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草原演義  作者: 秋田大介
巻一〇
557/783

第一四〇回 ①

盤天竜マシゲルにて賢夫人に(おし)えられ

白夜叉ジョルチにて金写駱に迎えらる

 さてダルシェを追われた盤天竜ハレルヤ、活寸鉄メサタゲ、黒曜姫シャイカの三人は、旧知の黒鉄牛(ハラ・テムル・ウヘル)バラウンを(たの)んでマシゲルに投じんと図った。(モル)(もと)めて彷徨していたところ、偶々(たまたま)ジョシ氏の哨戒兵(カラウルスン)()った。


 赫彗星ソラはウリャンハタの北伐に加わっていたために会えなかったが、留守陣(アウルグ)人衆(ウルス)がこれをおおいに歓待して、マシゲルに早馬(グユクチ)を送ってくれた。おかげで、ほどなくバラウンと再会できた。


 一泊して翌朝、いよいよケルテゲイ・ハルハを指して発つ。するとあれだけ探しても見つからなかったというのに、僅か数日で到着する。


 (アクタ)を預けてオルドへ伺候すれば、諸将うち揃ってこれを出迎える。高き座(ウンドゥル)に在るのは、もちろん獅子(アルスラン)ギィ。


 隣には瓊朱雀(けいしゅじゃく)アンチャイ、左右には賢夫人(ボクダ・ウヂン)ウチンと赫大虫ハリン、そして蓋天才ゴロ・セチェン。末席には双角鼠(エベルトゥ・クルガナ)ベルグタイの姿(カラア)もある。


 何よりシャイカが驚いたことには、例の東原の女丈夫たち、すなわち白夜叉ミヒチ、一丈姐(オルトゥ・オキン)カノン、病大牛ゾンゲルも笑顔で座っていた。雀躍して駈け寄らんとするのをぐっと(こら)え、まずは一列に並んで跪拝してギィに挨拶する。


 ハレルヤが代表して、


「帰るところなき我らに仁慈を賜り、これに勝る喜び(ヂルガラン)はありません」


 もとよりギィは屈託がない。


「何の。天下に名高い盤天竜を迎えて、こちらこそ光栄の至り。どうぞ存分に(くつろ)いでいただきたい」


 それからハレルヤは余の二人をみなに引き合わせる。それぞれ挨拶を交わすと、酒食が供されてお決まりの宴となる。(ようや)くミヒチのほうから、シャイカに話しかけて言うには、


「先日はありがとう。あれからそんなに(ウドゥル)も経ってないのに、いろんなことがあったみたいだねえ」


 これにはハレルヤとメサタゲがおおいに驚く。そこで横からカノンが口を出して、例の顛末(ヨス)をひととおり語れば、ハレルヤが嘆息して、


「お前はそんなことをやっていたのか」


 シャイカは(ヌル)(あから)めて、


「だって姉さん方のことが気になったものだから」


「責めているのではない。感心しているのだ」


 カノンがシャイカを(たた)えて、


「まことに目の覚めるような早業だったよ。人は見かけによらないとはよく云うけれども、まさかこんな娘さん(オキン)がねえ!」


 すると止せばいいのにメサタゲが、


「ですよねえ。カノンさんなら何の違和感もありませんがね」


 瞬時(トゥルバス)に反応して、


「それはどういう意味だい!?」


いえ(ブルウ)。意味だなんて、そんな」


 おどけて首を振る。そこにバラウンが割って入って、


「まあまあ、二人とも。それよりカノンさんは実に美人(ゴア)ですねえ」


 ハレルヤとメサタゲは思わず顔を見合わせる。シャイカのほうを見遣(みや)れば、いたずらっぽく笑って、(ダウン)を出さずに「ほらね」と(アマン)を動かす。


 こうして方々から集まったはずの好漢女傑たちは早くも打ち解けたがそれもそのはず、みなテンゲリの定めた宿星(オド)の一員であった。


 それはさておき、今度はシャイカが尋ねて、


「姉さん方はいつこちらへ?」


 ミヒチが答えて、


「つい一昨日さ。あのあと神風将軍(クルドゥン・アヤ)を訪ねて、それからジョナンに赴いて超世傑クルゥド・ハン(※ムジカのこと)にも会った。まあ、長いこと旅をしてきたものだよ」


 感心して言うには、


「四方に使して君命を(はずかし)めず、ですね。さすがは姉さん。みな英傑(クルゥド)好漢(エレ)名高い(ネルテイ)方ばかりではありませんか」


 けらけらと笑って、


「どうだかね。会うだけなら誰でもできるさ。君命とやらのことは知らないよ。あちらがどう思ったか判らないからねえ」


 するとそこへ、


「白夜叉は放埓(ほうらつ)に見えて、実は礼を心得ています。超世傑殿らもきっと喜んだことでしょう」


 声をかけてきたのはアンチャイ。ミヒチは笑みを絶やさず、


「だといいんですがね」


 またギィが言うには、


「貴女たちのことは赫大虫に任せてあるが、至らないことはないか。気になることがあれば何でも申し出るがいい」


 恭しく礼をして、


ありがとうございます(バヤルララ)、何の不満もありません。それどころかこれ以上はないくらい良くしていただいてますよ」


 追従の意は毛頭なく、よく気のつくハリンのもてなしはまさに完璧(ブドゥン)であった。加えてミヒチとハリンは、その心性(チナル)はずいぶんと違ったが、なぜかおおいに気が合って、今では同じ幹から枝分かれしたかのごとく睦み合っている。


 そのハリンが口を尖らせて、


「聞いてください、ハン。この白夜叉というのはなかなか接待の難しい子ですよ。猫の(ニドゥ)のように気分がころころ変わるんですから」


 しかし口調はのんびりしたもので、何より目が笑っている。ミヒチが応えて、


「赫大虫が暇を持て余さないように気を(つか)ってるんじゃないか!」


「そんな気は遣わなくていいよ」


「ああ、うるさい子だね!」


「どっちが」


 二人で盛り上がって、余のものが口を挟む間もない。

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