう言い聞かせながら、崩れかけたベッドから床に降りる。


しかし、足元には確かに“切断された”床。鋭利な痕跡。何より背中に感じる異物感と重みが、現実だと告げていた。


「……嘘、だろ……?」


言葉にならないまま、部屋の隅に置いてあった鏡に近づく。


映った自分の背後には、確かにあった。広がる二枚の鋼の翼が、ゆっくりと動き、僅かに光を反射していた。


俺はただ、立ち尽くすしかなかった。


世界は何も変わっていないのに——俺の身体だけが、異常を告げていた。

感想・評価・ブクマ励みになります。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ