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草原演義  作者: 秋田大介
巻七
370/783

第九 三回 ②

ダマン姦通に罪を得て権勢を虚しくし

イハトゥ凶報に算を乱して甲馬を(つら)

 ダマン処刑の報を聞いて、ムジカはテンゲリを仰いだ。言うには、


「やられた! あの奸婦め、ついにダマン様にまで奸計を及ぼしたか!」


 深い絶望に立っていることすらできず、タゴサがあわてて支える。しばらくはがっくりとうなだれて何をすることもできない。そこへ諸将が何ごとかと駆けつける。マクベンが尋ねて、


「超世傑、いったいオルドの使者は何と?」


 ムジカは(アマン)の中でぶつぶつと呟く。


「えっ、何だって?」


 重ねて問えば、やおら立ち上がると今度ははっきりと、


「……ダマン様が、処刑された」


 座は一瞬しんとなる。それを破ったのはやはり皁矮虎(そうわいこ)


「そんなっ、(ウネン)か!? なぜ、なぜダマン様が……」


 それを機に誰もがわあわあと騒ぎだす。


「静まれ!」


 ひと声でみな口を閉ざす。オンヌクドを顧みて、


「蓋天才の懸念は遺憾ながら(バイ)を射ていた。ハーン自ら死刑を告げたらしい」


「でも、なぜ!」


 アルチンが叫ぶ。ムジカは(ニドゥ)を閉じて答える。


「罪状は明らかにされていない。ただ死刑、と」


「そんな……」


 一同息を呑む。オンヌクドが進み出て言った。


「私がオルドへ赴き、内情(アブリ)を探ってまいりましょう」


「そうしてくれ」


 マクベンは(ヌル)を真っ赤にして拳を振り回すと、


「内情も何もあるものか! 公主と四頭豹が謀ったに決まってる! まだじっとしていろって言うのか!」


 ムジカが無言で頷けば、また騒然としはじめる。温和なはずのアルチンですら激昂(デクデグセン)している。そこで言うには、


「軽挙は許さぬ。これは命令(カラ)だ。(そむ)いたものは罰する。奔雷矩(ほんらいく)が帰るのを待て」


 諸将を解散させると、再び崩れるように腰を下ろす。タゴサがそっと(ムル)(ガル)を置いて言った。


「ムジカ、あなたは族長(ノヤン)よ。こういうときこそしっかりしなくては……」


「解っている、心配するな。神風将軍(クルドゥン・アヤ)らと事後を(はか)ろう」


 すぐに神風将軍アステルノ、紅火将軍(アル・ガルチュ)キレカ、碧水将軍(フフ・オス)オラル、そしてマシゲルに拠る赫彗星ソラに早馬(グユクチ)が放たれた。


 昼夜兼行した使者たちが帰るころには、ムジカは落ち着きを取り戻していた。セント氏のアイルに行ったものは、何とアステルノを伴って帰ってきた。驚いてこれを迎えると言うには、


「アイルを離れてはまずかろう。血気に(はや)るものを抑えねば……。いや(ブルウ)、それもあるが、不用意な行動を亜喪神に知られたら……」


(やかま)しい。人衆(ウルス)は俺の許可なく動くことはない。亜喪神? 知ったことか!」


 断りもせずに一席を占めると、タゴサに向かって言うには、


(アルヒ)を出せ」


「厚かましい奴だね。言われなくてもわかっているよ」


 酒食を並べると早速喰らいつつ、


「超世傑よ、それにしてもまずいことになったな」


「まったくだ。よもやダマン様が処刑されるとは思っていなかった。実はマシゲルのゴロ・セチェンが警告してくれたのだが、一歩及ばなかった」


 詳しく述べればアステルノは慨嘆して、


「智恵さえあれば四頭豹ごときの好きにはさせぬのだが。揃いも揃って俺たちは阿呆(アルビン)だ」


 タゴサも悔しそうに言う。


「せめて奇人殿か神道子の半分(ヂアリム)でも賢ければね」


「ないものはしかたない。これからどうするか、だが……」


「紅火将軍の意向(オロ)は?」


「まだ早馬が戻らぬ。おそらくキレカは動静を見守るだろう。彼自身、ダルシェの件でハーンに快く思われていないしな」


「ああ、まったくおもしろくない(ソニルホルグイ)!」


 アステルノは吐き捨てると、ぐいと杯を干す。そこへマクベンが押しかけてきて顔を見るなり、


「おお、神風将軍。決起の相談に来たのか!」


 呆れてムジカを見遣(みや)れば、困惑した表情で首を振る。マクベンに視線を戻すと言うには、


「お前は阿呆か。超世傑を困らせるな。あまり騒ぐと人衆も惑うだろう」


「だがこれ以上の横暴を……」


「わかった、わかった。ああ、俺だって(ゆる)さぬさ。だがな、ここで騒げば四頭豹の狙いどおりってのがどうしてわからんのだ。(テリウ)が痛いよ、俺は」

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