表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
草原演義  作者: 秋田大介
巻一
51/783

第一 三回 ③

インジャ天に祈りて聖廟に二将を裁き

ナオル書を携えて神都に賢者に(まみ)

 こうしてインジャのアイルはますます活況を呈し、士気は上天(テンゲリ)を衝かんばかりとなった。毎夜のように諸将は互いに招き合って(ボロ・ダラスン)を酌み交わし、親交を深めた。集まった宿星(オド)を数えれば総じて十三人、すなわち、


  フドウ氏   インジャ

         ハクヒ

         タンヤン

  ジョンシ氏  ナオル

         シャジ

  キャラハン氏 セイネン・アビケル

  ズラベレン氏 コヤンサン

         イエテン・セイ

         タアバ

  カムトタオ  ハツチ

         オガサラ・ジュゾウ

  カミタ氏   ドクト

  ドノル氏   テムルチ


 しかしこれはすべての宿星のほんの一部に過ぎない。このあといかなる好漢(エレ)が現れるかは、次第にお話しせねばならぬこと。




 (ハバル)が過ぎ、(ゾン)となった。インジャとその人衆(ウルス)は、アイルを引き払い、家畜(アドオスン)を追って、暑気を避けるべく高原へと移った。お決まりの宴の席でインジャが(はか)って言うには、


「諸事に追われて神都(カムトタオ)のサノウ先生にいまだ返礼(カリラ)ができていない。今年も無事に夏営地(ヂュサラン)に落ち着いたことだし、ここで人を()って先生にお礼を差し上げようと思うが、どうだろう?」


 みな賛成したので、あとは誰を()るかという話。諸将はそれぞれ行きたがったが、コヤンサンが真っ先に(ガル)を挙げたのには一同大笑い。セイネンが(さと)して諦めさせたが、ぷくっと膨れて黙り込み、それがまた諸将の笑いを誘う。


 結局、ナオルとジュゾウ(草原(ケエル)の暮らしに嫌気が差すどころか、ますます気に入っていた)、加えてドクトが選ばれた。


「わしも行きたいがなあ」


 ハツチがそうこぼすと、傍ら(デルゲ)のジュゾウが、


「お前のその巨躯では目立ってしょうがない。すぐに捕まるぞ」


 また一同は大笑い。




 何日かしてナオルら三人は旅装を整えてインジャに(まみ)えた。インジャのほうでは、セイネンやハクヒと(はか)って贈物(サウクワ)を揃えていた。


 すなわち、羊毛で(こしら)えた敷物、(とう)で編んだ籠、その中には美麗な刺繍の品々が納められ、加えて(カブラン)(シドゥ)の細工に山羊(ヤマア)の角笛、玉を(ちりば)めた帯鉤などなど。


「貧しい草原の民ゆえ、たいしたものは用意できなかったが、先生によろしく伝えてくれ」


 インジャはそう言ってナオルに書簡を預けた。

 拱手して答えて言うには、


「必ずお届けいたします」


 セイネンが言うには、


「次兄には言うまでもないと思いますが、我々は神都(カムトタオ)を騒がせたばかり、何とぞ自重されますよう」


「ふふふ、コヤンサンのようなことはせんよ」


 みなひと笑いして、いよいよ出発することになった。三人が贈物を(エメル)()わえ付けていたところに、長髯(オルトゥ・サハル)巨人(アヴラガ)ハツチがやってきた。ナオルに二通の書簡を差し出すと、


神都(カムトタオ)に着いたら、これをサノウとゴロ・セチェンに渡してもらいたい。ゴロについてはジュゾウが知っていよう」


承知した(ヂェー)。必ず届けよう」


「気を付けてな」


「ありがとう。では、参ろうか」


 三人はそれぞれの愛馬にひらりと(また)がって出立した。今回は急ぐ旅でもないので、道中はのんびりと歓談に興じながら進んだ。飽けば喰らい、渇けば飲み、夜は寝て、朝に発ち、途中格別のこともなく神都(カムトタオ)に着く。


「相変わらず人が多いな。ドクトは(バリク)に入るのは初めてだろう?」


 ジュゾウが問えば、


「何やら雑然として落ち着かぬところだ。どうも(チナル)に合わん」


「そうだろう、そうだろう。ふふ、怖気づいたか?」


「まさか! 何ほどのことがあろう、このドクト様に怖いものなどないわ」


「ほう、(ダウン)が上ずっているようだが」


「そんなことあるか、お前の(チフ)が悪いんだ」


「こらこら、戯れている暇はないぞ。先生の家に参ろう」


 (ようや)くナオルが(たしな)めたので、二人も務め(アルバ)を思い出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ