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草原演義  作者: 秋田大介
巻一
44/783

第一 一回 ④ <ジュゾウ登場>

サノウ二たび牢獄を訪れて好漢を知り

インジャ一たび諸士を率いて賢者に(まみ)

 ナオルが尋ねて言った。


「ハツチ殿にご家族(ゲルブル)は?」


「両親が健在だ」


「もし牢を破れば、ご両親もただではすみますまい」


 (フムスグ)(しか)めつつ答えて、


「それはハツチともども草原(ケエル)に連れていくしかない」


「得心していただけるでしょうか」


「ハツチには私から話しておく。両親は牢破りより先に連れ去るほかあるまい」


 一同は等しく(セトゲル)を痛めたが、ほかに良い思案もない。サノウが言うには、


「これも運命(ヂヤー)、しかたあるまい」


 そのあとは主客分かれて(ボロ・ダラスン)を酌み交わし、親交を深めたが、くどくどしい話は抜きにする。




 翌日、サノウとセイネンは、ともに牢へと赴いた。セイネンは装いを改め、サノウの弟子といった(てい)である。


 事前に(はか)って、コヤンサンには会わず、ハツチだけに事情を告げることにした。というのも、単純なコヤンサンに知らせてことが破れるのを恐れたのである。


 ハツチはセイネンを紹介されて事情を説明されると、当初は頑として拒絶した。サノウから懇々と説かれてついに(バリク)を捨てる(はら)を固めたが、嘆じて言うには、


「ああ、わしは何という不孝ものだ。己の不明から(バリク)を捨てることになるなんて……。何とお詫びすればよいか。草原の暮らしは厳しいと聞く。わしの老いた親が堪えられるだろうか……」


「諦めろ。インジャ殿はお前を決して粗略には扱わぬだろう」


 セイネンもまた口を極めてこれを説いたので、(ようや)く平静を取り戻す。(ウドゥル)が決まったらまた知らせることにして別れを告げた。帰途、セイネンが言うには、


「ハツチとやら、風貌(ガタル)を見ても並のもの(ドゥリ・イン・クウン)ではないな」


 サノウはあまり興味がなさそうな調子で、


「まあ、役には立つだろう。ここでは市の役人(ドゥシメット)などしておったが、本来は経綸の才がある男だ」


 セイネンはおおいに感心していたが、ふと話題を転じて、


「ところで、あの牢獄。破るのは至難の業と見たが、どうだ?」


「それはそうだ。易く破れる牢などない」


 あれやこれや話しながら歩いていると、前方から小柄な人物が近づいて(ダウン)をかけてくる。サノウは立ち止まると言った。


「おお、ジュゾウではないか」


 その人となりはと言えば、


 身の丈は七尺足らずも、(ニドゥ)には異様な光を(たた)え、(アマン)は薄紅を引いたがごとく、胸板(オモリウド)は盛り上がって鎧のごとく、身のこなしは林間の(さる)を思わせる異形の人物。


 セイネンはただものではないと直観して、


「あれは誰だい?」


「オガサラ・ジュゾウというもので、表向きは建具屋などしているが、裏では巷の好漢(エレ)と交わり一目置かれている。身が軽い上に数多の異能(エルデム)を備えているところから世間(オルチロン)では『飛生鼠』もしくは『五技鼠』などと渾名(あだな)されている」


「へへ、あんまり(おだ)てないでくださいよ。先生に渾名を呼ばれると何だか背中(ノロウ)が痒くならあ」


 すると俄かにサノウは(ガル)()って、珍しく満面に笑みを浮かべた。


「そうだ、お前がいれば容易(アマルハン)にことは成るぞ」


 ジュゾウは何か感づいたらしく、にやりと笑うと、


「困ってることがあれば何でもするぜ。建具屋よりそっちが本業なんだ」


「じゃあ、すぐに私の家に来てくれ」


「ほっほ、珍しい。先生が自ら人を招くなんて」


 連れ立って帰って、ひととおり挨拶をすませると、サノウが言うには、


「これからことを(はか)るわけだが、ジュゾウの手を借りられるなら、何も案ずることはない」


 その胸宇にはすでに計略が成っているようである。まさに一朝人に()えば事態は好転し、人の(クチ)がなければいかなる計略も為しがたいといったところ。さてジュゾウの手を借りて為す計略とは何であるか。それは次回で。

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