第一 一回 ①
サノウ二たび牢獄を訪れて好漢を知り
インジャ一たび諸士を率いて賢者に見ゆ
さて、コヤンサンが神都にて大失態を演じて囚われてしまったという報せを受け、みな等しく頭を抱えた。仲間を増やすどころか、一人失うかもしれない有様。何としても救い出さねばならぬが、誰も良い知恵が浮かばない。
それもそのはず、セイネン以外は神都へ行ったことすらない。諸将にとってはまさに雲を把むような話。果たしてその日は唸るばかりで暮れてしまった。セイネンは帰ってから寝るのも忘れて知恵を絞った。
翌朝、セイネンは目を腫らしてインジャのゲルに現れた。
「どうだ、何か思いついたか」
問われて険しい表情で言うには、
「機会は一度しかありません。神都では毎年、正月に盛大に祭を行います。諸方から大勢の人が集まりますから、これに混じって街に入り、騒ぎに紛れて救い出すのです。失敗すればもう乗じる隙はないでしょう。祭のある七日間が勝負です」
「それしかないと言うなら、そうするほかあるまい。何人必要だ?」
「せいぜい三、四人でしょう」
するとインジャは頷いて、
「よし、私も行こう。ナオルも連れていく」
「義兄が自らとは危うくありませんか」
断乎として言うには、
「いや、そもそも街を見たことがあるものが少ない。私が行かねばなるまい」
セイネンはほっと安堵の表情で、
「実は私も義兄にともに行ってくれるよう嘱もうと考えていたのです」
「よし、では諸将を呼んで、ことを諮ろうではないか」
早速諸将が集められる。誰から聞いたのか、ハクヒまで負傷を押してやってきた。インジャも神都へ潜入すると聞いて、そのハクヒが真っ先に反対したが、ナオルがこれを説き伏せる。
結局、インジャ、ナオル、セイネンの三人の盟友が神都へ向かうことになった。それでもハクヒはなお危惧して、ついに言うには、
「若君、私も参ります」
「お前はまだ療養中の身ではないか。無理はさせられぬ」
諸将も代わる代わる諫めたが、頑として聞き入れない。漸くインジャが折れて、ハクヒも連れていくことになった。
神都行の間、シャジとタンヤンは変事に備えて人衆をまとめて移動し、タロト部の牧地の近くにアイルを置くことにした。
「何かあったらジェチェン・ハーンに早馬を送れ。きっと力を貸してくれよう。我々のことは心配ない。きっとコヤンサンを連れて帰るからあとを嘱む」
「くれぐれも無理はなさらぬよう。アイルは私とタンヤンにお委せください」
こうして四人は一路、神都へと向かった。ところでなぜ街で育ったタンヤンではなくナオルが加わっているのか、訝しく思われるかもしれないが、これはナオルの胆力と機知を買ったのである。
それはさておき、神都ではゴロ・セチェンがサノウの家で話し込んでいた。
「裁判は年始に行われるとか。昨日ハツチに会ったら、今回は祭を見ることができぬなどとこぼしておったわ」
サノウはふんと鼻を鳴らすと、爪を噛みつつ言うには、
「祭はいつからだ?」
呆れながら答えて、
「まったく世事に疎い奴だ。毎年正月の三日からだ。ちょうど十日後だな」
「ふうむ……」
二人とも溜息を吐いて黙り込む。やがてどちらからともなくハツチの様子を見に行こうという話になった。
牢獄は中央の官庁とは別に、街の西端にあった。周りには高さ二丈の塀が環らせてあり、門はふたつ、前には常時数名の衛兵が立っている。正門前には広場があったが、そこは刑を執行する場所である。
二人は正門の前でまずは衛兵に挨拶した。無論、高名な二人の顔は知っていて、
「これはお二方、揃っておいでですか。あいにくどなたもお通しできませんが」
するとゴロは懐中から銀錠を取り出して、
「少ないが、これで酒でも買ってくれ」
衛兵はにやにやしながら小声で、
「半刻だけですぞ。ほかならぬゴロ様の頼みとなれば、聞かないわけにもいきませんや」
そう言ってそっと二人を中へ導き入れると、先に立ってハツチの牢へと案内する。サノウは聞こえぬようにゴロに毒づいて、
「ゴロの頼みではなく、銀錠の頼みだろうが」
「しっ。我々も規則を犯して面会できるのだからお互いさまだ」