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草原演義  作者: 秋田大介
巻九
489/783

第一二三回 ①

イトゥク上将の傲岸に怒りて(にわ)かに叛し

セイヂュク友軍の背叛に諦めて自ら(ふん)

 さて、自ら志願してウリャンハタ迎撃に出立した三傑(ゴルバン・クルゥド)だったが、名将とは名ばかり、瞬く間(トゥルバス)に敗れ去った。すなわちタクネイは花貌豹サチに追われ、ハヤクムは牙狼将軍(チノス・シドゥ)カムカに斬られ、ミマンは百万元帥トオリルに謀られた。


 独り生き残ったタクネイは、運好くムラマン、イズム率いるゴコク軍と合流(ベルチル)した。もともと彼らは靖難将軍を称するイトゥクを討つべく派遣されたのだが、タクネイはこれを説いてウリャンハタ軍に当たらせようとした。


 最初は難色を示したイズムも、上卿がすでに西遷したことを聞いてこれを了承する。さらにタクネイが言うには、


「四千騎では死にに行くようなものだ。セイヂュク老と兵を併せたほうがよい」


 ムラマンがほうと嘆声を漏らして、


小僧(ニルカ)どもはそれほど強敵かね?」


 問えば、(ヌル)(ゆが)ませて、


「侮ることはできぬ」


 とだけ答える。彼らはタイクン軍を(もと)めて出発した。ゴコク軍の接近(カルク)を知ったセイヂュクは小躍りして喜んだ。


援軍(トゥサ)だ、援軍が来たぞ!」


 傍ら(デルゲ)のカヌンもこれを祝したが、内心思うに、


「あの上卿どもが援軍など送るわけがない。何か裏があるのだ」


 ともかく両軍は合流を果たし、本営(ゴル)(まみ)えた。タクネイの姿(カラア)を見出してタイクンの諸将はおおいに驚く。聞けばすでに敗れたとのこと、慨嘆しないものはない。しかしタクネイは(ダウン)を大にして諸将を叱咤すると、


「心配は無用だ。すでに(ブルガ)の手は見切っている。万事この俺様に従えば、必ず勝利を得ることができよう」


 コンゴルは思わず進み出て言った。


「将軍、主力は我がタイクン軍ですぞ。今の言葉(ウゲ)は僭越と言うべきでしょう」


「何だと、俺を誰だか知らぬのか!」


 この態度には誰もが(フムスグ)(ひそ)める。たまらず冥王使ムラカムが、


「まあまあ、我らの敵はウリャンハタではないか。協力せねばなるまい」


 それでその場は何とか収まったが、結局のところ誰が主導するのか曖昧なままになってしまった。


 タイクン、ゴコク、シュガク、そしてイトゥクの義勇軍を併せると一万二千騎を超える大軍となった。しかし彼らは(アマン)では協力を唱えながらも、一人が突出するのを嫌って互いに牽制し合うばかりであった。


 それでもセイヂュクはおおいに意気揚がると言うには、


「これで小僧どもに復讐できるぞ!」


 コンゴルは不満も(あらわ)に口を開きかけたが、すかさずカヌンが(たしな)める。諸氏の混成軍はさまざまな思惑を秘めつつウリャンハタ軍を追った。麒麟児、花貌豹の軍勢はすでに幾日も前に北上していたのである。


 そのころ麒麟児シンは首を(かし)げて、知世郎タクカに言うには、


「かなり進んできたが一向に敵のオルドに達しない。なぜだろう?」


 すると答えて言うには、


「我らを恐れて遠く(うつ)ったに違いない」


 矮狻猊(わいさんげい)タケチャクが提案して、


「奸計があるやもしれぬ。ここは花貌豹らを待ってともに進んではどうだろう」


 みな賛成したのでタケチャク自ら後続に約会(ボルヂャル)(ガヂャル)を告げるべく発った。シン・セクらは(トイ)()いて兵馬を休めた。


 タケチャクは広大(ハブタガイ)平原(タル・ノタグ)を一心に駆けていたが、ふと彼方に砂塵の舞い上がるのを見て(いぶか)しく思うと、慎重な足取りで近づいていった。


 するとそれこそ「靖難救国社」を先駆け(ウトゥラヂュ)としたクル・ジョルチ軍であった。すぐに報せねばとて馬首を(めぐ)らすと、来た(モル)を急いで引き返す。往路に倍する速さで戻ると、本営に駆け込んで、


「敵が来るぞ! 数は一万騎(トゥメン)以上」


(トグ)は?」


 タクカが問えば、ふふと笑って、


「それがひととおりではないのだ。例の老公のものが多かったが、半分(ヂアリム)は見たこともない旗だった」


「……ふうむ、援軍を得たかな?」


 考え込もうとするタクカを制して、シンは立ち上がると、


「迎撃の用意を。すぐに発つぞ。俺は待つのは嫌いなんだ」


 一刻後には早くも騎兵ことごとく揃って下命を待つばかりとなった。それを満足そうに眺め回して、


「よし、今度こそ老公の首を奪ってやろうではないか!」


 喊声が巻き起こり、軍鼓が高らか(ホライタラ)に鳴り響く。ネサク軍から順に整然と動きはじめる。あとは快足をいかんなく発揮してたちまち敵影を望む。

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