第八 九回 ①
タムヤに三雄会盟して東西和合し
ホアルンに両賈躍動して南北相通ず
さてジョルチ部とウリャンハタ部の会盟の日は定まり、義君ジョルチン・ハーンは僚友を率いてタムヤに入城した。新たに建設された渡し場を検分したあと、マタージ・ハーンの歓待を受ける。
翌日、予定どおり衛天王エルケトゥ・カンは諸将を引き連れてやってきた。インジャらは親しく西門でこれを迎える。西原の英傑たちは、華やかに飾られた大船に乗って無事にタムヤに入った。
降り立ったカントゥカは、チルゲイらの紹介でインジャと顔を合わせて礼を交わす。宮城に誘われると、席を分かってお決まりの宴となる。居並ぶのは錚々たる面々。和やかな空気のうちに終了し、翌日の会盟に備えてそれぞれ眠りに就く。
夜が明ければいよいよ当日である。会盟は城外に築かれた祭壇で行われる。仔細についてはすでに細かな話し合いがすんでいる。
三部族の好漢たちは早朝城を出て、祭壇へ向かった。壇上に上がるのはそれぞれのハーンと、数名の股肱だけである。
ジョルチ部からは、赤心王ジョルチン・ハーン、胆斗公ナオル、獬豸軍師サノウ、鉄鞭アネク・ハトンの四名。
ウリャンハタ部からは、衛天王エルケトゥ・カン、聖医アサン、潤治卿ヒラト、奇人チルゲイのやはり四名。
タロト部は、通天君王マタージ・ハーン、左王ゴルタの二名。
ほかに巫人として神道子ナユテ、進行の補佐に雪花姫カコ、美髯公ハツチが登壇の栄誉を担う。以下の将領は整然と左右に分かれてこれを仰ぐ。
祭壇は東西南北を底辺とし、北を除く三方に階段が設けられている。高さは一丈、上辺は三丈四方、下辺は六丈四方の台形である。四隅には燭台が立ち、炎が揺れる。壇上中央には石の台座の上に平たい玉杯が置かれている。
厳かに楽隊の演奏が始まり、胡弓の調べが風に乗って流れる。東からジョルチ部、西からウリャンハタ部、南からタロト部の代表がそれぞれ壇上に登って席に着く。そのあとから神道子ら三名が続いて、準備は整う。
胡弓の演奏がそっと終わり、群衆の緊張した吐息だけが微かに聞こえる。
三方の好漢は立ち上がって互いに拝礼する。再び着座するとまずは同盟の細かな条件が確認されたが、三人のハーンは黙って座っている。発言するのはサノウやアサンなど僚友たち。
いわく、メンドゥを境界として互いの牧地を犯さないこと。いわく、タムヤは両部族が自由に、かつ安全に利用できるよう、タロト部が責務として管理すること。いわく、城塞改築に費やされた物資についてはジョルチ部が負担すること。
まずはこうした基本的な案件が承諾される。また、一方が他部族に侵犯されたときは兵糧物資などの援助をすること、請われたときには速やかに一軍を派遣することなど、戦時に関する条項が確認された。
そして何より重要なのは、共通の敵であるヤクマン部を、三年以内に連合して伐つことが公式に決められたことである。さらにサノウが言うには、
「事前に予定されたことではありませんが、ひとつ提案があります」
ヒラトがやや警戒しつつ何かと尋ねれば、
「東西を結ぶ道を開きたい。というのは、一日行程ごとに公共の駅舎を設けて、早馬の往来などに益しようというもの。替馬や糧秣を常備しておけば東西の連絡は円滑となり、急の事態にも速やかに対処できるようになるでしょう」
これにはヒラトも大喜び。早速実施を検討することを約した。無論その中心はタムヤになるはずである。
実はこれこそ「ジョルチン・ハーンの駅站制」の端緒となる。駅には駅站吏が常駐して往来する人を助け、急を告げる早馬のために替馬なども揃っていた。
またのちには常に早足のものが待機して、駅から駅へ交替で急報を伝えられるようになった。彼らは駅馬吏と呼ばれ、その馬は駅伝馬と称された。
これのおかげで不測の事態でもすぐに遠隔地まで知らせることができるようになった。ジョルチン・ハーンの騎兵が神出鬼没を謳われた背景には、駅站が深く与かっているのである。
また駅站によって、一般の隊商や旅人も安全に旅ができるようになったことも見逃せない。のちに草原全体に駅站が施行されると、ハーンの交付する割符が必要になったが、当初は小規模だったためか、駅は広く開放されて誰でも利用できた。
かくしてサノウの発議もすんなり通過した。確かめるべきことはすべて確かめられた。おおいに満足して礼を交わす。
そこでいよいよ巫人ナユテの登場である。懐中から宝珠を鏤めたひと振りの短剣を取り出すと言うには、
「永しえの天の力にて、定められた条項に遵うべく兄弟の契りを交わさん」