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草原演義  作者: 秋田大介
巻一一
602/783

第一五一回 ②

ナユテ邪教を()けて迂直之計を説き

インジャ天兵を(ひき)いて千里結言を守る

 ナユテを送りだしたインジャは、東原に送るべき援軍を編成する。みなが驚いたことに(みずか)らの出征を決める。


神箭将(メルゲン)は余人に代えがたい盟友(アンダ)。将を幾人か派遣してすませるというわけにはいかぬ」


 帯同するのは以下の面々。すなわち、



  ジョルチ第一軍 一万騎(トゥメン)

    義 君  ジョルチン・ハーン

    百策花  セイネン・アビケル

    癲叫子  ドクト

    一丈姐 (オルトゥ・オキン) カノン・ジュン

    呑天虎  コヤンサン

    白夜叉  ミヒチ

    靖難将軍 イトゥク

    飛天熊  ノイエン

    長旛竿 (オルトゥ・トグ) タンヤン


  ジョルチ第二軍 六千騎

    霹靂狼  トシ・チノ

    長韁縄 (デロア・オルトゥ) サイドゥ

    隼将軍(ナチン)  カトラ

    (えん)将軍  タミチ

    石沐猴 (せきもっこう) ナハンコルジ


  マシゲル軍 六千騎

    獅 子(アルスラン)  アルスラン・ハン

    楚腰公  サルチン

    蓋天才  ゴロ・セチェン

    迅矢鏃(じんしぞく)  コルブ

    黒鉄牛 (ハラ・テムル・ウヘル) バラウンジャルガル

    双角鼠  ベルグタイ


  ヤクマン軍 八千騎

    神風将 (クルドゥン・アヤ) アステルノ

    赫彗星  カンシジ・ソラ



 総じて三万騎の大軍。中軍(イェケ・ゴル)たるジョルチの第一軍には、ボギノ・ジョルチ部のイトゥクまで加わっている。これは西原に帰った賢婀嬌(けんあきょう)モルテが、東原に混血児(カラ・ウナス)ムライが在ることを告げたためである。


 また天導教の内偵に従事しているナユテらが戻れば、半数(ヂアリム)ほどの好漢(エレ)はやはり第一軍に合流(ベルチル)することになっている。


 さらにウリャンハタ部の衛天王カントゥカに使臣を送って、万が一遠征中に四頭豹が兵を動かすようなことがあれば、中原に兵を送ってくれるよう依頼する。


 カントゥカは群臣に(はか)る間もなく快諾して、すぐに麒麟児シンと一角虎(エベルトゥ・カブラン)スクに準備を命じる。


 留守(アウルグ)のことは鉄鞭(テムル・タショウル)のアネクと胆斗公(スルステイ)ナオルに託す。また超世傑ムジカ、紅火将軍(アル・ガルチュ)キレカ、碧水将軍(フフ・オス)オラルを召して、四頭豹と亜喪神ムカリに備えさせる。


 ある(ウドゥル)偶々(たまたま)盤天竜ハレルヤがオルドを訪ねたので、喜んで杯を交わしながら言うには、


「いかがです? 盤天竜殿もともに東原へ参りますか」


「ふうむ」


 何とも気が乗らない様子。がっかりしていると言うには、


「俺はこちらに残ります。亜喪神はなかなかの難敵ですが、俺なら負けません」


 インジャは瞠目して言った。


「おお、ヤクマンが攻めてくるとお考えか」


難しい(ヘツウ)ことは解りません。しかしハーンが兵を東原に送れば、(すき)を突かんとて亜喪神が動く予感(ヂョン)がします」


「盤天竜殿が睨みを()かせてくれるのであれば、後顧の憂いはありません。存分に戦ってきます」


「もとよりハーンには恩義があり、四頭豹には怨毒があります。微力ながら助力(トゥサ)させていただきます」


 揖拝(ゆうはい)して言ったのでインジャはおおいに喜んだが、この話はここまでとする。




 さて、東原に潜入したナユテたちは二人、三人と組んで、今やハーンと称した隻眼傑(ソコル・クルゥド)シノンが定めた八個(ナェマン)の教区を巡る。方々で信徒に会い、また入信していないものに密かに話を聞く。


 それで知ったことだが、信徒は(ブスクイ)よりも(ブステイ)が圧倒的に多かった。直截には、ヒィと戦って死ねば(オエレ・イュ)(ルトゥンツ)に転生するという教説が影響していた。兵士ならざる女はどうすれば転生して永遠(モンケ)幸福(クトゥク)を得られるのか、はっきりと示されていない。ウチンは呆れて言った。


「この一事をもってしても、人衆(イルゲン)を乱に(はし)らせるためだけに造られた邪教」


 またキノフは、覚真導師が()くするという医道について精査した。たしかにまるで何も知らぬというわけではなかったが、その多くは快癒したのは偶然と断じる。巫者(ボエー)の治療と違って無償だったため、実体以上にみながありがたがったもの。


 導師の下の伝師が行うものに至っては完全(ブドゥン)な詐欺、治れば天導教の功徳、治らなければ信心の不足と告げるばかり。キノフはおおいに憤慨する。


 余のものも盛んに情報を集めてナユテに届ける。ナユテはそれを並べ、(くら)べて、天導教なるものを把握し、解明せんと考究する。インジャに約した五十日の刻限が迫るころには、おおよその輪郭が明らかとなる。独り嘆じて言うには、


「やはり思ったとおり天導教には実がなく、すべての言説は空疎……。誰か奸智のあるものが短時日に捏造したものに相違ない」


 またおもえらく、


「覚真導師なるものにそこまでの智慧があるようには見えない。かつて司命娘子が看破したように、あれは四頭豹の傀儡かもしれぬ。しかし……」


 眉間に皺を寄せて難しい(ヌル)になると、


「となると覚真導師とは何ものだ? 単に四頭豹の麾下というだけでは、あの神箭将に対する執拗な怨嗟、呪詛(ハラアル)が解らぬ」


 そこへシズハンが、シャイカを伴って現れる。暗い顔で言うには、


「覚真導師の出自(ウヂャウル)が判りました」

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