第一二〇回 ④
四頭豹トオレベを弑逆して幼主を奉じ
超世傑クリルタイに登極して人衆を靖んず
さてそのころ、西原では衛天王エルケトゥ・カンが諸将を召集して北伐を議していた。先年の南征の失敗もクル・ジョルチの冦難があったためである。不退転の決意をもってこれを覆滅せねば、部族の安寧が得られないことは自明の理であった。
カントゥカは諸将に告げて言った。
「この戦は、我が滅ぶか、彼が滅ぶかを決するものである。心してかかれ」
居並ぶ好漢たちはおうと喊声を挙げて応える。執政のヒラトより陣容が発表されたが、そこには動員しうるすべての軍が連なっていた。イシ、カムタイに数千、留守に数千を残すばかり。すなわち、
中 軍 一万二千騎
衛天王 エルケトゥ・カン
聖 医 アサン・セチェン
潤治卿 ジュン・ヒラト
奇 人 チルゲイ
渾沌郎 ボッチギン
妖豹姫 エミル・ガネイ
先 鋒 八千騎
麒麟児 シン・セク
知世郎 タクカ
牙狼将 カムカ・チノ
矮狻猊 タケチャク・ヂェベ
第二軍 五千騎
花貌豹 サチ
神道子 ナユテ
蒼鷹娘 ササカ
娃白貂 ジュチ・クミフ
笑破鼓 クメン
第三軍 一万騎
一角虎 スク・ベク
竜騎士 カトメイ
急火箭 ヨツチ
総軍三万五千、従う将領は十八人である。イシには雪花姫カコが、カムタイには紅大郎クニメイが在って臨時の代官となった。
また兵站はミヤーン、銀算盤チャオ、瑞典官イェシノルがこれを担い、鉄将軍ヤムルノイが留守地の防衛を指揮する。
さらに中原の盟友、ジョルチ部にこれを報せれば、即座に援軍を編成して派遣することを約した。誰が選ばれたかと云えばすなわち、
胆斗公 ナオル
百万元帥トオリル
癲叫子 ドクト
雷霆子 オノチ
赫彗星 カンシジ・ソラ
隼将軍 カトラ
鳶将軍 タミチ
石沐猴 ナハンコルジ
以上八人、率いる兵は八千騎である。約会の日、約会の地を定めて西原に赴くことになった。
またメンドゥの渡し場には紅火将軍キレカが兵を集中して不測の事態に備えた。余の諸将もいつでも呼集に応じられるよう物心両面の準備に余念がない。
まさに奸賊あらば眠り安らかなるを得ず、冦徒あらば和を楽しむこと能わずといったところ。後顧の憂いを断つべく兵馬群がり起こったわけだが、これこそのちに語り継がれる両個の北伐の一にして、黄金の僚友の禍福を占う一戦となる。果たして、ウリャンハタの北伐はいかなる顛末を辿るか。それは次回で。