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草原演義  作者: 秋田大介
巻七
397/783

第一〇〇回 ①

獅子北に遊んでインジャと旧交を温め

義君西に幸してタムヤに軍事を議す

 さて獅子(アルスラン)ギィは、記憶を失った黒鉄牛(ハラ・テムル・ウヘル)バラウンの件を神道子ナユテに(はか)るために、蓋天才ゴロとともにジョルチ部を訪ねた。マシゲル部には、ナユテが花貌豹サチと結婚して西原へ移ったことは伝わっていなかったからである。


 ナオル、マルケに先導されて二人はオルドの戸張(エウデン)をくぐった。


「おお、ギィ殿! お久しぶりです」


 インジャが嬉々としてこれを迎える。傍ら(デルゲ)にはもちろん鉄鞭(テムル・タショウル)アネク・ハトン。やはり笑顔で客人(ヂョチ)を歓迎する。


「突然お騒がせして申し訳ありません」


 拱手して挨拶すれば、早速席を勧められる。主客分かれて相対すると、侍女(チェルビ・オキン)(ボロ・ダラスン)を注いで回る。居並ぶ好漢(エレ)はほかに十二人。


 すなわち胆斗公(スルステイ)ナオル、獬豸(かいち)軍師サノウ、百策花セイネン、百万元帥トオリル、美髯公(ゴア・サハル)ハツチ、長韁縄(デロア・オルトゥ)サイドゥ、飛生鼠ジュゾウ、鑑子女テヨナ、白面鼠(シルガ・クルガナ)マルケ、小白圭シズハン、飛天熊ノイエン、長旛竿(オルトゥ・トグ)タンヤンの面々。


 獅子を知るものは懐かしく、知らぬものは興味津々で、天下に名高い英傑(クルゥド)を観察する。ひととおり乾杯がすむとインジャが言った。


「いったいどうしたのですか。事前に知らせてくれれば、諸将を集めて盛大にお迎えできましたものを」


いえ(ブルウ)、急に思い立って来たものですから」


 アネクが嫣然と微笑んで、


「アンチャイは息災ですか(メンドー)?」


はい(ヂェー)、変わりありません。アネク殿も相変わらずお美しい」


 莞爾として答えれば、(ハツァル)を染めて、


「獅子殿は口がお上手(ビルヂウル)になりましたね」


 これには一同大笑い。ゴロはハツチに(ニドゥ)を留めると、


「おお、お前は変わらず立派な(サハル)だな。だいぶ貫禄がついてきたではないか」


 ジュゾウが揶揄(からか)って、


「ハツチは子ども(ニルカ)のころから(ヌル)だけは貫禄十分だったからな」


(やかま)しい!」


 また座は笑いに包まれる。ギィはふと顔つきを改めて、きょろきょろと左右を窺うと、


「実は神道子に用があったのですが、姿(カラア)が見えませんな」


 インジャが応じて、


「もう神道子はここにはおりません」


 驚いて目を見開くと、


「えっ、どちらへ?」


「ご存知ありませんでしたか。昨年、ウリャンハタの(オキン)と結婚して西原へ移ったのです」


「ウリャンハタへ?」


 ギィとゴロはおおいに意表を衝かれる。そこで例の花貌豹との一件を詳しく述べれば、おおいに感心して、


世間(オルチロン)にはアネク殿のような女性がたくさんあるものですね」


「それはどういう意味ですか?」


 アネクがきっと睨めば、ギィは、


「ほら、そういう意味です」


 すまして答える。インジャは苦笑して、


「あまりハトンを怒らさぬよう、お願いします」


「ははは、天下の英雄ジョルチン・ハーンも、ハトンには(テリウ)が上がりませんか」


 そこでナオルが話を戻して言うには、


「神道子にはいかなる用があったのですか? よろしければ教えてください」


 ギィはゴロと顔を見合わせたが、やがてバラウンについて語りはじめる。聞き終わった好漢たちは等しくううむと唸る。


「といった次第で神道子の智恵を拝借しようと思ったわけです」


 サノウが言うには、


「わざわざマシゲルのハーンともあろう方が(フル)を運ばずとも、使いを()ってくだされば神道子を差し向けたのですが」


いや(ブルウ)、こちらが忙しい(ザウグイ)ところをお願いするのですから。それにハーンといっても私が統べる人衆(ウルス)は僅かです」


 ゴロが(フムスグ)(ひそ)めて、


「しかしこちらにいないとなるとどうします? 西原まで参りますか」


「無論」


 間髪入れず即答する。

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