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草原演義  作者: 秋田大介
巻一
40/783

第一 〇回 ④

コヤンサン便(すなわ)ち泥酔して大いに神都を賑わし

ハツチ()た不運にして俄かに冤罪を受く

 ゴロは烈火(ガルチュ)のごとく怒って言った。


「あの阿呆(アルビン)が捕まるのは自業自得だが、ハツチまで巻き込むとは(ゆる)せぬ。だから関わるなと言ったんだ。サノウ、何か良い思案はないか」


 尋ねられたが、ううむと唸ったきり何か言い出すでもない。ゴロは苛立って、


「そもそも君を訪ねてきた(ヂョチ)が起こした騒ぎだ。何とかしろ」


 これには答えて言うには、


「無理を言うな。ハツチは不憫だがな。まあ、無実なんだから焦らず辛抱しているよりほかあるまい。そのうち冤罪と判るだろう」


 そのとき、飲み食いしていた役人(ドゥシメット)たちが席を立った。


「さあ、そろそろ休憩は終わりだ」


 さすがのゴロも見送るしか術がない。サノウは思うところがあるのかないのか無表情。ともかく冤罪が晴れるのを祈るばかりといったところ。




 話は変わってコヤンサンを見失った従者(コトチン)はどうしたか。うろうろしているうちに偶々(たまたま)チュイク婆さんの一件を耳にして、さてはと思いそっと(エチネ)から覗いてみれば、まさにコヤンサンが捕まっているではないか。


 やきもきしていると今度はハツチが捕らえられたと知り、大変なことになったと血の気が引く。あわてて駈けだすと、その(ウドゥル)のうちに(バリク)を出て(ムレン)を渡った。


 一心に駆けて、十日の道程を八日で走破すると、急いでセイネンを訪ねた。


「おお、早いではないか。首尾はいかがであった。コヤンサンはどうした、ちゃんと戒めを守って務め(アルバ)を果たしたか」


 そこで汗を飛ばしながら神都(カムトタオ)でのできごとを()(つま)んで話せば、セイネンの顔色がさっと変わる。


「コヤンサンが捕まったって? こうしてはおれん、すぐに義兄のもとに参ろう。お前はみなの前でもう一度今の話をしてくれ」


 側使い(エムチュ)に諸将へ事の次第を伝えるよう命じると、従者を伴ってインジャのゲルへ向かった。


 インジャはちょうどナオルと談笑しているところであったが、セイネンが血相を変えて飛び込んだきたので、驚いて話を中断する。


「義兄、大変なことになりましたぞ!」


「どうした。敵襲か?」


 首を振って、


「そうではありませんが、一大事には違いありません。早急に手を打たないと……」


 そう言ううちにもタンヤン、シャジが駆けつける。ハクヒは先の(ソオル)で負った矢傷のため静養中であり、ズラベレン氏の二将はズレベン台地に帰っている。


 セイネンは(くだん)の従者を呼んで、(バリク)での顛末(ヨス)をもう一度話させた。居並ぶ諸将で驚かぬものとてなく、たちまち大騒ぎになった。


「だからコヤンサンを()るのは反対だったんだ」


「しかしセイネン、今は悔やむよりもどうやって救出するかが先決だろう」


 ナオルの言葉(ウゲ)にみな騒ぐのをやめる。セイネンも深呼吸して智恵を(めぐ)らしはじめた。インジャが尋ねて、


「コヤンサンがすぐにも処刑されるようだと急がねばなるまい」


 セイネンが小考して言うには、


「……もうすぐ(ヂル)が替わります。神都(カムトタオ)では年初と年末には処刑を行いません。処刑は二月か三月に行うもの」


 ナオルが尋ねて、


「というと、いつごろになる」


「四十日か、五十日後のことかと……」


 インジャが念を押して、


「では、しばらく殺されることはないのだな」


「おそらく……」


 としか答えようがない。シャジが()れて言うには、


「全軍挙げて神都(カムトタオ)に臨み、引き渡しを要求しましょう!」


「無謀を言ってはいけない。ご存知ないかもしれんが、神都(カムトタオ)の防備を侮ってはいけません。しかも神都(カムトタオ)までの(モル)にはベルダイ左派(ヂェウン)や、先に破った右派(バラウン)の残党が割拠しています。兵を動員すればいたずらにことを荒立てるばかり。ここは兵を用いず、密かに助け出さなければうまくいかないでしょう」


「ではどうする?」


 インジャの問いに、さすがのセイネンも即答できずに俯いてしまう。かといって他の諸将が名案を出せるわけもない。まことに一人の過ち(アルヂアス)から災いは天下に広がるといったところ。


 神都(カムトタオ)について知るのはセイネンばかり。果たしてコヤンサンを助ける良い智恵が浮かぶであろうか、そして(とら)われの身となったコヤンサンはどうなるか、はたまた巻き込まれたハツチは冤罪を晴らすことができるだろうか。それは次回で。

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