第一 三回 ③
インジャ天に祈りて聖廟に二将を裁き
ナオル書を携えて神都に賢者に見ゆ
こうしてインジャのアイルはますます活況を呈し、士気は上天を衝かんばかりとなった。毎夜のように諸将は互いに招き合って酒を酌み交わし、親交を深めた。集まった宿星を数えれば総じて十三人、すなわち、
フドウ氏 インジャ
ハクヒ
タンヤン
ジョンシ氏 ナオル
シャジ
キャラハン氏 セイネン・アビケル
ズラベレン氏 コヤンサン
イエテン・セイ
タアバ
カムトタオ ハツチ
オガサラ・ジュゾウ
カミタ氏 ドクト
ドノル氏 テムルチ
しかしこれはすべての宿星のほんの一部に過ぎない。このあといかなる好漢が現れるかは、次第にお話しせねばならぬこと。
春が過ぎ、夏となった。インジャとその人衆は、アイルを引き払い、家畜を追って、暑気を避けるべく高原へと移った。お決まりの宴の席でインジャが諮って言うには、
「諸事に追われて神都のサノウ先生にいまだ返礼ができていない。今年も無事に夏営地に落ち着いたことだし、ここで人を遣って先生にお礼を差し上げようと思うが、どうだろう?」
みな賛成したので、あとは誰を遣るかという話。諸将はそれぞれ行きたがったが、コヤンサンが真っ先に手を挙げたのには一同大笑い。セイネンが諭して諦めさせたが、ぷくっと膨れて黙り込み、それがまた諸将の笑いを誘う。
結局、ナオルとジュゾウ(草原の暮らしに嫌気が差すどころか、ますます気に入っていた)、加えてドクトが選ばれた。
「わしも行きたいがなあ」
ハツチがそうこぼすと、傍らのジュゾウが、
「お前のその巨躯では目立ってしょうがない。すぐに捕まるぞ」
また一同は大笑い。
何日かしてナオルら三人は旅装を整えてインジャに見えた。インジャのほうでは、セイネンやハクヒと諮って贈物を揃えていた。
すなわち、羊毛で拵えた敷物、籐で編んだ籠、その中には美麗な刺繍の品々が納められ、加えて虎の牙の細工に山羊の角笛、玉を鏤めた帯鉤などなど。
「貧しい草原の民ゆえ、たいしたものは用意できなかったが、先生によろしく伝えてくれ」
インジャはそう言ってナオルに書簡を預けた。
拱手して答えて言うには、
「必ずお届けいたします」
セイネンが言うには、
「次兄には言うまでもないと思いますが、我々は神都を騒がせたばかり、何とぞ自重されますよう」
「ふふふ、コヤンサンのようなことはせんよ」
みなひと笑いして、いよいよ出発することになった。三人が贈物を鞍に結わえ付けていたところに、長髯の巨人ハツチがやってきた。ナオルに二通の書簡を差し出すと、
「神都に着いたら、これをサノウとゴロ・セチェンに渡してもらいたい。ゴロについてはジュゾウが知っていよう」
「承知した。必ず届けよう」
「気を付けてな」
「ありがとう。では、参ろうか」
三人はそれぞれの愛馬にひらりと跨がって出立した。今回は急ぐ旅でもないので、道中はのんびりと歓談に興じながら進んだ。飽けば喰らい、渇けば飲み、夜は寝て、朝に発ち、途中格別のこともなく神都に着く。
「相変わらず人が多いな。ドクトは街に入るのは初めてだろう?」
ジュゾウが問えば、
「何やら雑然として落ち着かぬところだ。どうも性に合わん」
「そうだろう、そうだろう。ふふ、怖気づいたか?」
「まさか! 何ほどのことがあろう、このドクト様に怖いものなどないわ」
「ほう、声が上ずっているようだが」
「そんなことあるか、お前の耳が悪いんだ」
「こらこら、戯れている暇はないぞ。先生の家に参ろう」
漸くナオルが窘めたので、二人も務めを思い出す。