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草原演義  作者: 秋田大介
巻六
350/785

第八 八回 ②

花貌豹ナユテを援けて宴筵(えんえん)に大喝し

赤心王タムヤに入りて城塞を検分す

 それから数日のうちにオルドに参集した好漢(エレ)は、総じて二十八人。すなわち、



  赤心王  (フラアン・セトゲル)ジョルチン・ハーン

  鉄 鞭  (テムル・タショウル)アネク・ハトン

  胆斗公(スルステイ)  ナオル

  獬豸(かいち)軍師 イェリ・サノウ

  霹靂狼  トシ・チノ

  百策花  セイネン・アビケル

  百万元帥 トオリル

  癲叫子  ドクト

  九尾狐  テムルチ

  雷霆子(アヤンガ)  オノチ

  天仙娘  キノフ

  長韁縄 (デロア・オルトゥ) サイドゥ

  飛生鼠  オガサラ・ジュゾウ

  呑天虎  コヤンサン

  隼将軍(ナチン)  カトラ

  (えん)将軍  タミチ

  鑑子女  テヨナ

  白面鼠 (シルガ・クルガナ) マルケ

  豬児吏  トシロル・ベク

  石沐猴 (せきもっこう) ナハンコルジ

  金写駱  (アルタン・テメエン)カナッサ

  小白圭  シズハン

  飛天熊  ノイエン

  霖霪駿驥 (りんいんしゅんき)イエテン・セイ

  慈羝子(じていし)  コニバン

  旱乾蜥蜴 (かんかんせきえき)タアバ

  長旛竿 (オルトゥ・トグ) タンヤン

  往不帰  シャジ



 そこに加えてウリャンハタの好漢四人、すなわち、


  奇 人  チルゲイ

  雪花姫  (ツァサン・ツェツェク)カコ・コバル

  笑破鼓  クメン

  急火箭  ヨツチ



 インジャが言った。


「さあ、奇人殿。人は揃いましたぞ。一大事とやらを教えてください」


 応じて立ち上がると、にやにや笑いながら、


「よろしい。みなさんこれを聞けば非常に驚くことでしょう。しかし我らにとってまことに吉報、願わくばともに喜び、疑義を挟まないでいただきたい」


 ドクトが叫んで、


「もったいぶらずに早く言え!」


「ははは、相変わらず気が短い。迂直の計(注1)を学ぶ必要があるな」


 軽口を叩いてひとつ咳払いすると、好漢たちを見回して言うには、


「先日、神道子ナユテと、我がウリャンハタの誇る花貌豹サチがめでたく結婚いたしました。二人はジョルチン・ハーンに挨拶するべくこちらへ向かっております」


 満座のものは等しく驚愕する。それはカコ、ヨツチとて同じである。さすがの胆斗公ナオルも、これには思わず(ダウン)を挙げる。


 得々とした様子でチルゲイはさらに言った。


「これで両部族(ヤスタン)結束(ヂャンギ)はいよいよ堅くなりました。ハーンよ、この慶事に祝福(ベレク・デン)の言葉(ベルリイン・ウゲ)を!」


 インジャが驚きのあまりすぐには何も言い出せずにいると、一座の中からさっと立ち上がるものがあって言うには、


「お待ちください、祝福の言質(げんち)を与えてはなりません!」


 誰あろう、これぞ獬豸軍師サノウ。チルゲイは内心舌打ちする。インジャが(いぶか)しんで言った。


婚姻(ホリム)となれば慶事だ。なぜ祝福(ウチウリ)してはならぬのだ」


 サノウは答えて言った。


「神道子は、我がジョルチ部にとって欠くことならぬ人材。それをみすみす西原にくれてやるおつもりですか。今しばらく留保して当人の到着を待ち、事情(アブリ)を訊いたほうがよろしいかと存じます」


 途端に四方から、同意(ヂェー)否定(ブルウ)の声が澎湃(ほうはい)(注2)として沸き起こる。コヤンサンは大音声で、


(セトゲル)の狭いことを言うな! 黙って祝ってやれ!」


 ナハンコルジは羨望の(ドウラ)も濃く、


「まさか神道子は、西原で独り己のためにはたらいていたのではないか」


 トシロルが聞き(とが)めて、


「そうではあるまい。そもそも彼は草原(ケエル)の民ではない。どこで(エメ)を得ようとかまうまい」


 ジュゾウが立って言うには、


「それを言ったら何にもならぬが、ひと言くらい(はか)ってくれても良かったかなあ」


 鉄鞭のアネクこそ怒り(アウルラアス)心頭、


「私たちを愚弄しているわ!」


 ノイエンは巨躯を縮めて周囲を(なだ)めている。


「まあまあ、みなそう興奮しないで。ここは神道子の到着を待ってから……」


 イエテンはううむと唸って、


「問題がないこともないが、問題にするのもどうかと思う」


 トシ・チノが呆れて、


「何を言ってるか判らぬぞ」


 宴席は議論百出、侃々諤々(かんかんがくがく)(注3)、チルゲイは楽しそうにそれを眺めている。ナオルと(ニドゥ)が合ったので、にやりと笑ってみせれば、はっとした様子でインジャに(ささや)いて、


「実は私が西原から帰ってくる前から、ナユテのことは察していたのです」


 インジャは驚いて、


「そうなのか?」


「ただそのときはまだナユテが一方的に慕っていただけだったのです。よもやそこまで話が進んでいるとは……」


 インジャは頷いて考える風。ナオルは続けて言った。


「チルゲイと二人、もし神道子が想いを遂げたら西原へやるなどと戯言で話してはいたのです。帰ってすぐに報告するべきでしたが、まさか……」

(注1)【迂直の計】遠回りをすると見せかけて、敵より先に戦地に至り効果的に勝利を治める計略のこと。「迂」は回り道、「直」はまっすぐ。


(注2)【澎湃(ほうはい)】水が(みなぎ)って逆巻くさま。転じて、盛んな勢いで盛り上がるさま。


(注3)【侃々諤々(かんかんがくがく)】遠慮することなく発言すること。堂々と議論をすること。

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