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草原演義  作者: 秋田大介
巻一一
629/783

第一五八回 ①

ナオル猛将を加えて亜喪神を退け

スブデイ智者を得て神都城を(まも)

 さて、(オブル)の間に、東原では天仙娘キノフが鳳毛麟角ツジャンを治療し、中原では黒曜姫シャイカと活寸鉄メサタゲが、オルドを襲撃した刺客(アラクチ)を退けた。


 義君インジャたちは、一喜一憂して(セトゲル)の休まる暇もない。また依然として胆斗公(スルステイ)ナオルや超世傑ムジカは、亜喪神ムカリと対峙している。これを退けなければ、留守地(アウルグ)安寧(オルグ)は得られない。


 (ヂル)が明けて(カブラン)の年となった。


 ツジャンの治療が終わったので、先にも述べたようにキノフはインジャの冬営地(オブルヂャー)に去った。ツジャンは光都(ホアルン)に残ってさらなる恢復を待つことになったが、もう付きっきりの看護は必要ない。


 そこで神道子ナユテと娃白貂(あいはくちょう)クミフもまた西原へ帰ることにした。方々へ挨拶に回って、もちろんインジャのもとへも到る。送別の宴を開き、おおいに(ねぎら)って言うには、


「二人がなければ、この(ソオル)は果たしてどうなっていたか判らない。厚く(カリラ)を言わせてもらおう」


 ナユテは拝謝して、


「何をおっしゃいます。ハーンのためなら労を惜しむものではありません」


「ではひとつ向後の策について思うところがあれば述べよ」


 居住まいを正して言うには、


「四頭豹はまだ何か画策しているに違いありません。どうか四方に目を(くば)って怠りなきよう。ナルモント部はこの乱ですこぶる傷つき、(クチ)(そこ)ないました。ハーンの助力(トゥサ)なくしては、立つこともかないません」


然り(ヂェー)。しかし私とて、いつまでも東原に留まるわけにはいかぬ」


「東原の安定のためにどうしても為さねばならぬことがあります」


 インジャは僅かに身を乗りだして、


「ほう、ぜひ教えてほしい」


 するとナユテが言うには、


神都(カムトタオ)を制するべきです」


「おおっ!」


「この(チャク)に奸人ヒスワを滅ぼして神都(カムトタオ)を手中に収めれば、カオロンの河東に(ブルガ)はいなくなります。しかして鍾都(ハガム)神都(カムトタオ)光都(ホアルン)を縦に結んで防備を固めれば、いかな四頭豹といえども東原を侵すことはできません」


 インジャはおおいに喜んで、


「愁眉を開く思いだ。よくぞ教えてくれた。神箭将(メルゲン)(はか)って、(ハバル)にはきっと神都(カムトタオ)を囲もう」


「よいと思います。しかしひとつ懸念があります」


「何だ?」


包囲(ボソヂュ)が長期に(わた)れば、ほかの備えが薄く(ニムゲン)なります。(こと)光都(ホアルン)は遥か遠方。決してこれを失わぬよう、策を講じて臨んでください。今、黒鉄牛(ハラ・テムル・ウヘル)と赫彗星が四千騎をもって守っていますが、北上するときには必ず増援するべきです」


わかった(ヂェー)、心しておこう。それから……」


「中原のことならご心配なく。まもなく西原から()()が参ります」


 そう言ってナユテはくすりと笑う。インジャも笑って、


「神道子の助言は常に的確だ。期待しておこう」


 インジャはおおいにこれを賞して送りだす。ナユテとクミフは、そのあとヒィ・チノやら北伯やらアネク・ハトンやらを順に訪ねつつ帰郷したが、くどくどしい話は抜きにする。




 ナユテの言ったとおり、ウリャンハタ軍がついに動く。麒麟児シン・セクと一角虎(エベルトゥ・カブラン)スク・ベクが、ナオルを援けるべく遠征の途に就く。


 シンは知世郎タクカとともにネサク軍五千騎を率いてタムヤに出る。スクはやはりカムタイ軍五千騎をもってイシからメンドゥ(ムレン)を渡る。


 迅速(クルドゥン)をもって鳴るネサク軍は、疾駆(ツォギオ)してまっすぐ救援に向かう。カムタイ軍はメンドゥに沿って北上しつつ、慎重に行軍する。


 先行した矮狻猊(わいさんげい)タケチャクから事の次第を聞いたナオルたちはおおいに喜び、兵衆の士気もテンゲリを衝かんばかりとなった。


 対するムカリも同じころにそのことを知る。もちろん四頭豹からの報せである。


敵人(ダイスンクン)合流(ベルチル)する前に一戦交えよう」


 (トイ)を払うと、三万騎を挙げてムジカの陣に迫る。応じてナオルも、紅火将軍(アル・ガルチュ)キレカや碧水将軍(フフ・オス)オラルに早馬(グユクチ)を送って、ともに迎撃する。


 それから三日に(わた)って闘い合う(カドクルドゥクイ)も、勝敗は決しない。しかしナオルたちは意気軒昂、なぜならこうしているうちにも西原からの援軍が確実に近づいていたからである。


 さらに彼らを喜ばせることがあった。ふらりと本営(ゴル)に現れたのは、何と盤天竜ハレルヤ。言うには、


「微力ながら助力いたす」


 ナオルは感謝して、これを前軍(アルギンチ)に配す。再び干戈を交えると、ハレルヤは大刀を掲げてムカリを追い(もと)める。連日先頭に立ってナオルたちを苦しめていたムカリは、目敏(めざと)くハレルヤの巨躯を認めると、


「何と面倒(ヤルシグタイ)な奴がいる」


 (ヌル)(ゆが)めて後方に下がる。以前に手を合わせたとき(注1)の苦い記憶が(よみがえ)ったのである。そのためにヤクマン軍の鋭鋒は明らかに鈍る。

(注1)【以前に手を合わせたとき】ムカリは、ソラとともにダルシェを攻めた際にハレルヤと一騎打ちを演じて、まるで(かな)わなかった。第八 三回③参照。

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