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草原演義  作者: 秋田大介
巻一
41/783

第一 一回 ①

サノウ二たび牢獄を訪れて好漢を知り

インジャ一たび諸士を率いて賢者に(まみ)

 さて、コヤンサンが神都(カムトタオ)にて大失態を演じて(とら)われてしまったという報せを受け、みな等しく(テリウ)を抱えた。仲間(イル)を増やすどころか、一人失うかもしれない有様。何としても救い出さねばならぬが、誰も良い知恵が浮かばない。


 それもそのはず、セイネン以外は神都(カムトタオ)へ行ったことすらない。諸将にとってはまさに(エウレン)(つか)むような話。果たしてその(ウドゥル)は唸るばかりで暮れてしまった。セイネンは帰ってから寝るのも忘れて知恵を絞った。


 翌朝、セイネンは(ニドゥ)を腫らしてインジャのゲルに現れた。


「どうだ、何か思いついたか」


 問われて険しい表情で言うには、


機会(チャク)は一度しかありません。神都(カムトタオ)では毎年、正月(ツェゲン・サラ)に盛大に祭を行います。諸方から大勢の人が集まりますから、これに混じって(バリク)に入り、騒ぎに(まぎ)れて救い出すのです。失敗すればもう乗じる隙はないでしょう。祭のある七日間が勝負です」


「それしかないと言うなら、そうするほかあるまい。何人必要だ?」


「せいぜい三、四人でしょう」


 するとインジャは頷いて、


「よし、私も行こう。ナオルも連れていく」


「義兄が自らとは危うくありませんか」


 断乎として言うには、


いや(ブルウ)、そもそも(バリク)を見たことがあるものが少ない。私が行かねばなるまい」


 セイネンはほっと安堵の表情で、


「実は私も義兄にともに行ってくれるよう(たの)もうと考えていたのです」


「よし、では諸将を呼んで、ことを(はか)ろうではないか」


 早速諸将が集められる。誰から聞いたのか、ハクヒまで負傷を押してやってきた。インジャも神都(カムトタオ)へ潜入すると聞いて、そのハクヒが真っ先に反対したが、ナオルがこれを説き伏せる。


 結局、インジャ、ナオル、セイネンの三人の盟友(アンダ)神都(カムトタオ)へ向かうことになった。それでもハクヒはなお危惧して、ついに言うには、


「若君、私も参ります」


「お前はまだ療養中の身ではないか。無理はさせられぬ」


 諸将も代わる代わる諫めたが、頑として聞き入れない。(ようや)くインジャが折れて、ハクヒも連れていくことになった。


 神都(カムトタオ)行の間、シャジとタンヤンは変事に備えて人衆(ウルス)をまとめて移動(ヌーフ)し、タロト部の牧地(ヌントゥグ)の近くにアイルを置くことにした。


「何かあったらジェチェン・ハーンに早馬(グユクチ)を送れ。きっと(クチ)を貸してくれよう。我々のことは心配ない。きっとコヤンサンを連れて帰るからあとを(たの)む」


「くれぐれも無理はなさらぬよう。アイルは私とタンヤンにお(まか)せください」


 こうして四人は一路、神都(カムトタオ)へと向かった。ところでなぜ(バリク)で育ったタンヤンではなくナオルが加わっているのか、(いぶか)しく思われるかもしれないが、これはナオルの胆力(スルステイ)機知(アルガ)を買ったのである。




 それはさておき、神都(カムトタオ)ではゴロ・セチェンがサノウの家で話し込んでいた。


「裁判は年始に行われるとか。昨日ハツチに会ったら、今回は祭を見ることができぬなどとこぼしておったわ」


 サノウはふんと(ハマル)を鳴らすと、(ホムス)を噛みつつ言うには、


「祭はいつからだ?」


 呆れながら答えて、


「まったく世事に(うと)い奴だ。毎年正月の三日からだ。ちょうど十日後だな」


「ふうむ……」


 二人とも溜息を吐いて黙り込む。やがてどちらからともなくハツチの様子を見に行こうという話になった。


 牢獄は中央(オルゴル)の官庁とは別に、(バリク)の西端にあった。周りには高さ二丈の塀が(めぐ)らせてあり、(エウデン)はふたつ、前には常時数名の衛兵(エウデチ)が立っている。正門前には広場があったが、そこは刑を執行する場所である。


 二人は正門の前でまずは衛兵に挨拶した。無論、高名(ネルテイ)な二人の(ヌル)は知っていて、


「これはお二方、揃っておいでですか。あいにくどなたもお通しできませんが」


 するとゴロは懐中(エブル)から銀錠(スケス)を取り出して、


「少ないが、これで(ボロ・ダラスン)でも買ってくれ」


 衛兵はにやにやしながら小声で、


「半刻だけですぞ。ほかならぬゴロ様の頼みとなれば、聞かないわけにもいきませんや」


 そう言ってそっと二人を中へ導き入れると、先に立ってハツチの牢へと案内する。サノウは聞こえぬようにゴロに毒づいて、


「ゴロの頼みではなく、銀錠の頼みだろうが」


「しっ。我々も規則(ハウリ)を犯して面会できるのだからお互いさまだ」

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